団雪之扇に見る日本と世界の離婚率の実態
団雪之扇は、江戸時代後期の浮世絵師、歌川国貞が天保年間(1830年代)に描いた錦絵の1つだ。
雪の中で扇を持つ女性が描かれており、男の愛を失った女性の象徴とされている。
当時の日本では、離婚は珍しいことではなく、「三行半」と呼ばれる去り状を男性が妻に渡すことで簡単に離婚ができた。
この習慣は、平安時代から続いており、『今昔物語集』にも、妻に去り状を渡して別れを告げる夫の姿が登場する。
具体的な事例として、『十訓抄』には、平安時代の貴族、藤原道綱が妻に去り状を送ったエピソードが記されている。
道綱は、新たな恋人ができたことから、妻との離婚を決意。
「去り状のようなものを送れば、妻は実家に帰るだろう」と考えた道綱は、歌を添えた手紙を妻に送った。
しかし、妻は「あなたの歌の返歌を詠むのに夢中で、帰る暇がありません」と返事をよこしたという。
このエピソードは、当時の上流階級における離婚の気軽さを物語っている。
一方で、庶民の間での離婚は容易ではなかった。
農村部では、嫁不足から妻の立場が強く、夫は簡単に妻を手放すことができなかったのだ。
また、子どもがいる場合、母親が引き取ることが一般的で、父親が子どもと一緒に暮らし続けるのは難しかった。
『南総里見八犬伝』で知られる馬琴の日記『燕石雑志』には、「女房と別れたくて、子どもが邪魔だから、捨てに行く」という、当時の庶民の生の声が記されている。
このように、江戸時代の離婚には、身分によって大きな隔たりがあった。
武士や町人は、比較的簡単に離婚できた一方、農民は離婚が難しく、子どもの親権をめぐる問題もあった。
団雪之扇に描かれた女性が、身分の高い町人か武家の女性であることは間違いないだろう。
ところで、歌川国貞が団雪之扇を描いた天保年間は、江戸の花開いた文化の最盛期だった。
『春色梅児誉美』など、恋愛をテーマにした人情本が大流行し、歌舞伎や浮世絵にも恋愛模様が数多く描かれるようになった。
団雪之扇もまた、当時の恋愛ブームを反映した作品と言えるだろう。
しかし、その一方で、天保期は「天保の改革」による厳しい風紀取り締まりの時代でもあった。
町奉行の遠山金四郎景元は、恋愛を描いた演劇や小説を次々と禁止し、花街の取り締まりも強化した。
『春色梅児誉美』の作者、為永春水は投獄され、歌川国貞も一時期、絵筆を折らざるを得なくなった。
団雪之扇は、そんな激動の時代に生み出された、いわば"禁断の恋"の物語とも言えるのかもしれない。
結婚制度の起源と変遷
結婚制度の起源は古く、紀元前3000年頃のメソポタミア文明にまで遡る。
古代メソポタミアでは、神殿での結婚式が行われていたことが、出土した粘土板の記録から明らかになっている。
また、ハンムラビ法典には、結婚に関する規定が設けられており、一夫多妻制が認められていた。
古代エジプトでも、結婚は重要な社会制度として定着していた。
ファラオは、王家の血筋を守るため、しばしば近親婚を行った。
ツタンカーメンが、異母姉のアンケセナーメンと結婚していたことは有名だ。
また、エジプトの離婚は、夫婦どちらからも申し立てることができた。
『獅子の書』と呼ばれるパピルスには、夫から妻に宛てた離婚届けの文面が残されている。
古代ギリシャでは、結婚は家父長制を維持するための制度と位置づけられていた。
アテナイでは、市民権を持つ男性のみが正式な結婚ができ、妻は夫の所有物として扱われた。
一方、スパルタでは、妻が重要な役割を担っていた。
スパルタの女性は、政治に参加することが許され、財産を所有することもできた。
また、夫が戦死した場合、妻が家長となることもあった。
古代ローマでは、結婚は個人の自由意志に基づくものとされた。
ローマ市民は、原則として一夫一婦制だったが、上流階級の間では、政略結婚や離婚が頻繁に行われていた。
ユリウス・カエサルは3回結婚し、3回とも離婚している。
また、皇帝アウグストゥスは、道徳的に乱れた社会を立て直すため、離婚に制限を加える法律を制定した。
中世ヨーロッパでは、キリスト教の影響から、結婚は神聖なものとみなされるようになった。
カトリック教会は、一夫一婦制を強く推奨し、離婚を禁止した。
ただし、教会法では、姦通や虐待など、一定の条件下での離婚は認められていた。
また、教会の認めない「非公式な結婚」も存在し、司祭の前で誓いを立てるだけの簡易な結婚式も行われていた。
近世に入ると、プロテスタントの宗教改革が起こり、結婚をめぐる価値観に変化が生じた。
カトリックから分離したプロテスタントは、結婚を神聖な秘跡ではなく、世俗的な契約とみなした。
離婚についても、より寛容な姿勢を示した。16世紀のイングランドでは、ヘンリー8世が、離婚を認めないローマ教皇に反発し、英国国教会を設立した。
このように、宗教改革は、結婚と離婚を個人の自由の問題と捉える近代的な価値観を生み出す契機となった。
日本における一夫一婦制は、明治時代になって確立された。
明治政府は、欧米列強に伍していくため、西洋の制度や文化を積極的に取り入れた。
その一環として、1890年に民法が制定され、結婚は戸主の同意を必要とする法律行為と定められた。
明治民法下では、家制度が重んじられ、「家」の存続が何より優先された。
妻は夫に従属する存在とみなされ、夫の同意なしでは離婚することができなかった。
大正時代に入ると、「新しい女」と呼ばれる女性たちが登場し、恋愛結婚や離婚の自由を求める機運が高まった。
堺利彦や与謝野晶子らの影響を受け、「companionate marriage(友愛結婚)」という概念も広まった。
第二次世界大戦後、新憲法の下で制定された現行民法では、結婚は両性の合意のみに基づくものとされ、離婚の自由も保障されることになった。
平成に入ってからは、「男女雇用機会均等法」の施行(1986年)や「育児休業法」の成立(1991年)など、女性の社会進出を後押しする法制度が次々と整備された。
それと同時に、晩婚化や非婚化が進行し、結婚の形態や意義が大きく変化してきた。
さらに、2015年の最高裁判決では、夫婦同姓を定めた民法の規定が合憲とされたが、選択的夫婦別姓制度の導入を求める声は根強い。
このように振り返ってみると、結婚制度は、時代や地域によって大きく姿を変えてきたことが分かる。
古代メソポタミアでは神聖な儀式だった結婚は、中世ヨーロッパではキリスト教の秘跡となり、近代以降は個人の自由意志に基づく世俗的な契約へと変化した。
日本でも、明治の家制度から、現代の男女平等の理念に基づく結婚へと移り変わってきた。
こうした変遷の歴史を踏まえつつ、現代社会における結婚と離婚のあるべき姿を模索していく必要があるだろう。
日本の離婚率の実態と推移
日本の離婚率は、戦後に大きく上昇した。
1947年には人口千人当たり0.99件だった離婚率は、1970年代に入ると1.0件を超え、右肩上がりで増加。
2002年には過去最高の2.30件を記録した。
その後は減少傾向に転じ、2019年は1.64件まで下がったが、2021年には1.46件と再び増加に転じている。
2002年の離婚件数28万9,836組は、過去最多記録として知られる。
当時は「熟年離婚」が大きな話題となり、団塊の世代を中心に、長年連れ添った夫婦が次々と離婚するケースが目立った。
例えば、作家の曽野綾子さんは、結婚生活41年目にして離婚。
「下心を持って私に近づいてきた」夫への不信感から、離婚を選択したという。
また、女優の原田美枝子さんも、結婚25年目で離婚。
多忙な俳優の夫との生活に疑問を感じ、決断したと語っている。
熟年離婚が増えた背景としては、平均寿命の伸長や、女性の経済的自立などが指摘されている。
内閣府の調査によると、2002年時点で、60歳以上の女性の就業率は38.8%。
20年前の25.6%から大幅に上昇しており、定年後の人生を夫に依存せずに生きる女性が増えたことが分かる。
また、サラリーマンの平均退職年齢は、当時60歳。
定年を機に、夫婦の時間が急増することで、それまで表面化していなかった問題が顕在化するケースが多かったようだ。
その一方で、2000年代は「七光り離婚」なる言葉も流行した。
「七光り」とは、芸能人の子どもが、親の知名度を利用して芸能界入りすることを揶揄した言葉だが、それになぞらえて、芸能人夫婦の離婚が相次いで報じられた。
2010年代に入ると、離婚率は減少傾向で推移した。
しかし、それは必ずしも夫婦関係が良好であることを意味してはいない。
実は、この時期、「婚活」ブームの影響で、晩婚化が加速したのだ。
2015年の初婚年齢は、夫が31.1歳、妻が29.4歳。
いずれも過去最高を更新している。
晩婚化が進めば、必然的に出産年齢も上昇する。
第1子出産時の母親の平均年齢は、2000年の28.0歳から、2015年は30.7歳へと上昇した。
高齢出産がリスクを伴うことは言うまでもない。
実際、この時期、不妊治療を受ける夫婦も増えている。
厚生労働省の調査では、2015年度に体外受精を実施した件数は、過去最多の42万4,151件に上った。
晩婚化・晩産化が進む中、夫婦の「絆」を維持することは容易ではない。
子育てに追われる日々の中で、夫婦の時間は削られがちだ。
内閣府の調査では、2019年時点の6歳未満児の子育て時間は、1日当たり妻が6時間34分なのに対し、夫はわずか1時間23分。
この格差は、諸外国と比べても突出して大きい。
ちなみに、6歳未満児を持つ夫の育児時間は、アメリカが1日当たり3時間8分、イギリスが2時間28分、ドイツが2時間18分となっている。
日本の父親の子育て参加の少なさは際立っており、母親の育児負担の重さがうかがえる。
そんな中、コロナ禍によって、離婚率に変化の兆しが見られる。
厚生労働省の人口動態統計によると、2020年の離婚件数は19万3,251件。
前年比で1万2,741件(6.2%)減少し、統計開始以来、最大の減少幅を記録した。
これは、コロナ禍で離婚手続きを控える動きが広がったためと考えられる。
しかし、2021年には18万1,775件と、再び増加に転じた。
コロナ禍の生活ストレスから、離婚を選択する夫婦が増えたようだ。
実際、コロナ禍をきっかけに、夫婦関係を見直す人が増えたという。
2021年の連合総研の調査では、既婚者の26.8%が「コロナ禍で配偶者との関係性が変化した」と回答。
内訳を見ると、「関係が悪くなった」が12.8%なのに対し、「関係が良くなった」は14.0%で、わずかに上回った。
在宅時間の増加で、夫婦の絆が深まったケースもあるようだ。
一方、DVの増加も指摘されている。
内閣府の調査では、2020年度にDV被害を受けた人は、前年度比1.5倍の8万2,643人に上った。
夫婦の面識が増える在宅生活で、暴力のリスクが高まったとみられる。
DVは夫婦関係を決定的に悪化させる要因だ。
2002年の最高裁判決では、DV被害を「婚姻を継続しがたい重大な事由」と認め、裁判離婚を認めている。
以上のように、日本の離婚率は、1970年代から2000年代にかけて一貫して上昇し、2002年にピークを迎えた。
その背景には、女性の社会進出や平均寿命の伸長など、社会構造の変化があった。
2010年代に入ると、晩婚化の影響で離婚率は低下傾向に転じたが、夫婦関係の実態は必ずしも良好とは言えない。
さらに、コロナ禍を契機に、離婚や DV の増加が懸念されている。
日本の離婚問題は、女性の地位向上や働き方改革、少子化対策など、様々な社会課題と密接に関わっている。
夫婦や家族のあり方を総合的に考えていく必要があるだろう。
世界の離婚率との比較
日本の離婚率1.46(2021年)は、世界的に見ると決して高い水準ではない。
アジア諸国の中では、シンガポールの1.6(2021年)とほぼ同水準だ。
台湾は2.2、韓国は2.1と、日本よりやや高めだが、アジアの中では比較的離婚率が高い部類に入る。
一方、中国の離婚率は3.4(2019年)と突出して高い。
ただし、これは「離婚冷静期」を義務づける民法改正により、駆け込み離婚が急増した結果だ。
中国の平均的な離婚率は2.0前後で推移している。
また、欧米諸国との比較では、総じて日本の離婚率は低い。
例えば、アメリカの離婚率は2.7(2019年)、フランスは1.9(2020年)、ドイツは1.7(2019年)となっている。
ただし、イタリアは1.4(2019年)、スペインに至っては0.8(2020年)と、日本よりも低い。
カトリック文化の影響で、離婚に対する抵抗感が根強いのかもしれない。
とはいえ、欧米の離婚観は、近年大きく変化している。
例を挙げると、イギリスでは1969年に離婚法が改正され、「婚姻の破綻」が離婚の要件とされるようになった。
それまでは、配偶者の不貞や虐待など、法律で定められた離婚理由が必要だったが、それが不要になったのだ。
また、アメリカでは1970年代以降、次々と州が「No-Fault Divorce(無過失離婚)」を導入。
離婚の際、過失の有無を問わなくなった。こうした法改正は、離婚をめぐる意識の変化を反映したものと言えるだろう。
さらに、同性婚の合法化も、離婚のハードルを下げる要因になっている。
オランダでは2001年、世界で初めて同性婚が合法化された。
以降、ベルギー(2003年)、スペイン(2005年)、カナダ(2005年)など、次々と合法化が進んだ。
アメリカでも、2015年の連邦最高裁判決で、全米で同性婚が認められるようになった。
日本でも、同性婚の合法化を求める声は高まっている。
2021年には、札幌地裁が、同性カップルに婚姻を認めないことは「違憲の疑いがある」との判決を下した。
また、2022年の世論調査では、「同性婚に賛成」が71%に上った。
もっとも、同性婚を認めた場合、離婚をめぐる法整備も必要になる。
同性カップルの場合、婚姻費用や養育費の分担、財産分与など、離婚時の諸問題にどう対処するかが課題となるだろう。
諸外国の事例を参考にしつつ、議論を重ねる必要がある。
また、イスラム圏の国々では、シャリーア(イスラム法)に基づく独自の離婚制度が存在する。
例えば、サウジアラビアでは、夫が一方的に妻に「タラーク(離婚の宣言)」を告げるだけで、離婚が成立する。
UAE(アラブ首長国連邦)でも、夫に離婚の一存が認められている。
ただし、最近は女性の権利を尊重する動きも出てきた。
モロッコでは2004年、女性に離婚請求権を与える法改正が行われた。
チュニジアでも2017年、ムスリム女性が非ムスリムの男性と結婚することが可能になった。
以上のように、世界の離婚率や離婚制度は、国や地域によって大きく異なる。
欧米諸国では、「婚姻の破綻」を離婚の要件とする法改正や、同性婚の合法化など、離婚をめぐる規制が緩和される傾向にある。
一方、イスラム圏では、男性優位の離婚制度が残る国が多いが、徐々に女性の権利を認める動きも出てきた。
日本の離婚率は、世界的に見ると低い部類に入るが、その背景には、独自の社会的・文化的要因があると考えられる。
離婚のタイミングと再出発
離婚を選択する際、そのタイミングは重要だ。
長引く不幸な結婚生活は、子どもにも良くない影響を与える。
前出の「団雪之扇」でも描かれているように、江戸時代から、親の離婚が子どもに与える心理的ダメージは指摘されてきた。
平安時代の歌人、小野小町の和歌「みじかよの クルシキ物ハ サリトテモ 別ルヽ時ノ 親心」には、「みじかよ(短夜)の苦しいのは、(恋人と)別れる時だけれども、それでも(子と)別れる親の心はもっと苦しい」という心情が詠まれている。
ここには、愛する我が子との別れを惜しむ親心が表れている。
現代でも、離婚が子どもに与える影響は小さくない。
2019年の厚生労働省の調査では、ひとり親世帯の子どもの約半数が「父母の離婚を否定的に捉えている」と回答した。年齢が上がるほどその傾向は顕著で、小学生の38.1%に対し、中学生は56.1%、高校生は60.7%に上った。
一方で、離婚を「仕方のないこと」「プラスに働いた」と前向きに捉える子どもも一定数いる。
子ども時代の両親の関係性が、その後の子どもの人生観に影響を及ぼすことは間違いない。
離婚のタイミングは十人十色だ。
不幸な結婚生活に早めに見切りをつける人がいる一方、子育てを優先し、我慢を重ねる人もいる。
大切なのは、離婚が人生の終わりではなく、新たな始まりであると捉えることだろう。
「バツイチ」の経験を、次の人生の糧にしていきたい。
まとめ
結婚と離婚は、一見、正反対のようで、実は表裏一体の関係にある。
未婚化・晩婚化が進めば、必然的に離婚率も下がる。
逆に、若くして結婚すれば、離婚のリスクは高まりやすい。
つまり、結婚のあり方が変われば、離婚もまた変化せざるを得ないのだ。
未婚化・晩婚化の背景には、「幸せな結婚」への憧れがある。内閣府の「結婚・家族形成に関する調査」(2020年)では、独身者の8割以上が「いずれ結婚するつもり」と回答。
結婚に対する意欲は依然として高い。では、なぜ結婚に踏み切れないのか。
最大の理由は「適当な相手にめぐり会わない」(男性42.6%、女性46.5%)だった。
「経済的に余裕がない」(男性29.3%、女性25.7%)も上位に挙がっている。
つまり、多くの独身者は、「理想の相手」との出会いを求めている。
「専業主婦志向」の女性も少なくない。
内閣府の調査では、結婚後の女性の就業希望として「専業主婦になりたい」は24.0%で、20年前の9.3%から大幅に増加した。
一方、男性に「妻は仕事を持たない方がよい」と考える人が増えているのも事実だ。
こうした状況下で「妥協結婚」に踏み切れば、後々、離婚につながりかねない。
実際、「結婚生活に不満」を理由とする離婚は増加傾向にある。
2019年の離婚件数のうち、「性格の不一致」が原因とされるのは全体の36.4%。20年前の26.0%から10ポイント以上増えている。
また、「交際結婚」の増加も、離婚リスクを高める要因と指摘されている。
昔は、親や周囲の勧めで結婚するのが一般的だった。
配偶者の性格や価値観は、結婚後に理解していくものだった。
ところが、最近は恋愛結婚が主流になり、結婚前から相手の全てを知ろうとする。
しかし、交際中は相手の良い面ばかりが目立ち、結婚後に「思っていた人と違う」と幻滅するケースが少なくない。
さらに、社会の価値観の多様化も、離婚率を押し上げる要因になっている。
かつては、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業が当たり前だった。
専業主婦が大半を占め、夫の稼ぎで生計を立てるのが一般的だった。
しかし現在は、女性の社会進出が進み、共働き世帯が増えている。
2021年の総務省の調査では、共働き世帯は1,245万世帯で、専業主婦世帯の568万世帯を大きく上回った。
共働きの増加は、女性の経済的自立を促す一方で、夫婦関係に新たな緊張をもたらす。
家事・育児の分担をめぐる対立がその典型だ。
内閣府の調査では、共働き世帯の妻の家事・育児時間は1日当たり4時間57分なのに対し、夫はわずか1時間23分。
この差は、欧米諸国と比べても際立って大きい。
「家事分担に不満」を理由とする離婚請求も増加している。
2019年の東京地裁の調査では、妻からの離婚請求のうち、「家事・育児を手伝わない」が理由とされるケースは全体の18.5%を占めた。
20年前の8.3%から倍増している。
夫婦の役割分担をめぐる意識のズレが、離婚を後押ししている可能性がある。
もっとも、価値観の多様化は、必ずしも離婚の増加につながるわけではない。
むしろ、画一的な「結婚の型」から解き放たれ、夫婦で柔軟に役割分担を決められるようになったとも言える。
総務省の調査では、「夫は外で働き、妻は家を守るべき」という考え方に反対する人は、2019年で58.1%に上った。
1992年の32.0%から大幅に増えている。
また、シングルマザーへの支援策の充実も、離婚を後押しする要因の1つだ。
かつては、離婚すれば経済的に困窮するのが当たり前だった。子育てと仕事の両立も難しく、再婚でもしない限り、将来が見通せなかった。
しかし近年は、児童扶養手当の増額や、就労支援の拡充など、ひとり親家庭への支援が手厚くなっている。
2018年には、民事執行法が改正され、「養育費の支払い義務」が明記された。それまでは、養育費の不払いが後を絶たなかったが、法改正により、強制執行のハードルが下がった。
シングルマザーの経済的基盤が徐々に整備されつつあると言える。「ひとりでも子育てできる」という安心感が、踏ん切りのつかない夫婦の背中を押しているのかもしれない。
結婚と離婚が密接に関係していることは、諸外国のデータからも明らかだ。
イタリアは、カトリック文化の影響から、伝統的な家族観が根強く残る。
その結果、イタリアの婚姻率は低く、離婚率も低い。対照的なのがスウェーデンだ。
スウェーデンは、性別役割分業意識が低く、男女平等が徹底している。
婚姻率は高いが、離婚率も高い。日本は、この中間に位置すると言えそうだ。
以上のように、結婚と離婚は、社会の価値観や経済状況、法制度などと密接に関わっている。
「個人の問題」として片付けるのではなく、社会全体で議論していく必要がある。
その際、重要なのは「多様性の尊重」だ。専業主婦になりたい人もいれば、働き続けたい人もいる。
子育てに専念したい人もいれば、ひとり暮らしを楽しみたい人もいる。1人1人が望む生き方を実現できる社会が理想だろう。
そのためには、社会の意識改革と同時に、制度の見直しも必要だ。
例えば、選択的夫婦別姓の導入は、結婚の多様化を後押しするだろう。
男性の育児休業取得を促進することで、家事・育児の分担意識にも変化が生まれるかもしれない。
同性婚を認めることで、多様なパートナーシップが広がる可能性もある。
離婚を減らすには、結婚をしやすい社会を作ることが何より大切だ。「結婚=幸せ」という価値観を押しつけるのではなく、1人1人の幸せのカタチを認め合うこと。
それが、これからの社会に求められていると言えるだろう。
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