決意の時(前編)
早朝、新幹線の車内。
和が窓側で、○○は通路側。並んで座る2人。
和:ふぁあ…。
大あくびの和。
○○:眠そうだな。笑
和:朝早すぎるんだもん…。
○○:着いたら起こしてやるから、寝てていいぞ。
和:うん…。
和:(でもなんかそれはそれでもったいない気もする…。)
でもやっぱり、睡魔には勝てず
和:…っ♡
○○の手をぎゅっと握る和。
和:ふふ…こうやって寝る♡
○○:…あのな、一応言っとくけどデートじゃないからな。それだけは忘れるなよ。
和:じゃあ…手、離した方がいい?
○○:…いや、これはそのままでいいけど、新幹線から降りたら切り替えろよ。
和:…ふふ。笑
にこにこと○○を見つめ
和:…おやすみ。
○○の肩にちょこんと頭を乗せ、目を閉じる。
○○:…。
右手に和の手の柔らかな感触を感じながら、左手で暇つぶしにスマホでも見る○○。
出張先からの業務メールを確認しつつ
○○:(…やべ、俺も眠くなってきた。)
○○:(2人とも寝過ごして今日行けなくなったらどうなるんだろうな。)
不意に、昨日の社長との会話を思い出す。
○○:(…俺だけクビか左遷だな。笑)
―――――――――――――――
駅に到着。
和:んぅ…。
○○:…おい。笑
和:…?
○○:顔が寝起きすぎる。シャキッとしろや。
和:うん…。
○○:(ダメだこりゃ。)
○○:…手ぇ貸せ。
和:えっ…?
○○:なんか…迷子になりそうだから。
和:○○さんが…?
○○:アホか。お前がに決まってるだろ。
和:ん…
差し出した和の手を握る…と思いきや
ペチン!
手の甲を叩く○○。
和:痛っ…!?
○○:目ぇ覚めたか?笑
和:むぅ…暴力彼氏。
○○:暴力メンターな。
和:…暴力の部分を否定しろ、ばか。
―――――――――――――――
程なくして、出張先に到着。
同期男:おお、よく来てくれたな、○○。
○○:おう。あ、こいつはうちの新人の井上。今日は勉強ってことで一緒に来させてもらってるから、よろしく。
和:井上和です。よろしくお願いします。
同期男:(同期男)です。
○○:この人俺の同期だから、わからないことがあったら何でも聞けばいいよ。
和:はいっ。
すると
同期男:な、なぁ…○○。
○○:ん?
○○だけを手招きし、小声でひそひそ話。
同期男:あの子…社長の娘さんなんだろ?
○○:ああ、そうだよ。
同期男:あの子が来るってことで昨日からうちの上司がめちゃくちゃピリついてんだけど、何かしらの監査とか…そういうことじゃないよな?
○○:ははは、違うよ。あいつめちゃくちゃいい奴だから、優しくしてあげて。笑
同期男:そ、そうか…。
和:(何をこそこそ喋ってるんだろう?)
―――――――――――――――
その後、他の社員にも挨拶を済ませ、そこから先は…仕事、仕事、仕事。
初めて訪れた出張先で、右も左も分からないまま仕事三昧の時間を過ごした和。
ようやく一息つけたのは、お昼を優に超えて午後15時前。
和:疲れた…出張ってこんな感じなんだ…。
○○:だから言ったろ、デートしに来てるわけじゃないって。笑
出張先に着いて以来、数時間ぶりに2人切りになり、ラウンジのような場所でコーヒーを飲んで一息。
和:…お昼ごはんも食べてないよ?
○○:それは…ごめん。時間取れなかった。
申し訳なさそうに笑う○○。
○○:今回は普通の業務に加えてお前にあれこれ教えながらやんなきゃいけないからな、どうしても時間足らなくて。
和:…なんだ、私のせいか。
○○:ああ、いや…そうじゃないけど。
和:…。
○○:まぁ…でも、なぎが居たから今までの出張より楽しかった。
和:…へへ///
○○:それに…メンターとして仕事するのももうすぐ終わっちゃうしな。
和:あっ…そっか。
○○:やれって言われた時はクソめんどくさかったけど、いざ終わるとなると寂しいな。笑
和:…。
和:…○○。
○○:ん?
和:私…○○がメンターでよかった。
○○:…へへ、そっか。
照れくさそうに笑いつつ、どこかちょっぴりしんみりしてきたところで
○○:…さてと、そろそろ戻るか。後半戦も頑張ろうな。
和:えっ、まだ前半戦だったの…?💧
―――――――――――――――
仕事が終わったのは辺りがすっかり暗くなった頃…そしてその後は、出張先の人たちとの飲み会。
和:(はぁあ…1日が長い…。)
すっかりお疲れ気味で、○○の横にちょこんと座って動かない和。
○○:疲れた?
和:ちょっとだけ。
○○:先にホテル行くか?
和:ううん、大丈夫。
乾杯をして、わいわいがやがや…
○○:ん。
和の分も料理を取り分ける○○。
和:ありがと。
○○:これ、めっちゃ美味い。
料理を1種類指差すと
和:…。パク
和:ほんとだ、美味しい♡
にこにこする和に、少し安堵した様子の○○。
○○:…昼食ってないから、たくさん食えよ。笑
和:うん。
そんなこんなで場の空気にも慣れてきたのか、出張先の人たちとも絡みだす。
出張先女:すごいね、井上さん。まだ若いのにしっかりしてて。今日もよく頑張ってたね。
和:いえ〜、そんなことないですよ。
出張先女:そんなことあるって!ねぇ?○○さん。
○○:え?全然そんなことないですよ。笑
和:…む!
○○:なんだよ。
和:…人に言われるとむかつく。
○○:はぁ?笑
2人のやり取りに思わず笑ってしまう出張先女。
出張先女:意地悪なこと言って…そんなこと言いつつ、○○さんもしかして井上さんのことけっこう気に入ってたり?
○○:えー?笑
出張先女:なんか仲良さげだし、実は付き合ってるとか。笑
○○:あはは、(出張先女)さん飲み過ぎですよ。笑
適当なリアクションでお酒を飲んで誤魔化す○○。
すると
出張先課長:(出張先女)ー、ちょっと来てくれー。
出張先女:はーい。
和:…。
立ち上がり歩いていくのを見送り
和:…私たちってわかりやすいのかな?
○○:いやぁ、適当に言ってるだけだろ。
和:…ならいいけど。
○○:あ…それと、
和:?
○○:俺も…今日よく頑張ってたなって思ってるから。
和:…ほんと素直じゃない奴。笑
○○:うるせぇ。
2人で喋っていると
同期男:なぁ○○、たばこ吸い行かん?
○○の元に来て、たばこを吸う仕草を見せる同期男。
○○:あー……今はいいや。ごめんな。
同期男:…そうか。まぁ、戻ってきたら一緒に飲もうや。
○○:おう。
ということで、別の社員と喫煙所へ行く同期男。
和:行かなくてよかったの?
○○:…お前がひとりぼっちになっちゃうだろ。
和:………///
照れ隠しにビールをごくっと飲む○○の横顔を見つめる和。
ちょっとだけ、身体をずらして…○○の方に近づく。
和:…ありがと。
○○:…。
言葉は発さないものの、どこか嬉しそうに笑みを見せ
○○:てか、ちゃんと食ってるか?何か頼もうか?
和:じゃあ…ピーマンの肉詰め。
○○:…そんなもんあるか?笑
その後、喫煙所から戻ってきたら同期男他出張先社員と会話に花を咲かせる○○。
その、隣で
和:…。
テーブルの下で、こっそりと○○の太ももに手を置きながら、一緒に話を聞く和でした。
―――――――――――――――
その後、ホテルに着いたのは22時前。
和:はぁ…もうくたくた。笑
○○:明日寝坊するなよ?
和:…たぶん。
○○:絶対な。
和:…たぶん絶対起きる。
○○:…💧笑
チェックインを済ませ、エレベーター。
○○:何号室?
和:709。○○は?
○○:406。
和:ふーん。
和:…一緒の部屋でもよかったのにね。笑
○○:…ばかか。笑
あっという間にエレベーターが4階に着き、扉が開く。
○○:じゃあ…
和:…。
エレベーターを降りようとする○○に
和:…○○!
○○:…?
和:あとで…お部屋行ってもいい?
○○:…。
○○:…ああ。
どこか優しい表情で○○が答えると
2人の間を引き裂くように閉まるエレベーターの扉が
2人の視界を…遮った。
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