“自分の気持ちに素直になることにした。”
○○:えー…本社✕✕部所属の○○○○と申します。本日、みなさんの貴重なお時間をいただき…
研修2日目、先輩社員の講話ということで大勢の前に立つ○○。
和:………。
その姿を見つめ、すぐに俯いてしまう和。
何度も何度も…何度も見たはずの顔が、なぜか別人のように感じる。
それは、大勢の前に立つ緊張感が○○の表情に現れているからか。
それとも、普段の職場や取引先とは全く違う舞台で、○○がよそ行きの雰囲気を醸し出しているからか。
それとも…
和自身が、これまでと同じ目で○○のことを見ることが出来ていないからか。
答えは…わからない。
和:………。
上の空の和。
研修2日目は…あっという間に終わっていた。
――――――――――
あやめ:大丈夫…?
和:うん、大丈夫だよ。心配しないで?
宿泊施設の部屋。心配そうに和の顔を覗き込むあやめに、和はにっこりと笑顔を作ってみせる。
研修2日目の夜も食事会と称した集まりが開けられることになっていたが、和は体調が優れないからといってこれを断っていた。
あやめ:やっぱり、あたしも残ろうか…?
和:ううん、大丈夫。あやめちゃんはみんなと行っといで?
あやめ:……わかった。
あやめ:でも…何かあったらすぐ連絡してよ?
和:…ふふ、わかった。
にっこりと笑う和に、少し安堵の表情のあやめ。
あやめ:…じゃあ、行ってくるね。
和:うん。
あやめが出ていくと、部屋に1人になる。
和:………。
ふぅっと息を吐き、ベッドに横になる。
和:………。
見慣れない天井をぼんやりと眺める和。
和:(優しいな、あやめちゃん…。)
和:(もし○○さんにフラレたら…名古屋支社に異動させてもらおうかな。)
“もし…フラレたら”
考えた瞬間、胸がぐーっと苦しくなる。
和:はぁ…
慣れないベッドの上に置かれた、慣れない枕に顔を埋める。
和:(お家帰りたい…。)
すると
📱:prrrr...
和:…?
静かな部屋にけたたましく着信音を響かせるスマホを手に取ると
和:えっ………?
画面に表示された名前を見て
一度、ふーっと大きく息を吐く。
和:もしもし…?
○○:『…会いたい。』
和:えっ…?
○○:『…抜け出して来れるか。』
和:………。
和:…はい。
――――――――――
昨日と同じ待ち合わせ場所へ行くと、既に○○の姿があった。
○○:ごめんな、2日連続で。
和:…ほんとですよ。
すると
○○:ああ、いや…違うな。
和:えっ…?
○○:…ありがとう、時間作ってくれて。
和:…いえ。
○○:………。
○○:昨日の…ことなんだけど。
和:………はい。
尋常じゃないほど、心臓がバクバクと騒ぎ立てる。
○○:一晩経っても……お前の気持ちが変わってないなら、
○○:俺と………付き合ってほしい。
和:えっ………
心臓のバクバクが最高潮に達すると同時に、モヤモヤに覆われていた心の中がパッと明るくなったように感じる。
和:(○○さん……!)
ほんとだったら、今すぐにでも抱きつきたい。
でも…、あえて。
その気持ちを抑え込んだ。
和:…○○さん。
○○:…。
和:私の気持ちは…一晩で変わるほど、生半可なものじゃないです。
○○:……うん。
和:だから…今すっごく嬉しいです。
○○:…そっか。
和:…でも、1つだけ聞きたいことがあります。
○○:聞きたいこと…?
和:どうして……1日焦らしたんですか?
○○:えっ…?
和:おかげで…今日1日すっごいしんどかったです。
そう言って少しむっとした表情を見せると、思わず頬が緩む○○。
○○:焦らしたつもりは…ないんだけどな。
和:じゃあ、なんで…?私を弄んだんですか?
○○:違うわ。笑
○○:お前には…わかんないかもしれないけどさ、
和:…?
○○:自分が勤めてる会社の…社長の娘に告白されるって、サラリーマンにとっちゃけっこう大ごとだからな?
和:………。
○○:だから、まぁ…俺なりにいろいろ考えた。
○○:お前の今後にとって…メンターとしてどうするのが1番いいのかとか。
○○:もし付き合ったとして…恋人以上の関係になりたくなった時、社長にどう話せばいいのかとか。
和:………。
○○:まぁ、結局…そんなの考えてもわかんねぇし、結果そんなことを考えてる自分がすげー嫌になった。
和:○○さん…
○○:だから…もう、自分の気持ちに素直になることにした。
和:自分の気持ち………?
○○:俺は…お前のことが好きだ。
和:………っ///
○○:初めて会った時…言ったよな。
○○:お前が社長の娘とか、俺には関係ないって。
○○:まぁ…あの時とは意味は違うけど、言いたいことは今も一緒だから。
○○:仕事とか、メンターとか。そんなの一切関係なく…俺は1人の人間としてお前が好きだ。
和:………///
頬を赤く染める和の元へ歩み寄る○○。
○○:しんどい思いさせて、ごめんな。
○○:………なぎ。
和:えっ………
次の瞬間、○○は自らの方へ和を抱き寄せた。
和:…/////////
唐突な名前呼びとハグに、頭が真っ白になる和。
和:(ど、どうしようどうしよう何か喋んなきゃ…///💦)
すると
○○:無理して何か喋ろうとしなくていいからな。
和:(み、見透かされてる…。)
○○:全部…伝わってるから。
和:えっ……?
○○:今日…研修で喋ってる時、お前のしんどそうな顔見て…思った。
○○:ああ、本気でいてくれてるんだろうなって。
和:…当たり前じゃないですか。そんなの。
○○:……そうだな。
抱き寄せていた腕を緩め、和の顔を見つめる○○。
○○:もう…そんな辛い思いはさせないから。
○○:俺の彼女に……なってくれるか。
和:…。
和:はいっ♡
――――――――――
気づけば、門限近く。
○○:じゃあ…研修、あと1日頑張れよ。
和:…うん。
ヘルメットを被り、バイクに跨がる○○。
名残惜しそうに、すぐ近くに立つ和。
和:なんだかんだ…2日とも会いましたね。笑
○○:はは、そうだな。
和:…白馬の王子様みたい。笑
○○:はぁ?笑
和:囚われてる私の元に…白馬じゃないけど、バイクで会いに来てくれる王子様♡
○○:やめろや。王子って柄じゃないだろ、俺。
和:あはは、それもそうですね!笑
○○:…💧笑
ヘラヘラと笑う和に、苦笑いの○○。
和:…ねぇ、○○さん。
○○:ん?
和:夢じゃないですよね…?これ。
○○:…。
すると、和の頬をきゅっとつける○○。
和:いだだだ!💦
○○:痛いなら夢じゃないんじゃない?笑
和:むぅ〜!むかつく!はよ帰れ!
○○:はいはい。じゃあな、おやすみ。
和:…おやすみ。
その後、走り去るバイクが見えなくなるまで見送る和。
和:…///
部屋に戻る和の表情は、幸福感に満ち溢れていた。