タンデム
祝日の朝、適当な所で待ち合わせ。
和:おはよーございますっ。
○:うっす。
マジマジと見る和。
○:…なんだよ。
和:…いえ。私服そんな感じなんだーって思って。笑
○:…どういう意味だよ。
和:え、そのままの意味です。笑
○:…まぁいいや、行くかぁ。
和:このバイク○○さんのですか?かっこいいですね!
○:…へー。
素っ気ない態度。と思いきや
和:(ちょっと嬉しそうな顔してる。笑)
○:…あのさ。
和:はい?
○:ヘルメットが…前の彼女が使ってたやつしかないんだけど、それでもいい?
和:いいですよ。
○:…悪いな。
ヘルメットを和に渡す○○。
○:サイズは…まぁ大丈夫だろ。お前顔ちっちゃいし。
和:え〜!急にそんな褒められたら照れますねぇ…///
○:…チッ
ヘラヘラしながらヘルメットを被る和。しかし
和:んっ…💦
あご紐のバックルが上手く留められず
○:…へたくそ。笑
手を伸ばし、カチッと留める○○。
和:…///ドキ
和:え、えと…これは?
○:インカム。
和:喋れるんですか?すごーい!
○:普通だろ。笑
○:じゃあ先に乗るから、あとから後ろ乗って。
和:(いけるかな…。)
先に○○が乗り
○:そこの…それに足掛けて
和:…これですか?
○:そう。
和:んっ…!よいしょっ💦
なんとか乗ると
和:(い、意外と高い…💦)
○:乗れた?
和:はい…!これってどこに掴まればいいんですか?
○:その辺に持つとこがあるから。
身体を捻って教える○○。
和:これですか?
○:そう、それ。
タンデムバーをぎゅっと握り
○:じゃあ動くよ。
和:えっ…
和:わー!💦待ってください!
○:なんだよ。
和:怖いです。
○:怖い!?まだほとんど動いてないだろ。
和:そうですけど…手の位置ここだと怖いです。
○:えぇ…じゃあ肩か…腰の辺か。
和:○○さんのですか?
○:当たり前だろ。
和:じゃあ…
○○の肩に手を乗せる和。
和:(違うな。)
腰の辺りへ…
和:…///
若干照れながら、いい感じの位置を探していると
○:や、やめろ!ぞわぞわする!
和:すいません!笑
結果、脇腹を掴み
○:…じゃあ行くぞ。
徐々に発進。少しスピードを上げると
和:わぁっ!
慌てて○○に抱きつく和。
バイクを止め
○:何してんだよ。
和:怖いです。
○:もうやめるか?
和:…。
抱きついたままの和。
和:あっ…
和:この体勢ならいけそうです。
○:えっ
和:さぁ、行きましょう!
○:…💧
“抱きつきスタイル”で公道。
和:早い!早すぎます!
○:まだ50キロも出てないし、頑張って慣れろや。
和:うぅ…
抱きついたまましばらく走っていると
○:なぁ…どこ行く?
和:えっ、今どこに向かってるんですか?
○:適当に走ってる。
和:んー、じゃあ…○○さんにお任せします♡笑
笑いながら言うと、インカム越しに聞こえてくる舌打ち。
○:…海でも見に行くか。
和:おっ、いいですねぇ♡
方向を変え、海を目指す。
風を切る冷たさの中、互いの体温のを感じる。
少しスピードを上げると
キュッ
○○に抱きつく腕の力が少しだけ強くなる和。
○:…まだ怖い?
和:いえ…だいぶ慣れてきました。
○:そっか。よかった。
和:で、でも…
○:ん?
和:このままの体勢でいいですか…?
○:…ああ。
―――
信号待ち
和:○○さんってー…何かつけてます?
○:え?
和:におい。
○:ああ…たばこのにおい誤魔化すために、ちょっとだけな。
和:誤魔化すくらいなら吸わなきゃいいのに。笑
○:…たしかにな。
和:でも…
○:?
和:○○さんのにおい…ちょっと好きかも。
○:…。
互いに前を向いているので表情は見えないが
和:照れてます?笑
○:…照れさせようとしてるわけ?
和:そうじゃないですけど…
和:…照れてくれてたら嬉しいなーって。
○:…あっそ。
信号が青になり、何かを誤魔化すように発進。
和:風が気持ちいいですね~。
○:ああ…天気良いしな。
和:〜♪
鼻歌を歌う和。その歌声がインカムを通してダイレクトに耳へ。
○:…歌上手いな。
和:えー、嬉しいです♡
和:○○さんも何か歌ってくださいよ。笑
○:絶対やだ。
和:…ちぇっ。
すると
和:あー!海が見えてきましたよ!
○:そりゃ見えてくるだろ、目指してんだから。
和:きれいですねー♪
○:そうだなぁ。
和:ふふ、慣れてきたんでもっとスピード出していいですよ。笑
○:…調子に乗りやがって。
少しスピードを上げると
和:ふふ、気持ちいい♪
通り過ぎる風に、ほんのりと潮の香りが漂う。
キュッ
太陽の光に照らされてキラキラと輝く水平線を眺めながら、○○の背中に抱きつく和。
○:…逆に疲れんか?
和:え?
○:そうやって…ずっとくっついてんの。
和:え、疲れないですよ?
和:むしろ落ち着きます…○○さんの背中。
○:…そっか。
到着。
和:んーっ!
大きく息を吸い、身体を伸ばす和。
和:はぁ〜、気持ちいい♪
和の長い髪の毛が、潮風になびく。
そんな様子を見ながら、ぼんやりとたばこを吸っていると
和:ねぇ、こっち来てくださいよ。
○:はぁ?
和の方へ歩み寄ると
和:ほら、海が見えますよ。
○:ああ…。
和:よく来るんですか?ここ。
○:まぁ…何回か来たことある。
和:…前の彼女さんとですか?
○:えっ…?
和:(先輩女子社員)さんに聞いたんです。最近別れたって。
○:チッ…余計なことを。
和:どうして別れたんですか?
○:なんでそんなことお前に言わなきゃいけないんだよ。
和:えー、だって気になるし。笑
○:…。
○:そんなのなぁ…俺が聞きたいよ。
和:えっ…?
○:ある日突然フラレた。まぁ何か気に食わないとこがあったんだろうな。
そう言いながら、携帯灰皿へ吸い殻を捩じ込む。
○:そうだ、ちょっと歩いたとこに美味いラーメン屋があるんだけど、行く?
和:いいですね!行きましょ!
―――
○:そんな大盛り頼んで大丈夫か…?
和:大丈夫です!ラーメン好きなので!あと○○さんの奢りだし。笑
○:…なんかむかつくな。笑
和:ふふ、あと家系ラーメンも好きで、たまに食べに行くんですよ。笑
○:へぇ、意外。
和:よく言われます。笑
テーブル席でラーメンをすする2人。
和:んー、美味しい!
○:そうか、よかった。
美味しそうにラーメンをすする和を眺めながら
○:…なぁ。
和:?
○:仕事…楽しい?
和:えっ、なんですか急に。笑
○:いや…気になっただけ。
和:楽しいですよ。あっ、もちろん○○さんがメンターだから!
○:いいよ気遣わなくて。
和:ふふ、ほんとですって。笑
すると、不意に○○が昨日転職サイトを見ていたことを思い出す和。
和:○○さんは楽しくないんですか?
○:俺かぁ…
若干、視線を落とし
○:…わからん。笑
帰り道も相変わらずの“抱きつきスタイル”。
○:おいもう慣れたろ。暑いから離れろって。
和:嫌です。
○:…💧
和:○○さん。
○:なんだよ。
和:こうやっておでかけした時って、行きと比べて帰りはすごくあっという間に感じません?
○:まぁ…わからんことはない。
和:その度に…終わってほしくないなーって思うんです。
○:…。
和:行きは怖かったのでゆっくり走ってほしかったですけど、
○:うん。
和:今は…もう少し長くこのままでいたいから…ゆっくり走ってほしいです。
○:…そうか。
和:…///
しかし
○:…すまん、後ろの車がめちゃくちゃ煽ってくるからゆっくり走れないわ。笑
和:…ばか!💢
―――
信号待ち。
和:○○さん。
○:ん?
和:○○さんって、メンターになるの私が初めてですか?
○:ああ。
和:…そうなんだ。
○○の背中に隠れつつ、なんとなく嬉しそうな和。
和:もし来年また新入社員が入ってきても、○○さんにはメンターやってほしくないです。
○:なんで?
和:えー、だって…私だけのメンターでいてほしいじゃないですか。笑
信号が青になり、走り出す。
○:そんなの、会社が決めることだからなぁ。
和:そうですけど…
○:まぁでも、俺もお前以外のメンターやりたくないよ。
和:えっ…?
○:メンターって、すげーめんどくせぇんだもん。笑
和:…思ってた答えと違う。
○:なんだよ、思ってた答えって。
和:自分で考えてください!ばーか!
○:お前もう俺が先輩なこと忘れてるだろ💧笑
帰りは和を家まで送る○○。
○:へー、こんなとこ住んでんだ。
和:どう意味ですか?
○:社長令嬢のわりに普通なとこに住んでんだなと思って。笑
和:もう…。
○:…すまん、嫌な気分にさせたか。
和:そんなことないです。ただ…
○:?
和:私、○○さんが思ってるほどお嬢様じゃないですから。
○:…わかってるよ。
和:えっ?
○:せっかくのGWに俺なんかとバイク乗ってラーメン食いに行くお嬢様なんて存在しないからな。笑
和:あはは、たしかに。笑
○:…少しは否定しろや。笑
苦笑いの○○。
すると
和:…○○さん。
○:?
和:私…昨日見ちゃったんです。
○:…?
和:○○さんが…転職サイト見てるとこ。
○:お前…人のスマホ覗くなって。笑
和:転職しちゃうんですか…?
○:…どうだろうな。
和:…しないでくださいよ。
○:えっ…?
和:わがままかもしれませんけど…
和:私のために…残ってください。私○○さんがメンターじゃないと嫌です。
○:…。
○:本当にわがままだな。笑
和:…。
思わず笑ってしまう○○に、少し寂しそうな表情の和。
○:そろそろ帰るわ。
和:…はい。
バイクに跨がる○○を見送る和。
和:○○さん。
○:なんだよ。
和:今日は…ありがとうございました。楽しかったです。
○:…そっか。
ヘルメットの下で、嬉しそうに見える表情の○○。
○:…井上。
和:はい。
○:よかったら…また行こうな。
和:…はいっ!!