SWOT分析の意義と組み立て方
チャンスの神様には前髪しかないというヨーロッパのことわざがある。
これは、ギリシャ神話のカイロスは、時間の神であり、髪の後ろに束ねた一房の髪の毛で表現されるところに由来している。
カイロスは、チャンスや好機を表すこともあるが、神様には前髪しかないという慣用句のように短い時間枠の中でチャンスが現れることを表している。
また、カイロスのイメージには、頭頂部と後頭部がつながっていないことが含まれており、これは一瞬しかないチャンスを逃すことができないことを示唆している。
つまり、チャンスはすぐに現れるが、その時を逃すと二度と取り返しがつかないということだ。
このように、カイロスは、素早い判断や反応や行動を促すことを意味していて、人生において大切なチャンスを見逃さないように、慎重かつ迅速に行動することが必要だと説いているのである。
そして、私はチャンスを逃さないようにするためには、準備を怠ってはいけないと常日頃からくり返し説いている。
その準備の1つとして使われるのが、SWOT分析だ。
今さら聞けないSWOT分析ってなぁに?
SWOT分析とは、企業や組織の戦略的分析において、自己分析や環境分析に用いられるフレームワークのことをいう。
1960年代にアメリカのスタンフォード大学で、経営戦略の教授であるアルバート・ハンフリーによって開発された。
ハンフリーは企業が戦略を策定する際に、自社の強みや弱み、市場の機会や脅威を把握することが重要だと考えていた。
そこで、彼は自社の状況を分析するためのフレームワークとして、SWOT分析を提唱したのである。
SWOTとは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字をそれぞれ取ったものだ。
Strengths(強み):自社や製品における優位性や強み
独自性などの内部要因を分析することで、自社の強みを把握する。
Weaknesses(弱み):自社や製品における改善すべき点や課題
不利な内部要因を分析することで、自社の弱みを把握する。
Opportunities(機会):市場の拡大や技術革新などの外部要因を分析すること
自社にとって有利な機会を探し、その機会を活かすための戦略を考える。
Threats(脅威):競合他社や法規制、経済的状況などの外部要因を分析すること
自社にとって不利な要因を探し、その脅威に対処するための戦略を考える。
このSWOT分析は、企業の自己分析や市場分析、新規事業や製品の立ち上げにおいて、有用なツールとして広く利用されているというわけだ。
また、組織や個人のキャリア開発にも応用されることがある。
SWOT分析の組み立て方
SWOT分析の一般的な組み立て方は下記のとおりだ。
まずは、SWOT分析を行う目的を明確にする。
例えば、新規事業の立ち上げ、競合他社との差別化、自社の強み・弱みの把握などを行う。
内部要因について、自社の強み・弱みを洗い出す。
社内の情報や資料、社員の声などを集め、以下のような観点で分析を行う。
製品・サービスの品質、ブランドイメージ
生産性、人材、組織の構造、財務状況
顧客との関係性、営業力、販売チャネル外
外部要因について、自社にとっての機会・脅威を洗い出す。
市場動向、競合他社の動き、政治・経済状況などを分析し、以下のような観点で分析する。
新しい市場、顧客層、販売チャネル
競合他社、代替品、法規制
経済環境、社会環境、技術革新
内部要因の強み・弱みと、外部要因の機会・脅威を組み合わせると、4つの視点から自社を見ることができる。
SO戦略:強みを活かして機会を掴む
WO戦略:弱みを補って機会を掴む
ST戦略:強みを活かして脅威に対処する
WT戦略:弱みを補って脅威に対処する
SWOT分析の結果を元に、自社の強みを活かしたり、弱みを補うための具体的なアクションプランを立てる。
アクションプランは、具体的な目標や期限を設定し、実行可能なものである必要がある。
以上が、SWOT分析の基本的なやり方だ。
ただし、分析の精度や結果を生かすためには、正確な情報収集や適切な分析視点の設定が重要になることは当然だが認識しておきたい。
SWOT分析のメリットとデメリット
SWOT分析はあくまで準備の1つであって、もちろんメリットとデメリットがある。
そのあたりまでしっかりと把握しておく必要がある。
まずはメリットについて列挙していくと下記のとおりだ。
内外の環境を包括的に把握できるため、企業や組織の戦略的判断の基礎となる情報を収集できる。
内部要因・外部要因を組み合わせて分析することで、現状の強み・弱みを明確に把握することができ、より効果的な戦略策定や問題解決ができる。
分析結果を共有することで、組織内で意見を共有し、意思決定の意識を高めることができる。
短期・中期・長期などの異なる視点での分析が可能であり、将来の見通しを把握しやすくなる。
一方で、SWOT分析には以下のようなデメリットもある。
分析対象が大きすぎる場合、分析の結果が把握しにくくなる。
分析者や分析方法によって分析結果が変わることがあり、結果が客観的でなくなる場合がある。
分析結果を元にした行動が、組織内での共有や実行に至らない場合がある。
あくまで現状把握のためのツールであり、問題解決に必要なアクションプランの策定が不十分な場合がある。
このように、あくまでフレームワークなのでSWOT分析を適切に行うためには、複数の視点や意見を取り入れ、客観的に分析を行うことが重要となる。
また、分析結果を元に具体的なアクションプランを策定し、実行することがSWOT分析をいい方向に導くのに必要となる。
SWOT分析の事例(その1)
ということで、具体的にどんな感じで組み立てればいいのか事例を挙げてみよう。
まずは、とある小売店がSWOT分析を実施する例だ。
地域に根ざした店舗であり、地元の顧客からの支持が厚い。
品揃えが豊富で、競合他社と比較しても、特に売れ筋商品が多い。
スタッフは地元出身者が多く、顧客とのコミュニケーションがスムーズに行える。
店舗の外観が古く、見栄えが悪い。
ネット販売に比べ、店頭販売の利便性や価格競争力が劣る。
管理職の人員不足により、スタッフのモチベーションが低下している。
近年、地域住民の健康意識の高まりに伴い、健康食品やサプリメントなどの需要が増加傾向にある。
地元の催事やイベントに積極的に参加することで、新たな顧客層を獲得できる可能性がある。
SNSやウェブサイトなどの情報発信を強化することで、店舗の知名度向上につながる。
近隣に新規出店する競合他社の存在があり、市場シェアを奪われる可能性がある。
オンライン販売の普及により、店頭販売の需要が減少する可能性がある。
税制改正や法律制度の変更など、外部環境の変化により、経営環境が不安定になる可能性がある。
このように、SWOT分析を行うことで、小売店の強み、弱み、機会、脅威を明確に把握することができるというわけだ。
ただし、くり返しになるが、あくまで分析結果をベースに、店舗の改善策や戦略の策定を行うことで、経営の安定化や成長に繋がる可能性があるというのがSWOT分析の位置づけだ。
SWOT分析の事例(その2)
せっかくなので、製造業、メーカーの場合のもう1つ事例を挙げておこう。
【内部要因】
製品の品質が高く、ブランドイメージが良い。
経営陣の経験や知識が豊富で、戦略的な判断ができる。
従業員のモチベーションが高く、生産性が向上している。
製品の価格が高く、競合他社に比べて市場シェアが低い。
製品ラインナップが偏っており、需要に対応できていない。
新商品の開発スピードが遅く、市場に先行して参入できていない。
【外部要因】
市場成長率が高く、需要の拡大が見込まれる。
新しい販売チャネルの開拓が可能である。
人口構成の変化に伴い、新たな顧客層を開拓できる。
競合他社の製品が多様化しており、市場シェアの維持が難しくなっている。
原材料の価格上昇により、製品価格の上昇が避けられない。
環境規制の厳格化により、製品の製造に関する制限が増えている。
こうやって事例を挙げると、SWOT分析では、内部要因と外部要因の4つの視点から、企業の強みや弱み、機会や脅威を分析することができることが改めて理解できるだろう。
これらの分析結果を元に、企業は自社の戦略を見直したり、改善点を探ったりすることができるというわけだ。
まとめ
冒頭に述べたがチャンスは誰にでも平等に訪れると思った方がいい。
けれども、そのチャンスを掴むかどうかは一瞬の判断に左右されるということも同時に覚えておくといいだろう。
そして、これも何度もくり返しになるが、チャンスを掴むためには準備を怠ってはいけない。
いついかなるときもチャンスを必ず掴むんだという姿勢を大切にしてもらいたいし、その姿勢の1つにSWOT分析という方法があるということも併せて知っておいてもらいたい。
そして、このSWOT分析は企業の分析に使えるのは当然だが、個人の分析にも使えるので、自己分析をする際にも使ってみるといいだろう。
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