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築室道謀に学ぶ世界と日本の家の歴史

築室道謀(ちくしつどうぼう)
→ 家を建てようと道行く人に相談していると、皆勝手なことを言うので結局家はできなくなってしまう意から、意見ばかりが多く、物事が実現しないことをいう。

人類が誕生した約700万年前、原始的な避難所として洞窟が使われたのが家の始まりといわれている。

当時の人類は過酷な自然環境の中で生き抜くため、外敵や悪天候から身を守る場所を求めた。

やがて、木の枝や動物の皮を使ってテントのような簡易的な住居を作るようになり、それが定住へと繋がっていった。
世界各地では、その土地の気候や利用可能な材料に適した多様な家が発展していった。

日本でも弥生時代(紀元前3世紀頃)から竪穴式住居が作られるようになり、平安時代には寝殿造、鎌倉時代には武士の住まいである武家屋敷が登場した。

室町時代になると書院造が生まれ、茶室や数寄屋建築へと発展。

江戸時代には、町人の住居である町家や、農村の民家などが各地で築かれた。

明治時代以降は、西洋の建築技術を取り入れた洋風住宅も広まっていった。

そして、江戸時代後期に生まれた「築室道謀」という言葉は、家を建てようと道行く人に相談すると、皆が勝手なことを言うので結局家が建てられなくなるという意味だ。

当時は大工だけでなく、施主や家族、近隣の人々も口出しをしたため、なかなか建築が進まなかったのだろう。

また、家相や方位、吉日などの風水思想も建築に大きな影響を与えていた。

現代でも、住宅建築では施主の希望と予算、建築家のデザイン、施工業者の技術力など、多くの意見の調整が必要とされる。

加えて、法規制や周辺環境との調和、ライフスタイルの変化への対応など、考慮すべき要素は増える一方だ。

築室道謀は家づくりの難しさを表す、示唆に富んだ言葉といえる。

しかし見方を変えれば、家づくりとは多様な価値観が交錯する、創造的な営みでもある。

地域性を活かし、新しい技術を柔軟に取り入れながら、その時代の理想の住まいを追求していく。

そこには、無限の可能性が秘められているのかもしれない。

世界各地の伝統的な家のスタイル

世界を見渡すと、実に多様な伝統的家屋が存在する。

それぞれの地域の気候風土や生活様式、文化的背景を反映した、個性豊かな住まいのカタチだ。

北極圏に住むイヌイットの伝統的な住居であるイグルーは、雪と氷で作ったドーム状の建物だ。

外気温が氷点下の厳寒でも、内部は体温や呼気、調理の熱などで意外と暖かく保たれる。

屋根の頂上に空気穴を設け、換気にも配慮されている。

シベリアのツンドラ地帯では、トナカイの毛皮で覆った円錐形のテント「チュム」が使われてきた。

竿を組んだ骨組みに毛皮を巻きつけるだけのシンプルな構造で、移動が容易だ。

北米の平原地帯に暮らすネイティブアメリカンは、バッファローの皮で作った天幕「ティーピー」に住んでいた。

上部に煙出しの穴を設け、中央には石で囲った炉が置かれる。

幾何学模様の装飾が美しい。

アリゾナやニューメキシコ州の砂漠地帯では、日干しレンガのアドベを積み上げたプエブロ建築が発達した。

屋上は生活の場として利用され、梯子で行き来する。塔のような独特の教会堂が集落のシンボルとなっている。

東南アジアの熱帯地域では、床を高く上げた高床式住居が主流だ。

湿気や洪水、害虫を避けるのに適している。

1階は物置や家畜小屋、作業場などとして使われ、2階が居住スペースとなる。

インドネシアのトラジャの伝統家屋「トンコナン」は、屋根が舟のように大きく反り上がった特徴的な造りだ。

正面には水牛の角をモチーフにした装飾が施される。

この屋根は、先祖を乗せた舟が天国へ向かうイメージを表しているという。

中国の中部や北部の農村では、レンガや土で築いた塀に囲まれた四合院が一般的だ。

四方を屋敷で囲んだ中庭式の間取りで、大家族が集まって暮らすのに適している。

屋根は南に向かって傾斜し、日光を取り込む工夫がなされる。

アフリカのサハラ砂漠周辺では、泥レンガ造りの集合住宅「カスバ」がみられる。砂漠の過酷な環境から身を守るため、壁は厚く、窓は小さい。

屋上は夜の生活や作業の場となる。

都市の中心にはモスクやマーケットがあり、要塞都市の様相を呈する。

日本の代表的な伝統民家としては、茅葺き屋根の農家や、白壁の蔵を併設した町家などが挙げられる。

地域によって、平屋や中二階、曲がり家など、様々なバリエーションがある。

屋根の形状や勾配は、降雪量の多い地域ほど急になる傾向がある。

このように、世界の伝統的な家には、それぞれの風土や文化を映し出す、実にユニークな工夫と知恵が詰まっている。

地域の歴史と生活の知恵の結晶といえるだろう。

産業革命以降の住宅の変化

18世紀後半にイギリスで始まった産業革命は、従来の手工業的な生産から機械制大量生産へと移行する大きな転換点となった。

鉄鋼や石炭の大量生産が可能になり、建築技術にも変革がもたらされた。

1779年、イギリス人のサミュエル・ワイアットが煉瓦を用いた世界初のビルを完成させた。

鉄筋煉瓦造は、レンガの壁に鉄の梁を渡した構造で、石造りに比べて工期が短く、コストも抑えられた。

19世紀に入ると、Henry Bessemer(ヘンリー・ベッセマー)による製鋼法の発明で、錬鉄の大量生産が可能になった。

これにより、鉄骨構造の建築物が登場。

1889年のパリ万博で登場したエッフェル塔は、新しい時代の幕開けを象徴する建造物となった。

コンクリートの発明も、近代建築に大きな影響を与えた。

1824年、イギリス人のジョセフ・アスプジンがポルトランドセメントの製造に成功する。

これを用いたコンクリートは、型枠に流し込むだけで成型でき、鉄筋で補強すれば高層建築にも利用できる画期的な材料となった。
20世紀に入ると、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、フランク・ロイド・ライトらの建築家が、コンクリートと鉄とガラスを駆使した近代建築を次々と発表する。

機能性を重視したシンプルなデザインは、「モダニズム建築」と呼ばれ、国際様式として世界中に広がった。

第二次世界大戦後は、戦災復興や人口増加を背景に、大量のニーズに応える効率的な住宅供給が求められた。

欧米では、低価格で工期の短い木造在来工法のプレハブ住宅が普及する。

日本でも同様に、プレハブメーカー各社がユニットを工場生産し、現場で組み立てる住宅を開発した。

1960年代には、ニュータウン開発による郊外の計画的住宅地の造成が活発化。

日本では高度成長期の1960〜70年代にかけて、首都圏を中心に大規模なニュータウンが続々と誕生した。

集合住宅団地やテラスハウス、戸建て住宅などが整然と並ぶ街並みが形成された。

1980年代以降は、ハイテク技術を導入した「インテリジェントビル」が注目を集めるようになった。

コンピュータによる設備機器の最適制御、OA機器や通信ネットワークの導入など、オフィスの知的生産性を高める建築として発展した。

そして現在、IoTやAI、ロボット技術など、最先端のテクノロジーを応用した「スマートホーム」の実用化が進んでいる。

センサーで居住者の位置や動きを検知し、最適な空調制御や照明制御を行うことで、省エネと快適性を両立する。

音声による家電操作、顔認証による玄関ロックの解除、VRやARを活用したインテリアシミュレーションなど、より直感的で便利な住まい方を提案している。

また、シェアハウスやコワーキングスペースなど、「シェアリングエコノミー」の概念を取り入れた新しい住まい方も広がりを見せている。

1棟の建物を多様な人々で共有し、生活コストを抑えつつ、コミュニティの形成やアイデアの交流を促進する。

ライフスタイルや価値観の多様化に伴い、「所有」から「利用」へと、住まい方のパラダイムがシフトしつつある。

産業革命以降の技術革新は、建築材料や工法、設備などハード面の変化をもたらしただけでなく、住まい方そのもののあり方にも大きな影響を与えてきた。

「機能性」「経済性」「利便性」を追求する一方で、「個人の尊重」「環境への配慮」「コミュニティとの融和」など、新たな価値観に基づく住宅像も模索されている。

テクノロジーの進化とともに、これからも住宅は多様に進化を遂げていくだろう。

IoTで進化する未来の住まい

モノのインターネット(Internet of Things:IoT)の急速な発展により、住宅もより「賢く」なる時代が到来している。

スマートフォンをはじめ、家電や設備機器、センサーなどがネットワークで繋がり、相互に制御や連携を行うことで、人々の生活をさらに豊かで便利にする。

スマートホームの基本は、住宅内の温度や湿度、明るさなどを計測するセンサー類と、空調や照明、家電などの制御機器がネットワークで接続されていることだ。

居住者の位置情報や在宅状況をAIが学習することで、必要な時に必要な空間の空調や照明を自動制御できる。

外出先からスマホで家電を遠隔操作したり、帰宅前に風呂を沸かしたりと、きめ細かな制御が可能だ。

音声アシスタント機能も、スマートホームの利便性を高める重要な要素だ。

スマートスピーカーに話しかけるだけで、照明やエアコン、テレビの操作ができる。

調理のレシピを教えてくれたり、日程の管理をしてくれたりと、生活のあらゆる場面でサポートしてくれる頼もしい存在となる。

セキュリティの面でも、IoTの力が発揮される。

窓や玄関ドアに設置したセンサーが、不審者の侵入を検知してスマホに通知してくれる。

留守中の宅配物は、スマート宅配ボックスに保管。遠隔から解錠して、配達員に預けてもらうことができる。

介護の分野でも、IoTによる見守りシステムの活用が進んでいる。

高齢者の部屋にセンサーを設置し、転倒や動かなくなったことを検知して家族に知らせる。

ウェアラブル端末で脈拍や血圧などのバイタルデータを計測し、AIが健康状態の変化を分析、医療機関と連携して適切なアドバイスを行う。

また、創エネ・蓄エネ・省エネ機能を備えた「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」も、IoTとの連携で普及が進むと考えられる。

太陽光発電や家庭用燃料電池などで自家発電し、発電量と消費量をリアルタイムに把握。

AIが天気予報などのビッグデータを解析し、最適なエネルギー管理を行う。

電気自動車とも連携することで、移動と暮らしのエネルギーを一体的に制御できるようになるだろう。

スマートシティの文脈では、電力や交通、物流、行政サービスなど、都市のインフラがIoTで最適化される構想も進んでいる。

人流や交通量のデータ収集と分析に基づき、快適で効率的な移動を実現する。

ごみ収集車の運行ルートを最適化し、渋滞や環境負荷を軽減する。住民参加型のプラットフォームを通じて、まちづくりのアイデアを共有し、協働を促す。

IoTは住宅という枠を超えて、まち全体のインテリジェント化をもたらす潮流となっている。

サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したSociety 5.0の世界では、住まいもシームレスにつながり、人々のウェルビーイングに寄与する存在となるだろう。

日本の空き家問題と活用策

日本では少子高齢化と人口減少が進行する中、空き家の増加が大きな社会問題となっている。

2018年の総務省の調査によると、全国の空き家数は約849万戸、空き家率は13.6%にのぼる。

とりわけ、地方都市や中山間地域など、過疎化が深刻なエリアで顕著だ。

放置された空き家は倒壊や火災の危険性があり、景観の悪化や治安の低下を招く恐れもある。

今後、団塊の世代が高齢期を迎え、相続や離家が増えることで、空き家はさらに増加すると予想される。

野村総合研究所の試算では、2028年には全国の空き家数が1,000万戸を超え、2038年には1,500万戸に達するという。

人口に対する住宅の量的充足が進む一方で、質の面では大きな地域差が生じている。

空き家対策としては、政府も本腰を入れ始めた。

2015年には「空き家対策特別措置法」を施行し、倒壊の恐れがある空き家の撤去を自治体に促している。

国交省は自治体と連携して、空き家の除却費用を補助する制度を設けた。

空き家バンクの開設支援や、DIYによるリノベーション促進なども進めている。

民間でも、空き家の利活用に向けた取り組みが活発化している。

不動産仲介大手は、空き家を改修してシェアハウスやゲストハウスとして運営するサービスを展開。

古民家を宿泊施設やカフェ、コワーキングスペースに再生するケースも増えている。

郊外の空き家を子育て世帯向けにリノベーションし、定期借家で提供するスキームも生まれた。

若い世代のUIJターンを促し、地域に新しい血を呼び込む効果が期待できる。

高齢者の持ち家を若者に賃貸することで、高齢者の身の回りの世話を若者が行う「リバースモーゲージ」の仕組みもある。

行政でも、空き家を地域の交流拠点として活用する動きが広がっている。

長野県佐久市では、古民家を改修した「おいでよ佐久」を、地域おこし協力隊の活動拠点として提供。

神奈川県鎌倉市では、築80年の古民家を市民活動のシェアオフィス「鎌倉ハウス」として再生した。

空き家を活用したチャレンジショップやシェアキッチン、サテライトオフィスなどの事例も各地で生まれている。

遊休資産を新たなビジネスの場として活用することで、地域経済の活性化や雇用の創出にもつながる。

今後は、空き家対策とともに「空き家予防」の取り組みも重要になるだろう。

住宅の長寿命化や適切なメンテナンス、将来を見据えた建て方や間取りの工夫など、ライフステージの変化に柔軟に対応できる住まいづくりが求められる。

IoTを活用した見守りサービスなどで、高齢者の単身世帯の増加にも備える必要がある。

拡大する空き家を、地域の新たな資源として捉え直す発想が重要だ。

単なる「空き家対策」から「空き家活用」へ。

ハードとソフトの両面から、オープンイノベーションの実践の場として育てていくことが、地域の未来を切り拓くカギとなるはずだ。

まとめ

人類700万年の長い歴史の中で、家は時代とともに変化し続けてきた。

「築室道謀」と揶揄されるように、家づくりは一朝一夕には成らず、様々な制約条件の中でベストを模索する、創造的な営みだ。

気候風土に適応しつつ、文化や美意識、信仰心を投影してきた世界各地の伝統的家屋。

産業革命や工業化の流れの中で合理性や効率性を追求し、新しい建材や工法、設計思想を取り入れながら進化を遂げた近現代の住宅。

そして今、IoTやAI、ロボット技術など、先端テクノロジーによってさらなる利便性や快適性、安全性を手に入れようとしているインテリジェントホーム。

社会の変化を映し、技術の粋を集めながら、理想の住まいを求めて試行錯誤を重ねてきた。

空き家問題など、新たな課題にも直面している。

単に取り壊して減らすのではなく、いかに魅力的な地域資源として再生し、活用していくか。

ライフスタイルや価値観の多様化を受けとめ、シェアやコミュニティの視点から、新しい住まい方を編み出していく必要がある。

「築室道謀」の教訓は、家づくりには唯一の正解がないということだ。

様々なアイデアやノウハウ、英知を結集し、地域特性を活かしながら、その時代に最適解を生み出していくこと。

ICTを活用しつつ、住まい手と作り手、コミュニティが共創する、オープンな家づくりのあり方が問われている。

家は人々の暮らしの基盤であり、時代を映す鏡でもある。

先人たちの知恵を学びつつ、イノベーションを取り込みながら、これからも住まいの未来をみんなで描き、創っていきたい。

100年後の建築家たちが、私たちの知恵を「築室道謀」として評するかもしれない。

そんな気概を持って、住まいと向き合っていく必要がありそうだ。


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植田 振一郎 X(旧Twitter)

株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。