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デザイナーの言葉と想いを顧客に届ける。MURRALが実践するブランドストーリーの語り方

「平凡な日常に少しのドラマチックを」というコンセプトのもと、植物や風景など自然をモチーフに繊細なデザインで独自の美しい世界観を表現するMURRAL(ミューラル)。
オリジナルの刺繍やレースを使ったアイテムが特徴で、日本の職人技術を活かした高品質な製品作りが魅力のブランドですが近年では、ECを主軸にセールスを拡大していることが話題になっています。
また、ユニークなロイヤルティプログラムや完全予約制の試着型店舗の展開など、先進的な取り組みにもいち早く着手しているMURRALですが、何がEC売上への貢献度が高いのか?について注目してみました。


インタビュイー

株式会社CEORY(セオリー)EC担当 田中千晶さん
文化服装学院グローバルビジネスデザイン学科を卒業後、株式会社gumigumiにてファッションクリエイティブディレクター軍地彩弓さんのアシスタントとして従事。並行してEC支援会社でも勤務。
その後複数のアパレルやアクセサリーブランドを運営していたBRH社に転職後、同社が運営するアクセサリーブランド「graey(グレイ)」のECを担当していたが、同社の分社化によって設立されたCEORY社に入社し、現職に着任。現在はブランドマネージャーとECに関わる業務全般を担当。

MURRALのブランドコンセプトと成長の転換期

ー 現在の卸とECの売上の比率を教えてください。

田中:現在、MURRALは売上の8割が直販で2割が卸です。数年前までは卸がメインだったのですが、コロナ禍でセールスが縮小する恐れがありECを強化する方針になりました。初期は月商20〜30万円程度の売上で「ECサイトがあるだけ」という状態。強みとしてはドレスが比較的売れやすい、程度でした。

転換期としては、卸先セレクトショップの中でも有名店である「LITMUS(リトマス)」「JURK(ユルク)」との取り組みです。当社には「Framed flower dress」という人気の刺繍ドレスがありますが、2021年にその別注カラーを作ったところ、認知度が大きく高まり売上に繋がりました。SNS上で「刺繍・ドレス」のブランドとして確立したのはこの頃だったと記憶しております。

LITMUS exclusive collection

田中:JURKはヘアサロンが出自のショップという事で美容学生にカリスマ的人気を誇っていますが、別注アイテムではヘアーカフを販売した事も貢献度が高く、美容学生など普段と違うお客様の層に知っていただく機会になりました。

その後はECで順調に売上が取れるようになり、中でも刺繍ドレスは「発売したら即完売する」という状態になりました。一時は発注量をコントロールすることに苦戦しましたが、MDの改善に着手し、現在は計画を立てて生産量を調整するようになりました。課題としては、絶対に売り切れる程度の枚数ではコスト面で通らず、ある程度の発注量が必要になる点です。ですから、現状は売上の2割程度である卸を強化し、生産数のミニマムを超える数量にするのが目標です。流通量が増えるとその分、認知度アップにも繋がりますので。

また、試着会も2021年からスタートしていますが、先述しました「ECで売れる」状況になってから始めています。認知度が上がってきたタイミングでのスタートでしたので、試着店舗も売上への貢献度は大きいですね。お客様からのお問合せが相当数増えてきていましたので、ちょうど良いタイミングでした。初回の開催では2,3人程度の方が来店される程度の状況でしたが、回を重ねるごとに1度で数百万円の売上が獲得できるほど成長しました。今では毎月開催していますが、今後は平日もオープンしようかと検討しております。

試着会「Salon de MURRAL」の様子

言葉とデザイン、そして顧客体験

ー ブランドの特長が多々見受けられますが、MURRALならではの価値はどこなのでしょうか?

田中:MURRALの特長としては、デザイナーが言葉を紡ぎ、言語化する事に重きを置いている点です。お客様が考える余白も残しつつ、控えめですが毎シーズン、テーマを言葉にしています。1シーズンごとに明確なテーマがあり、テーマごとにシリーズを設けています。シーズンごとにシリーズが変わる事もあれば、次シーズンに引き継ぐ事もあります。

ルックページだけでなく、商品詳細ページでもデザイナーの言葉で詳細に商品を説明しています。ECサイトだけに限定せず、サロンの接客やinstagramのライブ配信でも伝えるよう徹底しています。

田中:また、今では刺繍をアイコンにするブランドは市場に複数見られますが、当社ではデザイナーが手書きで図案を書いているので柄は完全なオリジナルですし、デザイナーの思いがモチーフに強くこもっています。作りの面では国内工場を使っているのですが、刺繍と一口に言っても様々な技法があります。工場と技法について話し、今までに無い技法を使っています。それが一番の差別化になっているかと思います。

収縮加工刺繍も製品に落とし込んでいるのはMURRALだけです。そもそも、熱を加えることで収縮する性質を持つ収縮布が作れる工場が国内に1社しかありません。このように、工場とオリジナルの商品を常に開発しているのが強みと言えます。

収縮加工刺繍を施した商品の一例

ー シーズンテーマを言葉で明確に紡いでおりますが、ここの狙いを教えてください。

田中:当社ではデザイナーが2人組の体制なのですが、主に村松が言語化を担当しており、それを関口がデザインしています。そこで言語化されたものをコンテンツとして活かしている形です。

サロンの接客でお客さまがデザイナーの言葉を聞いてとても反応が良かったので、それをオンラインでも表現した方が喜ばれるのでは、という思いから始めました。

顧客との接点を重視した試着型店舗「Salon de MURRAL」

ー 試着会を完全予約制にしている理由は何なのでしょうか?

田中:当初スタートしたタイミングはコロナ禍だったので、それが理由なのですが、回数を重ねるにつれて、「お客様の情報が事前に確認できるから」が大きな理由になりました。試着会はリピーターのお客様が多いので、過去の購入履歴を見ながら次に来店された際にどう対応するか?が事前に考えられるのは大きなメリットですね。

ー 試着会の集客は何をメインにしていますか?

田中:リピーターのお客様には主にSNS・メルマガ・LINEで通知しています。最近ではファッション関連のメディアに取り上げていただく事もありますね。また、新規のお客様への認知はSNS広告を中心に出稿もしています。

ロイヤルティプログラム「Garden by Salon de MURRAL」

ー Garden by Salon de MURRALの開始に際して、このタイミングでロイヤルティプログラムの導入を検討した背景や、プログラム名に込めた意味などあれば教えてください。

田中:試着会が確立されたタイミングで、事前予約にてたくさんの新規のお客様とリピーターのお客様が混在するようになっていきました。このような状況で、スタッフ側がどなたが新規でリピーターなのか把握し切れなくなったのです。結果、どのお客様にも同じような接客になり、顧客様へのおもてなしが必要だと感じました。

そこで取った手段が、「会員」という概念を作る事です。情報収集する中で、2023年からロイヤルティプログラムがトレンドになり、実装のハードルが格段に下がったと認識しております。これくらいなら当社でも導入できそう、というタイミングになりましたのでStack社のVIPを実装しました。

田中:当社のブランドのデザインは花がモチーフでしたので、それが由来でプログラム名も「Garden」という名称にしております。また、会員ステージの名称も全て花の名前から採用していますが、これはわかりやすいランク付けはしたくない、という思いからです。もちろん特典に違いはありますが、それをなるべく感じさせない、横並びとして捉えて頂きたいという思いを込めております。

ロイヤルティプログラム「Garden by Salon de MURRAL」

ー デザイナーズブランドがロイヤルティプログラムをスタートすることに関しては、お客様への見せ方や社内調整等、様々な苦労があったと推察しております。参考にしたブランドや、準備段階で工夫した点などはありますか?

田中:ラグジュアリーブランドの特典は特に参考にしました。例えば、バレンシアガでは、誕生日には自宅にブーケが、バレンタインにはチョコレートが送られるなど、顧客向けのプレゼントが徹底されています。また、本国のショーに招待される・担当者がコレクションの説明をLINEでしてくれる、などコンシェルジュ的な要素もあります。旅行の招待から旅先で商品を見せてくれる、などのおもてなしをするブランドもあり、徹底したCRM施策はとても参考になりました。

それ以外ですと、ビューティー関連のブランドのロイヤリティプログラムはとても工夫されています。

例えば、CHANELでは来店ごとにタロットを引いて、そこで引いたものを次の来店の際にもらえる、という取り組みがありますが、このような取り組みが次回の来店動機にも繋がっています。

当社のようにあくまで嗜好品であり比較的単価が高いアイテムなら「これらをどう落とし込めるか?」を考え、独自のプログラムを提供していきたいですね。

株式会社CEORY(セオリー)EC担当 田中千晶さん

ー 今回、ロイヤルティプログラムをいくつかのフェーズに分けてリリースいただいているという認識です。まず初回リリースではどこまでを行い、お客様の反応はどうだったのでしょうか?

田中:初回リリースは告知のみで、獲得したポイントが何に使えるか?は未公開だったんです。その時点でお客様が疑問を持たれる事はなく、「登録したくない」という方はほぼ0でした。当社のECサイトではゲスト購入が可能になっておりましたので、リピーターの方でも会員登録されていない方がたくさんいらっしゃいました。以前から積極的に登録を促していなかったのですが、ロイヤルティプログラムのリリースからそのような方々の登録が促進された事は非常に良かったですね。データが整う事により、お客様によりお得な提案ができますから。

ー 8月頃からオリジナルアイテムとポイントの交換も始まりました。こちらの企画進行の仕方、工夫した点、お客様の反応などあれば教えてください。

田中:ポイントと交換できるグッズをどうするか?にこだわりたかったので、生産管理とデザイナーと密に相談しました。とにかくブレストで案をたくさん出し、そこから削る。という作業を繰り返しました。

案が出た後、デザイナーがグッズのイメージを出し、お客様の顔を思い浮かべながらそれが当てはまるかどうかを考える。最後に採算性をそこに付け加える。

そこで初回は数種類のポーチとハンガーを用意しました。お客様の購入金額も計算して、原価を考えながら考案しています。こちらのグッズがリリース後、1ヶ月も経たずに交換が終了しました。当然、ポイントとの交換率は非常に高くなっております。

ポイント交換アイテム

田中:お客様からのお声もたくさん頂き、「ポーチが欲しいから悩んでいる服を購入する」「ポーチのデザインがかわいい」「他の色は出ますか?」というお声をサロンで聞く事もあります。ポイント付与のお問い合わせも相当数増えております。サロンのお声だけでなく、お客様アンケートを取ったり、お客様と接するスタッフには直接ヒアリングするように促しています。

ー 実施前後で社内メンバーの姿勢の変化などがあれば教えてください。

田中:実は導入前、「ロイヤルティプログラムを導入したい」と社内でお話をした際、あまり腑に落ちていない状況でした。元々、顧客の階層は来店頻度で見えやすかったという事もあり、「顧客」というざっくりとしたイメージだけは社内にあったのです。

導入後、顧客の階層がより細かく定義・明確化されました。ステージごとの名称を付けた事でプログラムが機能し、そこから社員が納得して動くようになっています。以前より、明確な会員ステージのイメージが付いた事は社内のオペレーションを円滑に回す効果も担っています

また、ポイント割引を導入しなかった事は社内でも受け入れられやすかった事の一つです。値引きの手段が増えてしまう事は、商品を買う事の価値を下げてしまうイメージが社内の共通認識としてありましたので。

データ活用と体験価値の向上

ー 今後の展望について、既に準備していることなどがあればご紹介いただけますか。

田中:今後はスタイリングサービスなど、体験価値を高めるサービスを導入していきたいです。現状のサロン接客でも、デザイナーの接客が受けられる事の満足度が非常に高く、今後はそこを会員特典にしたいです。また、ショーへの招待は今のところ一部のステージのみの特典なのですが、それをポイントで交換できるようにしたいですね。他には、最上位ステージの「Dahlia」の方のみをお招きしてディナーパーティーを開催することもありました。これからも様々なコンテンツを充実させていきたいと考えています。

ディナーパーティーの様子

ー ブランドや会社として今後注力していきたいことなどあれば教えてください。

田中:今後はロイヤルティプログラムの詳細な効果検証に取り組んでいきたいです。その為にも細かなレポーティングが見れるとありがたいですね。ランクごとの転換率や次年度の予測などが簡単に出力できれば検証も捗ります。明確な目標が見えるとスタッフも頑張れますから。

編集後記

インタビューを通じて強く印象に残ったのは、ブランドが一貫して持つ「ブレない姿勢」。
アイコンや製品特性、シーズンテーマやシリーズ名、さらにweb戦略に至るまで、あらゆるアプローチがブランドのコンセプトに深く根ざしており、それがブランドの強さを形作っていると感じられました。
「自社の真髄は何か?」そして「それをデジタルでどう表現するか?」—デジタル施策においても、ブランドの本質が揺らぐことはありません。
その揺るぎない価値観に共感した人々が「顧客」となり、顧客の声に応える形でブランドがさらなる進化を遂げていく。このような健全な顧客との成長が、ロイヤルティプログラムとの親和性を生み出し、唯一無二のMURRALというブランド価値を提供しているのだと強く感じました。

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Stackについて

Stack Inc.は、SaaS型小売基幹システム「SQ」と、Shopify機能拡張の提供を行っております。2021年4月にブランドがモバイルアプリを構築・運用できる「Appify」を、2021年10月にブランドがロイヤリティープログラムを展開できる「VIP」を正式にサービス公開し、機能の改善・拡大を続けてきました。今ではStackが提供するサービスは200以上のマーチャントで導入されています。

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