殺虫剤への接触で危険を学習する蚊の能力
九死一生(きゅうしいっしょう)
→ ほとんど助かる見込みのない命がかろうじて助かること。
死というものを意識するのは、なにも人間だけではないようだ。
stak, Inc.の主力商品は機能拡張モジュール型IoTデバイスの「stak」である。
その特徴は機能が拡張していくというところにあり、スピーカー、カメラ、フレグランス、モバイルバッテリーなど、様々な開発を水面下で進めている。
そんな中で、ユーザからも非常に要望の高いモジュールがある。
それが、虫よけモジュールだ。
虫よけモジュール構想
いつの間にか、家の中に蚊やクモが入っていたということは誰しもが経験をしたことがあるだろう。
蚊は一度気になるとかなりのストレスになるし、クモは気持ち悪くて触ることもできないという人も多いように思う。
他にもゴキブリが出たときの悲壮感や、田舎の方ではネズミやハチなどによる被害もしばしば起きる。
そんなときの対応策として、超音波で害虫を寄せ付けなくするという商品を見かけたことがある人もいるのではないだろうか。
コンセントに差し込むだけで、蚊やハエが家の中に入ってこなくなるという商品だ。
結論から言おう。
これらの商品は全く効果がないので絶対に買ってはいけない。
というか、消費者庁は効果がないということで、販売メーカーを取り締まるべきのレベルの商品だ。
くり返し、警鐘を鳴らしておく。
AmazonなどのECサイト内にも大量に様々な商品が売られているが、超音波で虫よけを実現すると行った類の商品は効果が全くないので絶対に買ってはいけない。
なぜ、そこまで言い切ることができるのか。
それは、全く同じ効能の虫よけモジュールをstak, Inc. から販売しようと試みたからである。
stak, Inc.の虫よけモジュール開発への挑戦
NDAの関係もあり、社名は伏せさせてもらうが、誰もが知っている超大手企業との共同開発で、虫よけモジュール開発をしている。
あえて現在進行系で書かせてもらっているが、すでに大きな失敗というか、上手くいかなかったのが先述した超音波を用いて、蚊やゴキブリを寄せ付けなくするという構想だ。
stak本体と照明モジュールの間に、虫よけモジュールを挟むことによって、虫が来なくなれば実に画期的なモジュールになるということで、我々も大いに期待して開発が始まった。
その構想は至ってシンプルで、小型のスピーカーを2〜3つほど埋め込んで、そこから蚊やゴキブリなどの害虫が嫌う超音波を出すというものだ。
そのために、いくつかの実際に売られている商品を購入して、どれくらいの超音波が出ているのかを徹底的に研究をした。
そして、その中間の最も効能があるであろう周波数で設定をして、実験を行った。
その実験は、共同開発を快く受け入れてくれた某大手衛生薬品の製造および販売企業の研究室で行われた。
その企業には蚊やゴキブリといった、いわゆる害虫が何百匹といて、実際に薬品の効能を調べたりする際に実験用に使われるそうだ。
そんな環境に我々の虫よけモジュールのプロトタイプが完成したので、持ち込んで実験というか試験をしてもらった。
結果は蚊がモジュールに止まるというもので、全く使い物にならないということだった。
このプロトタイプを作るまでにも数百万円という開発費がかかっている。
さらに世の中には、同様の仕様で超音波で虫を寄せ付けないという商品が大量に出ている。
つまり、効能がないことは伏せて世の中にリリースするという選択肢を取ることはできた。
ただ、そんなモノが世の中のなんの役に立つのだろうか。
効果がないと知ってしまった以上、損切りするしかない。
これがハードウェア開発における大変なところの1つだと改めて感じた次第である。
その後、別の構想で虫よけモジュールの開発は少しずつ進んでいるという状況である。
危険を学習する蚊の能力
加えて、こんな記事を目にした。
蚊が殺虫剤への接触で危険を学習し、回避することが明らかに
(出典:Forbes)
この記事の冒頭に書かれていることがすべてだ。
蚊は致死量に届かない殺虫剤にたった一度さらされただけで学習し、殺虫剤を避けるようになることが研究論文で明らかになった。
ネイチャー誌が2022年2月17日付けで発表しているという。
調査対象は、熱帯地域と亜熱帯地域でよく見られる2種類の蚊だ。
1つは、ネッタイイエカという、鳥マラリアやジカウイルス、ウエストナイルウイルスを広める蚊で、もう1つは、ネッタイシマカという、デング熱や黄熱を広める蚊だ。
研究チームによると、蚊は殺虫剤の匂いと、殺虫剤に接触したときのマイナスの影響を関連付けることを学習したという。
そして、殺虫剤のにおいがする場所に降り立って吸血することを自ら抑制したそうだ。
実験方法は、殺虫剤を付着させたネットを用意し、その上をネッタイシマカに飛ばせ、吸血できる機会を与えるというものだ。
その結果、殺虫剤を避けるよう条件付けられた蚊は、条件付けられていない蚊と比べて、生存確率が3倍に上がった。
近年、殺虫剤に対する蚊の耐性が高まっているが、こうした変化について、蚊の認知力を見落としていたことを研究チームは突き止めたという成果をあげたのである。
ただ、イギリスのキール大学応用昆虫学・寄生虫学センターのディレクターである、フレデリック・トリペは次のように語っていることも書いておこう。
遅効性のある殺虫剤を新たに開発すれば、蚊は殺虫剤に接触した後に生き延びても、その匂いと嫌な経験を関連付けることを学習しないだろうと述べている。
また、殺虫剤に蚊を引き付ける香りをつければ、学習を妨害できるというのである。
蚊という生物について
日本では蚊と聞いても、血を吸われて鬱陶しいくらいの感覚の人がほとんどだと思う。
だが、蚊は多くの病気や寄生虫を拡散させる原因とされていて、その中でも有名なのがマラリアだ。
世界保健機関(WHO)によると、2020年にはマラリア感染者が世界全体で2億4,100万人に上ったという。
感染は世界各地で起きているが、最も蔓延して多くの死亡者を出しているのがサハラ以南アフリカである。
2020年の全世界感染者の95%、死者の96%が同地域で占められているということも知っておいた方がいいだろう。
また、サハラ以南アフリカにおける死亡者のおよそ80%は5歳未満の子どもだったという事実もある。
加えて、WHOの発表によると、2020年にマラリアに感染して死亡した人は、世界全体で62万7,000人に上っている。
前年の2019年より6万9,000人増え、そのうちの約4万7,000人は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に医療体制が混乱したことと関連しているという。
まとめ
stak,Inc.で仮に効果が少しでもあったとして超音波を使っての虫よけモジュールを出していたとしても、蚊には学習能力があるということで将来的には使えないモノになっていたかもしれない。
冒頭に戻るが、死というものを意識するのは、なにも人間だけではなく、生物として生き残る、勝ち残っていくためには必然の能力を備えているということだろう。
いずれにせよ、世の中には役に立たない商品も溢れているので、きちんとエビデンスに基づいて判断をしていくことも重要であるということも伝えておきたい。
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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。