アメとムチ指導法による効果について
アメとムチという言葉があるが、マネジメントにおいて通用するのかということが、しばしば議論される。
結論、どっちでもいいと個人的には思うのだが、まあどういった場面で議論になるのかを知っておいてもいいだろう。
ということで、アメとムチについて考えてみよう。
今さら聞けないアメとムチってなぁに?
そもそも、アメとムチ(飴と鞭)という言葉を聞くと、報酬を与えたり罰を与えたりして人や動物を動かすための手法だというイメージを持っている人がほとんどではないだろうか。
そのとおりなのだが、共通認識として、アメとムチとは、躾(しつけ)において甘やかす面と厳しくする面を併用すると効果的であることのたとえだ。
叱ってばかりではやる気を失っていくし、甘やかしてばかりいてはろくでもない人格に育っていくということで、そのバランスを上手く取るようにしましょうということだ。
そして、ビジネスの場面においては、上手くアメとムチを活用することでモチベーションの向上にも繋げるということが議論されるのである。
4つに分類されるアメとムチ
パブロフの犬という言葉を聞いたことがあるだろうか。
犬にベルを鳴らしてエサを与えることをくり返していると、ベルを鳴らしただけで、犬がヨダレを垂らすようになるという、いわゆる条件反射を表現したものだ。
これを心理学では、オペラント条件づけと呼んでおり、報酬か罰を与えるか除去かによって以下の4つに分類できるとされている。
正の強化(報酬UP)とは、アメとムチでいえば、アメを与える行程であり、最も基本的でよく使われる手法だ。
与えるに好ましい刺激(報酬)には、お金や美味しい食事といった物質的なものから、敬意や称賛などそれによって得られる感情的なものも含まれる。
例えば、子どもがお手伝いをしたことで褒められて、またお手伝いするようになったという循環だ。
つまり、報酬というご褒美を与えることで、その行動をより強化しようとするものだ。
正の罰(罰UP)とは、アメとムチでいえば、ムチになる。
嫌な刺激(罰)には、罰金を取るとか体罰を与えるといった物質的なものから、叱る、悲しむなどの感情的なものも含まれる。
例えば、子どもがいたずらしたことで怒られて、いたずらをしなくなったという循環だ。
つまり、不快な刺激という嫌がることを与えることで、その行動をやめさせようとする、もしくは減らそうとするものだ。
負の強化(罰DOWN)とは、これまで与えていたムチを緩めたり、不快なことが除去されて解放されるイメージで考えるといいだろう。
例えば、子どもがお手伝いをしたことで禁止していたゲームをやらせてもらえたというアメを与え、また禁止されないようにお手伝いするようになったという循環だ。
つまり、不快な刺激という嫌がることを除去することで、その行動をより強化しようとするものだ。
負の罰(報酬DOWN)とは、これまでもらっていたアメを取り上げるイメージで考えるといいだろう。
例えば、子どもがいたずらしたことでお小遣いを減らされ、いたずらしなくなったという循環だ。
つまり、報酬を取り除くことで、その行動をやめさせようとする、もしくは減らそうとするものだ。
アメとムチ指導法についての議論
アメとムチが4つに分類されることは上述したとおりだが、これがビジネスにも当てはまるという従来の考えが見直されている。
その際によく例に出るのが、とある行動心理学に関連する実験結果だ。
それは、T字路の右側にクッキー(アメにあたるもの)を置き、左側に電気ショック(ムチにあたるもの)を置いて、マウスの行動を分析した実験だ。
マウスは何度かの行動で、クッキーが右側にあることを認識して右側に進むようになるという。
その後、実験をくり返し、左側の電気ショックを強いものにした場合、間違って左側に向かったマウスは、その強い電気ショックの衝撃で動くことすらしなくなったという。
さらに、アメであるクッキーのある右側に行く行動さえも取らなくなるそうだ。
つまり、マウスは強い電気ショックを再び受けることを恐れて、クッキーを取りに行くことさえも諦めて、無気力になってしまうという結果が出たのである。
加えて、この強い電気ショックを受けたマウスたちを調べると、ストレス性胃潰瘍を発症しているマウスもいたという。
一方で、電気ショックを与えずにクッキーばかり与えていると、マウスはそのうちクッキーという報酬に飽きてしまうそうだ。
となると、クッキーを取りに行くという行動意欲さえも湧かなくなるということが、この実験によってわかった。
このマウスの実験結果によって、現代では特にムチに対する悪影響に警鐘を鳴らすという形で、アメとムチ方式による躾(しつけ)、教育方針や指導法に疑義が生じているというわけだ。
子どもへの罵声と体罰の悪影響
少し前の話になるが、2013年9月9日にウォール・ストリート・ジャーナルが、子どもを怒鳴れば叩くのと同じ悪影響というタイトルの記事が話題になった。
思春期の子どもが悪いことをしたとして親から怒鳴られると、抑うつ症状や攻撃的な行動のリスクが上昇し、たたかれた時と同じ問題が生じる可能性があるという研究結果に基づいた記事である。
両親と13歳ないし14歳の子どものいる家庭976世帯を調査したその研究では、子どもには様々な質問をして、問題ある行動、抑うつ症状、親との親密度を判断したという。
親には戒めとしてヒドい言葉を発しているかどうかを調べる質問をした。
子どもが13歳だったときに母親の45%、父親の42%が前年に子どもにヒドい言葉を浴びせていた。
13歳の時に親から特にヒドい言葉を受けた子どもは、翌年に同年代の子どもとのケンカ、学校でのトラブル、親への嘘、抑うつの兆候といった問題が増える度合いが高かったというのである。
また、親が戒めとしてヒドい言葉を使ったときと、叩くなどの体罰を与えたときでは、問題が増加する度合いは酷似していたという。
つまり、口論を除く親子の親密度が高くても、ヒドい言葉による悪影響は変わらないというのである。
その結果、さらに親がヒドい言葉による戒めを増やすことに繋がって、悪循環がエスカレートしていくということが発表されたのである。
親子の親密度が高ければ、一時の衝動で罵ってしまうことがあっても、普段からの信頼関係の上で相殺することができると思いがちだ。
ところが、この研究では、親と子どもが良好な関係を築いていたとしても、10代の子どもが親から怒鳴られたり、罵られたりした場合には取り返しがつかなくなる可能性を示唆している。
要するに、怠惰だの愚かだのと侮辱された場合、怒鳴っても、子どもの問題行動を減らしたり直したりはできない、逆に悪化させるという警告を発しているのである。
他にも、人は尊敬し称賛している人に言われたときの方がずっと、自分の行動に責任を感じるという研究結果もある。
この研究では、子どもを叱ったり恥ずかしい目に合わせたりするようなことをすれば、親の持つ力が損なわれること強調しているのである。
警視庁の児童相談所への通告件数
また、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事とほぼときを同じくして、2013年9月13日にNHKニュースで紹介されたデータがある。
2013年の上半期に全国の警察が摘発した児童虐待の事件は、合計221件であった。
当時、この数字は過去2番目に多く、被害を受けた子どもの中では11人が死亡したという悲惨な状態だった。
警視庁が摘発した虐待の内訳は、身体的虐待が157件と最も多く、続いて性的虐待が49件、親から脅されたり暴言を浴びせられたりして心に傷を受ける、心理的虐待が8件だった。
また、警察は事件として扱わない場合でも虐待の疑いがあれば児童相談所に通告しているが、2013年の半年間に通告された子どもは1万61人であり、2012年の同時期より40%近く多かった。
データが少々異なるが、児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は2000年度には1万7,725件だったのが、2020年度には20万5,029件と実に11.5倍以上となっている。
それから、虐待死は統計の3倍以上あるという情報もあるくらいなので、このあたりはリンクしている可能性が高いとみてもいいかもしれない。
まとめ
アメとムチに関しては、過去にもマウスの実験を中心に書いているブログがある。
私自身は結構なキツい言葉を浴びせることもあるので、少々言動を改めた方がいいかもと思ってしまうのも事実だ。
とはいえ、いざ自分がやりたいことを全力でやるとなると、ついそんなことは後回しになっている自分もいる。
このあたりは遠慮しすぎると上手くいかないし、遠慮しなければ批判されるし、人の感情が入ってくるので難しいところである。
とどのつまり、アメとムチについてはあまり気にせずにどっちでもいいから、熱量を伝え続けるということを心がけた方がいいということだ。
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