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根源となるのは「お客様に対して誠実であること」。ARC'TERYXが掲げるブランドの価値とCRMの重要性

1989年、カナダのノースバンクーバーで誕生したARC'TERYX(アークテリクス)。「地球上にある最高の素材、最高の技術、革新的なデザインで製品を作る」というコンセプトの元、高い機能性とファッション性から人気を博しており、近年、日本国内でも出店を加速。海外のファッションアイコンが着用し話題になるなど、急速に流通量が増えています。

EC界隈でもその目覚ましい成長は注目されておりますが、同社の成長エンジンは意外にも「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」との事。今回はその取り組みの詳細について、ECチームとマーケティングチームを統括している大村さん・林さんにお話を伺いました。

アメアスポーツジャパン ECチーム マネージャー 大村さん(左)
同 マーケティングチーム マネージャー 林さん(右)

ARC'TERYX、躍進のワケ

— 既に認知度のあるブランドですが、ECの集客で困ったポイントなどは過去ありましたでしょうか?

林:現状、集客が課題になった事はありません。むしろ、需要に対して供給が追いついていない為、ROAS(広告の費用対効果)が上がらないという課題があります。

集客が成功している理由としては、店頭の出店に合わせてメディア露出を強化した事が要因と考えています。昨年の3月に二子玉川に店舗出店をした当時、まだ店頭に行列が出来る事はなかったのですが、同年9月に京都に出店した際には行列が出来るほどになりました。

もちろん、円安が原因でインバウンドの効果があった事も要因ですが、出店×メディア戦略による認知拡大もあったのかと。特にコロナ禍は製品の供給量も今より少ない状況でしたので、お客様に良い飢餓感を与えていたのかもしれません。

また、我々が意図していない点では、パリコレのフロントローに呼ばれるようなセレブリティやインフルエンサーがARC'TERYXを着用しており、それらが実需に反映されたと推測しています。

9月にはGINZA SIXにも新店舗がオープンし、全国からブランドのファンが駆けつけた

— とはいえ、ECはプロパー消化が難しいチャネルだと思います。それでもセールをせずに売上が伸びている要因は何なのでしょうか?

林:とにかく弊社は、過去から「安売りはしない」事を一貫して実行してきました。例えば、「今日買って明日30%オフになる」事はお客様を裏切ってしまう事になります。そして、その姿勢は店作りからスタッフ教育に至るまで徹底しています。また、卸先の小売店さんもそれを信じて長い期間付いてきてくれました。昨日、今日始めた取り組みなどではないのです。それだけ長い時間をかけて「ARC'TERYXは安売りしないブランド」という意識が根付いてきたからだと信じています。

大村:テクニカルな点では、新製品入荷の際に、販売開始日ギリギリに製品ページをアップロードしません。販売する少し前からアップロードしておき、お客様が「入荷通知」を受け取れるようにしています。そのデータから、お客様の需要も見え、在庫量をある程度コントロールする事が可能です。このデータは次シーズンの発注にも活用できるので重宝しています。また、「いつ入ってくるのか?」という期待感を煽る効果もあります。このような機能を比較的安価で簡単に実装できるのはShopifyの良い点です。

具体的なお話を挙げますと、ECをローンチした当時より、現在の方が大きめサイズの需要が増えているのですが、これは明らかにビッグシルエットのトレンドを意識した方が多く、ファッション需要が高くなった結果です。このように、需要がわかりやすくデータに反映されるのは我々の業務にとても役に立っています。

— 過去からファッション好きに製品が好まれてきたとは思いますが、意図的な施策はあったのでしょうか?

林:特別、ファッション性を高めようと意識した訳ではないのですが、過去からBEAMSさんやオッシュマンズさんとのお取引きが長く、小売店さんがその土台を作ってきたという認識です。

ARC'TERYXでは小売店さんとの別注品も展開していますが、そこから認知が広がり公式で購入される方も多くいらっしゃいます。特に『ARC’TERYX × BEAMS プロジェクト』はグローバルで展開されていますので、世界でも反響があります。

北米での人気が特に凄くて、ニューヨークのショップでも行列が出来るくらい反響があります。我々が海外出張中にも、ニューヨークとバンクーバーの店舗で「BEAMSとのコラボはいつやるの?」とお客様からの声を聞くほどです。

BEAMS特集ページ:https://www.beams.co.jp/news/3153/

お客様に真摯に向き合うためのCRM戦略

— 大手アパレルでもポイントプログラム以外の会員特典を設けるブランドは増えていますが、対策が早かったかと思います。ここを重視された理由は何かありますか?

林:2021年に社内でCRMの会議がスタートしまして、他社の調査も同時に開始しました。北米でのCRMとは、メルマガ会員をどれだけ獲得するか?に偏重しやすく、日本ではここをどういう位置付けで進めるか?は、実は非常に重要な要素でした。CRMのコンサルタントを招いてディスカッションを続け、より良いサービスを確立しようとした事が今のユニークな会員プログラムに繋がっています。それが現在の「BIRD CLUB」がスタートした経緯ですね。

BIRD CLUB (ARC'TERYXの豊富な会員特典が魅力)

余談ですが、その流れでコンサル会社にモバイルアプリの見積もりもお願いしたのですが、フルスクラッチだと眩暈がするような高額な費用でして(笑)

とは言え、店舗出店のタイミングでモバイルアプリをローンチするのは必須事項でしたから、ほとほと困り果てているところにAppifyというサービスを知り、藁をも掴む思いで問い合わせました。それから約半年程度でモバイルアプリをローンチできたので、本当に助かりましたね…。同じタイミングでVIPを導入し、結果的に出店のタイミングでポイントの一元化まで実現しました。

大村:また、現在モバイルアプリで実施している抽選販売はAppify×VIPの目玉機能ですが、本来はECで抽選販売をするつもりは無かったんです。当初、抽選販売は新しい店頭のオープンイベントのみで行っていたのですが、転売目的のお客様からの購入が多く、本当にお届けしたかったお客様へ製品が届かない事態が一部発生していました。その対策としてスタートしたのがモバイルアプリを活用した抽選販売です。VIPの導入により、当選のロジックが過去の購買実績に基づくようになり、今ではARC'TERYXを本当に求めているお客様にしっかりお届けできるようになっています。

ARC'TERYX公式モバイルアプリ内では、人気商品の抽選販売が行われている

「転売目的のお客様を完全に排除したい」というよりは、「本当にARC'TERYXを求めているお客様を大切にしたい」という思いが最優先です。それこそ、CRMの会議をスタートした当初は「取得したお客様の情報を最適化したい」という思いがありましたが、今では目的が「顧客満足度」に変わってきています。その為には、今実施している所謂「オムニチャネル」や「OMO」施策の実現がないとできていなかったでしょう。目的を履き違えず、とにかくお客様に喜んで頂く事を最優先するのが何よりも重要であると痛感しております。

先述しました通り、ARC'TERYXの製品は新しいモデルでも似たような型、名称が多いですから、お客様から「この製品は以前の製品とどう違うのか?」と店舗に頻繁に連絡が入ります。そのようなご相談・ご質問に随時対応できるよう、今後はコンシェルジュサービスの導入も予定しております。また、会員ステージが高いお客様用には店舗にサロン空間を設け、そこで優先的に製品を見て頂けるようにする事も考えています。

Daimond会員向けにコンシェルジュサービスの提供が予定されている

— 会員プログラムでは顧客情報一元化で満足する方が多いですが、VIPだからこそ出来る施策はどのようなものがありますか?

林:Appify×VIPの機能を活用しますと、会員ランク別に施策を実行する事ができます。これがとても便利で、例えばモバイルアプリで会員ランク別に表示するページを変更する事が可能です。プッシュ通知もセグメント別に配信できますから、施策によって柔軟な対応もできますね。「シルバーランク以上のお客様だけに通知したい」という要望が簡単に実現できます。

特定の会員ランクに達すると参加できるイベントも

大村:また、現在は3%のポイント還元を実施しているのですが、将来的にこれは撤廃していく予定です。代わりに導入予定なのが「リワードプログラム」です。以前に「ゴアテックスのアイテムのクリーニング」を店頭で受け付けたところ、1ヶ月で400件以上のご希望を頂いたのですが、そのような普段からお客様が潜在的に秘めているご要望をリワードでご用意しようかと考えております。金銭面でのメリットの提供はどのブランドでもできますので、「ARC'TERYXでしか受けられないサービス」にしたいですし、Appify×VIPの機能でそれが実現できるのはブランドが成長するのに貢献度が非常に高いです。

編集後記

出店とメディア戦略からECの集客が担保され、規模拡大に伴い必要となったCRMという要素。ARC'TERYXにとって成長エンジンに必要不可欠なCRMでしたが、根源となるのは「お客様に対して誠実である」という姿勢でした。

「ブランドとして必要なフェーズだから」という理由だけで施策立案するのではなく、自社の顧客と向き合い、何が求められているか?を試行錯誤した結果が会員プログラムの中身に現れます。

ARC'TERYXから学ぶべきは会員プログラムの側ではなく、真摯に顧客と向き合うその取り組み方に他ならないでしょう。まさに「提供するサービスの最適解は顧客の中にある」という好例と言えるのではないでしょうか。

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