ウォシュレットの商標を持つTOTOが世界で売れる理由
隔靴掻痒(かっかそうよう)
→ 思いどおりにならず、もどかしいこと。
日本企業はグローバル展開ができない。
こんなレッテルを貼られていることは、多くのビジネスマンが耳にしたことがあるだろう。
世界で勝てない日本企業がどうすれば世界で勝てるようになるかといったディベートが交わされることもしばしばある。
私自身も10年以上前になるが、上海でビジネスを展開していたことがあり、思いどおりにならず、もどかしい想いをしたことがある。
ただ、それは日本企業が世界で通用していないわけではなく、世界で成果を出している日本企業を知らないだけだということに気づいた。
そう、立派に世界を渡り歩いている日本企業もある。
そんな良い事例を紹介していこう。
TOTOの最先端トイレ
海外に出ると、日本の良さがわかるというところで必ずといっていいほど耳にすることが2つある。
1つは、飲食店のレベルの高さだ。
その理由は、一部を除いて基本的には誰でも飲食店経営ができるという参入障壁が低いことで切磋琢磨できる環境が大きいといわれている。
もう1つは、トイレ事情だ。
今や多くの人がウォシュレット付きのトイレを使っているはずだが、世界に出るとまだまだスタンダードだとはいえない現状がある。
そして、このウォシュレットという言葉は、日本が世界に誇る優良企業である、TOTOの商標であることを知っている人が案外少ないことも以前に書いた。
世界最古の水洗トイレから最新の水洗トイレ事情
こちらを一読すれば水洗トイレの歴史がわかるが、とにかく日本のTOTOのトイレのクオリティは高い。
簡単に要約すると、こんな感じだ。
・ウォシュレットはTOTOの登録商標で他社の同機能の付いたトイレは温水洗浄便座という
・そもそも温水洗浄便座はアメリカの会社が痔の患者用に開発した医療用具だった
・水温や発射される水の方向が不安定だったのをTOTOが研究開発に力を入れた
・1975年以前は1回で使うトイレの水量が20リットルだった
・2021年現在の主流は4.8リットルに改善した
TOTOの60万円を超える究極トイレ
TOTO、60万円超「究極トイレ」が世界で売れる理由
(東洋経済Plus)
そんなTOTOの業績が絶好調だという。
それを牽引しているのが、ウォシュレット付き便器のネオレストNXという商品である。
その裏側で、TOTOショックという現象も起きているそうだ。
それは、TOTOのウォシュレットが納品されず、建てた家の引き渡しがずれ込むというものだ。
原因は、8月下旬、ベトナムの取引先から調達していた日本向けウォシュレットの部品が現地のロックダウンで入荷できなくなったことにある。
納期遅延の影響はTOTOの自社のみならず、他の住設機器メーカー、ハウスメーカーなどにも派生したということだ。
もともとは中国とベトナムから調達していた部品を、中国のロックダウンで一時的に全量ベトナムからの調達に切り替えたことが裏目に出たというのである。
TOTOでは、納期遅延表面化以前からサプライチェーンの再構築を進め、調達先の複数国化や在庫水準の引き上げを検討してきた。
その結果がベトナムのロックダウンによって裏目に出たのだが、2021年11月から徐々に回復に向かってはいる。
こうしたサプライチェーンの見直しと同時に課題があがっているのが、デザインについてだ。
デザイン性に優れた高付加価値商品は利益率も高く、TOTOの業績を牽引するからである。
2022年3月期の通期業績の見通しは売上高6,500億円で前期比12%増、営業利益500億円で、前期比26%増と好調だ。
けれども、デザインが最もカギを握る欧州市場では2008年の進出以来、まだ一度も黒字化を果たしていないという事実もある。
便器だけでなく、洗面台や浴槽、シャワー、蛇口の形に至るまで、レストルームの空間を一体でとらえる欧州では、デザインの統一性が重視される。
日本から挑戦者として進出したTOTOは機能性で一定の評価を得ている。
とはいえ、寝室のすぐ隣に浴槽やトイレを置くなどレストルームが身近な欧州のユーザーを満足させられるデザインレベルには達していないのだ。
こうした背景から、TOTO社内では多くの製品でデザイン重視の意識が徹底されるようになった。
その象徴的な商品が、デザインを最優先にした、究極のトイレといわれる、ネオレストNXだ。
創業100周年を記念して、2017年に生み出された戦略的商品である。
ネオレストNXという究極のトイレ
一般的なウォシュレット付き便器が15万円程度なのに対し、ネオレストNXは60万円を超える。
そんな高級品だが、世界で年間約3,000台の販売実績があり、最高級品の売れ行きとしては好調だという。
シンプルな卵形の外観をしていて、ネオレストNXは2014年から数十人の社内横断プロジェクトチームで議論を重ねて、たどり着いた形だそうだ。
また、1回に流れる洗浄水の量は3.8リットル。
上述したとおり、汎用品では同4.8リットルが主流であることを考えると、節水効果がかなり大きいこともわかる。
他にも、ウォシュレットの部品をコンパクトにすきまなく詰め込まないといけないという課題を研究開発によって改善している。
陶器を使用することが難しくなることもクリアしている、まさに究極のトイレがネオレストNXなのである。
新商品のキーワード
TOTOの高級商品群であるネオレストシリーズは欧州でも好評だそうだ。
さらに欧州での販売を伸ばすべく、2022年以降に新しい製品の投入も企画している。
新商品のキーワードは、直線だという。
ヨーロッパにはデザイン性の高い四角い便器もある。
海外市場の開拓に向けて、ネオレストNXで追求した曲線美を方向転換するのか注目されている。
TOTOは2019年8月に、水栓金具(蛇口)でもデザインにこだわった製品を世界市場に投入している。
今後は便器だけでなく、こうした水栓金具などシリーズでデザイン性を統一させつつ、機能性をどうブラシュアップしていけるか、併せて注目したい。
まとめ
思いどおりにならないことで、もどかしさを感じることは誰にでもあるだろう。
でも、それをそのままにしておくのか、思いどおりになるように考えて実行するのか、その違いが少しずつ大きな差になっていくように思う。
日本企業が世界に通用しないとはいわせないようにしたいと思うのは自由だし、そういう気持ちがない時点で、新しいことをやる資格がないのではないだろうか。
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