中国・深圳から学ぶ,文化の発信地としてのスタジアムのあり方
こんにちは.スタジアムヲタクのモリチッチです.今回の記事では,中国のシリコンバレーとも呼ばれる深圳から,スポーツビジネスの中でも特にスタジアムシティのあり方について考えてみようと思います.
この記事にあたって,2023年末に早稲田ビジネススクールの牧兼充先生.深圳を中心に新規事業開発をしていらっしゃる高須正和さん.日ごろから指導してくださっている大森俊一先生,牧研究室の皆様,大森研の皆様,深圳でたくさんの面白い体験をさせてくださった皆様には大変お世話になりました.ありがとうございました.
①深圳ってどんな地域?
深圳は以下のマークされた位置にある中国の都市で,香港の隣にあります.
では,そもそも深圳とはどんな地域なのでしょうか?もちろん一言では語りきれないほど多様な要素が絡み合った地域ですが,今回の記事では以下の2点を紹介したいと思います.
(a)ハードウェアの街(中国のシリコンバレー)
(b)すさまじく発展している街
(a)ハードウェアの街(中国のシリコンバレー)
以下の高須さんの本で詳しく説明されていますが,深圳はハードウェア製品がとてつもない速さで生れている街として知られています.「偽物のiPhone」などが街中で売られていることで知っている方も多いかもしれません.深圳は街中のいたるところで,短いリードタイムで「とりあえずやってみる」精神でいろいろなモノづくりが行われています.秋葉原がレベルアップしたイメージでしょうか…
,何か製品を作りたい人にとっては,必要な部品を身近な人が作っていて,短いリードタイムで仕入れられたり,技術の共有が行われたりしています.
この結果,深圳では至る所で「面白いもの」が作られ,ブラッシュアップされていっています.一流企業であるBATHや,多くの大企業が深圳に拠点を構えていることでも知られています.
このように,今や深圳は中国のシリコンバレーとしてビジネスとしての成功がいたるところで起こっています.
(b)すさまじく発展している街
(a)の内容も影響して,深圳は著しく発展している街として知られています.人口の観点では,年間100万人ほど増加しているそうです.それゆえ,町中で高層マンションの建設が進んでいます.それもそのはずで,3~4年間で横浜市の人口分の新しい家が必要になる計算なのです.また,地下鉄も毎年2本ほどのペースで増設されているようです.
増え続ける人口の多くはビジネスマンやエンジニアなどの労働者です.このようにして,周辺地域から多くの人がやってきているという状況に対して,「味気ない街になってしまうのではないか?」「一時的な繁栄で終わってしまうのではないか?」などといった懸念を抱く人もいます.以降では,こうした懸念に対してアートの視点から取り組む方を紹介し,スポーツビジネスにも紐づけていきたいと思います.
②街の価値を高める深圳のアートの世界
深圳にアートを持ち込んだ方の一人がケヴィンさんです.ケヴィンさんは僕たちにこんな話をしてくれました.
また,深圳で新規事業開発をしている高須さんはこのようにおっしゃっていました.
このお話を聞いて,この考えのイメージが湧くでしょうか?私は正直に言うと,その時点ではあまり理解ができず,何日間かどういうことなのかを考えることになりました.考えた結果出てきた,僕なりの現状の答えを以降で述べていこうと思います.
③街の価値を高める背景にあるシステム
ケヴィンさんとは,Rhizomatiksという会社が手掛ける美術館に伺いました.この美術館で展示されていたのは,一般的な美術品ではなく,深圳らしさ全開の作品でした.
様々なハードウェアにアート要素がかけ合わせられた作品をたくさん見ることができました.例えば,以下の写真はリアルな世界で動く物体に対して,バーチャル映像を投影したものをスクリーンで見るという作品でした.
アートとしての価値は僕には分かりませんが,多くの人が訪れており,深圳での起業家の方もいらっしゃっており,「新しい製品へのアイデアが何個かもらえた」とおっしゃっていました.
この美術館と,2人のお話から感じ取った重要な要素は以下の4点です.
・深圳らしさ全開である
・地域の人が集まり,好感触をつかんでいる
・アートを通したエコシステムを作りたい
・モネ展ではなくオリジナルな作品こそが街のクオリティを高める
以上の4点をまとめると,深圳におけるアートの役割は以下の様にモデル化できるのではないかと考えました.
深圳では以上のような好循環が目指されているのではないでしょうか?
深圳全開の作品にこだわった美術館に対しては,深圳の人からの興味が集まります.こうして関わりを持った人たちが街に対して更なる理解を示し,更なる愛着につながります.この愛着が高まると,それに基づいた発信のインセンティブが高まり,文化の発信につながるのではないでしょうか?
ここでいう「文化」は決して「アート」に限るものではないと思います.例えば,深圳のとある公園では,ドローンがコーヒーを運んでくれるサービスがありました.このサービスはおそらくテスト段階でしたが,深圳らしさあふれるプロダクトであり,多くの市民の関心の的でした.
このように「面白いアイデア」のようなざっくりとした区切りでもよいし,「食文化」でもよいと思います.同様に,「スポーツ」でもよいのだと思います.以降では,スポーツ(スタジアムシティ)において好循環を回すためには何が必要なのか?ということを考えてみようと思います.
④スタジアムシティはどんな工夫がされているのか?されるべきか?
北海道では最近エスコンフィールドがオープンしました.長崎では,間もなく長崎スタジアムシティが本格的にオープンします.愛媛県今治市ではFC今治の里山スタジアムが最先端のコンセプトを用いたスタジアムとして有名です.
こうしたスタジアム,スタジアムシティでは深圳での教訓がどのように活かされているのでしょうか?
以上の画像は今治,里山スタジアムの特長に関する文部科学省の資料の抜粋です.好循環における「特徴を活かした文化の発信」は主に【参考ポイント②】に該当するのだと思います.この特長は長期的な発展においては非常に重要なのだと思います.
エスコンフィールドがオープンした2023年シーズンの盛況ぶりはすさまじかったようです.しかし,この要因は他県からの観光客の影響が多かったようで,2024年以降が勝負になります.長期的な成長戦略を立てる上では,「他の地域で良しとされているもの」を導入するのではなく,「その地域だから良しとされるもの」を導入していく発想が必要なのではないでしょうか.
非試合日の盛り上がりを狙う上では,スタジアムが文化の発信地のパイオニアとしての役割を担うことによって,盤石な街づくりを目指してほしいと思います.