日本発の文化の1つ「じゃんけん」の起源
三角関係というと、確かに複雑な恋愛関係を指す場合が多い。
その名のとおり、三者間の関係という意味だということは誰もがわかっていると思うが、それよりも日常に溶け込んでいる三者間のバランスを巧みに取っている文化がある。
誰もが一度はやったことがある、じゃんけんだ。
なんだそんなことかと思うかも知れないが、なにかを決めるときに真っ先に浮かんできたり、誰かが言い出す、じゃんけんはとてもシンプルなのにとても理にかなった文化だと思っている。
そして、そのじゃんけんのルーツを辿ってみると、これまた意外と歴史も長く、興味深かったのでまとめてみることにした。
じゃんけんの起源
じゃんけんの起源は諸説あるのだが、有力な説として有名なものは、中国から拳(けん)という手遊びが日本に伝わったことだとされている。
そして、その後に日本で独自に発展して、じゃんけんになったという。
中国から拳が伝わったのは定かではないのだが、平安時代には拳遊びが行われていたというのが有力だ。
ただし、現代のじゃんけんとは異なり、拳という手遊びは手の中に握りしめているモノを当てるという遊びだった。
その後、室町時代の後期になると、中国から本拳(ほんけん)と呼ばれる数遊びである、数拳が長崎に伝えられ、長崎から江戸へと伝わることになった。
こういった経緯から、数拳は長崎拳(ながさきけん)や崎陽拳(きようけん)とも呼ばれたりする。
ちなみに、崎陽(きよう)とは、中国の学問を学び研究する漢学者が中国風に呼んだ長崎の別名のことをいう。
じゃんけんの元祖である数拳ってなぁに?
数拳とは、2人で行う遊びで、互いに片手で0から5までの数字を出し合い、その合計を予想して勝負を行うというものだ。
手を出すのと同時に予想した合計の0~10までの数字を互いに言っていき、先に当たった人が勝ちとなる。
手の出し方は下記のとおりだ。
0:握り拳を作った状態で、現在のじゃんけんのグーの形
1:親指を立てた、数字の1を表現する形
2:親指と人差し指を立てた、現在のじゃんけんのチョキの形
3:親指と人差し指で円を作り、他の指は伸ばした、OKサインの形
4:親指を曲げて、他の指は伸ばした、数字の4を表現する形
5:全ての指を伸ばした、現在のじゃんけんのパーの形
現代にも同時に指を出して合計の数字を当てるというゲームがあって、地方によって呼び方が異なったりするが、もしかするとその原型となった遊びが数拳かもしれない。
じゃんけんの原型となった三すくみ拳ってなぁに?
それから、現代のじゃんけんのような、グー、チョキ、パーの三角関係を元にした遊びに、三すくみ拳という遊びがある。
三すくみとは、三竦みと書き、3つの物が対照的にそれぞれ弱い強いの立場を持っているため、動くことができない様子を表した言葉のことだ。
そして、この三すくみという考えは日本が発祥ともいわれている。
三すくみ拳の中には、虫拳(むしけん)と呼ばれる代表的な三すくみの関係を使った遊びがあって、平安時代にはすでにあったという。
三すくみ拳の中の虫拳(むしけん)ってなぁに?
虫拳(むしけん)には、蛞蝓(なめくじ)、蛙(かえる)、蛇(へび)が登場する。
そして、それぞれが下記のような関係を持っている。
ナメクジはカエルに食べられてしまう:ナメクジはカエルに弱い
カエルはヘビに食べられてしまう:カエルはヘビに弱い
ヘビはナメクジの粘液で溶かされてしまう:ヘビはナメクジに弱い
実際にナメクジの粘液でヘビが溶かされることはないのだが、こういった三角関係になっている。
カエルがナメクジを食べてしまうと、ヘビの天敵であるナメクジがいなくなってしまうので、カエルはヘビに襲われてしまう。
そうならないよう絶妙な均衡を保つために、カエルはナメクジを食べることができずに固まってしまい、他の2匹にも同様に動くことができなくなってしまう。
このように3匹が恐怖を感じ、お互いがすくんで動けなくなる状況を三すくみというのである。
この三すくみの状態を使った虫拳という遊びは、現代のじゃんけんと同じように指を使って勝負する。
小指はナメクジ、親指はカエル、人差し指はヘビを表していて、しっしっしの掛け声に応じて指を出すのである。
なぜ、昆虫などの虫が登場しないのに、虫拳というのかというと、そもそも虫という漢字はヘビが元となり生まれた漢字で、昆虫は蟲と書かれていたからである。
爬虫類を表す漢字には虫偏がついていることが多いのはそのためで、蛇、蛙、蛞蝓(なめくじ)といった具合いだ。
虫拳以外にもある三すくみ拳
三すくみ拳を活かした遊びは虫拳以外にもいろいろあることも知っておくと面白いだろう。
例えば、狐拳(きつねけん)と呼ばれる、狐、猟師、庄屋が登場三すくみ拳もある。
それぞれの三角関係は下記のとおりだ。
狐は猟師に鉄砲で撃たれてしまう:狐は猟師に弱い
猟師は依頼主である庄屋には頭が上がらない:猟師は庄屋に弱い
庄屋はきつねに騙されてしまう:庄屋は狐に弱い
この狐拳では、指を使って勝負するのではなく、両腕を使ってそれぞれを表現していく。
また、正座をしてお互い向き合った状態で行い、基本は2人でする遊びという特徴もある。
狐は手の平を広げて指をピンと揃え、その手を耳の辺りにもっていき、狐の耳の形をつくる。
猟師は左右の手に握り拳をつくり、銃を胸の前で持っているような位置に手をもっていく。
銃は猟銃になるので長さを表すように左手は前方に突き出し、右手は胸の前で構える形をつくる。
庄屋は正座している膝の上に手を置く形をつくる。
勝負する際には掛け声をかけて始めるところは他の三すくみ拳と同様で、狐拳は、藤八拳(とうはちけん)、庄屋拳(しょうやけん)、在郷拳(ざいきょうけん)と呼ばれたりもする。
もう1つ、虎拳という遊びも紹介しておこう。
現代もお座敷遊びの1つとして残っており、京都の祇園では、とらとらと呼ばれて親しまれている遊びを聞いたことがある人もいるだろう。
そんな虎拳は、虎、武将、老婆が登場し、三角関係は下記のとおりだ。
虎は武将に退治される:虎は武将に弱い
武将は母親である老婆にはかなわない:武将は老婆に弱い
老婆は虎に襲われてしまう:老婆は虎に弱い
ちなみに、虎拳は人形浄瑠璃の国性爺合戦という話の主人公である。和藤内が武将のモチーフとなって生まれた遊びだ。
また、京都の祇園では、朝鮮に派遣された際に虎退治をしたといわれている、加藤清正が武将とされている。
虎拳を行うには大がかりな準備が必要となり、襖で仕切ることの出来る部屋を3部屋と、虎の毛皮、鉄砲、女性の衣装を2セットずつ用意する。
間の部屋を中心に、左右の部屋に分かれていずれかの姿に着替え、唄に合わせて襖を開くとお互いの選んだ姿で勝敗が決まるという遊びだ。
一方、京都の祇園で行われている、とらとらはやり方が異なり、1つの部屋で屏風を立てて遊ぶ。
着替えたりするような大掛かりな遊びではなく、虎は四つん這いの格好、武将は槍で突く仕草、老婆は杖をついている仕草をする。
2人の間に屏風を立て、唄に合わせていずれかの動作をしながら屏風から同時に出てきて勝負を行うというものだ。
このように、三すくみ拳と呼ばれる遊びは他にもたくさんあり、各地で様々な三すくみ拳がつくられていたとされる。
そして、江戸時代後期になると、この三すくみ拳の三すくみの関係と、数拳の手の形が融合し、現代のじゃんけんの原型といわれる石拳(じゃくけん)が生まれたといわれている。
まとめ
じゃんけんという現代にも伝わる遊びというか、文化について書いてみたが、案外奥深いものだったことは興味深い。
それから、じゃんけんの原型は石拳と書いたが、他にも蛇拳、両拳、料簡法意といった多くの説があることも面白い。
さらに、このじゃんけんは日本のみならず世界中でちょっとした変えて存在しているのだが、発祥は日本だというのが有力だ。
今の時代のようにインターネットの普及によっていくらでもコンテンツにアクセスできる時代とは想像できないはるか昔にも、こうした遊びを考える人たちはいたということだ。
エンターテイメントの世界に通ずるものもあるように思った次第である。
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