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【ASD】出ている言葉をみれば、言語獲得の傾向がみえる

こんにちは、子ども専門の言語聴覚士、三輪桃子です。
今回は、言葉の発達についてのお話です。

こんなご相談を頂きました。

ASDの診断がある子。発語は宇宙語のようなものを話し、他には「いやだ」「できた」という発語が数語見られるだけです。要求は、クレーンで表出します。言葉を身に付けれたらいいなと思い絵本をよんでいたものの、今は全く見てくれなくなりました。この子に、いろんな物事やものの名前を教えたり興味を持ってもらうにはどうしたらよいでしょうか?

今回はこのご相談をもとに、発達凸凹キッズの言葉の発達について、考えていきたいと思います。

※この記事は、小児科医の石川道子先生と言語聴覚士の三輪で行っている「発達凸凹キッズの集団あるある」と題したInstagramライブをまとめているものです。ぜひ、Instagramも合わせてご覧ください。

ライブリンクはこちら⇩
https://www.instagram.com/hattatsu.hoiku.gakkou/

今出ている言葉から、言語発達の傾向を知る

ASDの子の多くに、見る情報に強い一方で、言葉の存在そのものに気づくのが遅い、という特徴が見られます。また、言葉の存在に気がついた後は、目で見て”こういうもの”と分かるもの、つまり名詞を先にマスターできる子が多いです。

しかし、大前提として、診断名が同じでも、子どもの初期の発達は、子どもによって個人差が大きいです。現に、ご相談の子は、話せる言葉の数がそれほど多くないのに、「できた」「いやだ」といった、見えないコミュニケーションの言葉を獲得しています。

よって、診断名だけで傾向を図るのではなく、今でている言葉を見ると、その子がどうやって言葉を獲得していくタイプかの傾向を知るという視点が大切です。

もしかすると、ご相談の子は、「いや」と言えば嫌なものを避けられるとか、子ども自身に利益があると分かると、言葉が身に付きやすいタイプの子なのではないか、と推測できます。

また、その場になかったり、見えないものが欲しい時には、言葉で伝える必要がありますが、欲しい物が見える範囲にあるのであれば、いちいち名称を覚えなくても取りにいったり、指差しで示せば良いのです。そう考えると、このお子さんは、物の名前が使えないと困るという生活ではない、また、見えてないものを欲しいという感覚がまだ芽生えていないと推測されます。要求の表現がクレーンで出ていることも考えると、まだ目の前にあることを何とかしようとする段階であることの裏付けになります。

発語よりも、理解を伸ばすことが大事

大人は、子どもに”話してほしい”と強く思うものです。ただ、理解が伴わずに、発語するのは、どうかなと思うのです。

ASDの子の中には、理解が伴わずに、音声をそのままコピーして発語する子がいます。例えば、CMのフレーズやDVDのセリフを、そのまま丸暗記してしまうのです。でも、それらの言葉は、コミュニケーションにはあまり役に立たないのです。なので、言葉を自分で話す前に、「言葉を理解できる力」をぐんとあげるほうが、本人は暮らしやすいと言えます。

言葉の理解力を育てるためには、子どもに話せることを求める前に、目の前に出てきたものに対して、大人がいちいち「りんご(でてきたね)。」のように言葉かけをしていく必要があります。発語がないまたは単語レベルの段階の子は、前後にいろいろな言葉が付くと、理解できない子もいるので、できれば単語で伝えていくと良いでしょう。

繰り返しのある、特定のおもちゃを取って欲しいといった時に、「分かっているだろう」と思わずに、言葉を丁寧に伝えていくと望ましいです。

おそらく、ご相談の方は「出来たね」とか「嫌なんだね」と言葉を丁寧にかけていたので、お子さんが言葉が身につけやすかったのではないでしょうか。

また、ASDのお子さんは音を捉えるのは難しさがある子が多いので、動作のように目で見て分かるものが加わることで、理解が補強されやすくなります。

ASDの子に共通する、言葉の獲得の特徴

ASDの子の言葉を獲得していく上での共通点として、「興味のあるものは獲得するが、興味のないものは獲得しづらい」ということが挙げられます。好きなものの周辺の言葉や、好きなことをやっている時の大人の声掛けが入っていることが多いです。また、自分にとってメリットがあること覚えやすい子が多いです。電車の車種や虫は、大人以上に詳しい子がいますよね。

中には、単語は得意ではないが、物が出す音を覚えることが得意な子もいます。電車のドアが開く音、踏切の音などです。そうすると、物の名前を覚えることに飽きが来てる時は、ものが出す音を言葉かけしてあげると、わりと覚えが良い場合もあります。いわゆる、オノマトペです。

子どもの言葉を学習する傾向を掴んで、傾向にそって言葉を促していくのは、ASDの子どもにぴったりの方法です。

ASD児の絵本の選び方

言葉を獲得していくために、絵本を頑張って見せようすることはありますが、その方法も子どもの状態によって検討が必要です。

例えば、絵本を持つと中身を見てないで破ろうとしたり、ペラペラめくったり、上を持って振ったりする子がいます。この段階の子は、本は紙の上に何か書いてあることが重要だ、ということがまだ分かっていないので、絵本での言葉の獲得はまだ難しいと思われます。

また、ストーリーに興味がない子は、自分が好きなものが山ほどかいてある絵本を好みます。食べ物や、キャラクター、図鑑などです。かなり字が読めるようになった子でも、ストーリーより絵を見ることを楽しむ子もいます。

ただし、図鑑は変化しないので、図鑑を好むということと、変化やストーリーを理解する力はまた別と考えます。それから、図鑑は言葉を覚えることに役に立つことはありますが、コミュニケーションにはあまり便利じゃないことが多いです。

一部、理解力がとても高いASDの子は、読んだストーリーを覚えて絵と一致させて見るのが得意だったりします。しかし、一般には、ASDの子は絵本のストーリーの面白さに気づくのが遅いのです。

ストーリーにまだ興味ない子は、言葉の理解や発語のレベルに合わせるのでなく、ストーリー理解の発達に合わせた本も読んであげた方がいいと思います。例えば、いないいないばあは、低年齢向けで、ストーリーがない絵本です。絵を見ていたらパッと変化するのが楽しいので、見て変化を楽しめるという点で、ストーリー理解の第一歩です。

繰り返しになりますが、ASDの子は、本人が興味があるものであれば、絵本という媒体から吸収することが多いと思います。だから、「どんな本をじっと見るんだろう?」「絵本のどこに興味を持っているんだろう?」を分析すると、次に選ぶべき本が見えてきます。

絵本を嫌なものにしない、幼児期の関わり

絵本は言葉を覚えるために使うというより、子どもの楽しみを増やすために使えると良いと思います。

絵本は、コミュニケーションと同じで、人と分かりあえたとか、人と触れ合って楽しいとか、読んでいて本人が楽しくなる媒体なのです。でも、本人が人との関わりがあまり得意では無い時に何かを上手になるために、圧迫されたり練習用に使われたりすると、絵本が凄く苦手なものになっていきます。

将来的には「本はおもしろいな、知らないことを知れるな」とか、「気分が悪かったけど、本を眺めたら落ち着いた」のように、本は良いものだと思ってもらいたいです。

だから、将来のことを考えると、本人が絵本が苦手だと思わないように育てることは凄く大事なポイントです。苦手にさせてしまいそうだったら、大人は1回引いた方がいいです。

相反すること言うようですが、身辺動作は嫌がっても練習した方がいいでのす。本人の楽しみではなく、日常でやらなきゃいけないことなので。ただ、絵本や人との関わりのような、本人が楽しみに使うものは、無理強いしない方がいいということです。

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