うなぎ物語
今日は先輩男の仕事について行くことになった和。
和:なんで今日は○○さんじゃないんですか?
○○:まぁ…俺ばっかりじゃなくて、たまには他の人のやり方も勉強した方がいいだろ。部長にそう言われたんだよ。
和:(…余計なことを。)
和:○○さんその間は何するんですか?
○:俺?俺は普通に自分の仕事するけど。
和:ふーん…
なんて話をしていると
先輩男:和ちゃん準備できた?そろそろ行こうか。
和:あ…、はい!
○○の方をチラッと振り返り
和:…いってきます。
○○:お、おう。気をつけてな。
――――――――――
いつもより静かに(?)PCに向かって作業していると
先輩女:やっほー♪
○○:うっす。
空いている和の席に座る先輩女。
○○:…。
先輩女:…。ジー
PCに向かう○○の横顔をまじまじと眺める先輩女。
○○:…なんすか。
先輩女:え?
○○:いや…そんな見られてたらやり辛いというか。
先輩女:なんでよ。和ちゃんだっていつもこうやって○○くんのこと見てるじゃん。笑
○○:それは…
先輩女:和ちゃんは良くて私はダメなんだ…。
○○:別にそんなこと言ってないじゃないですか。
苦笑いの○○。
先輩女:にしても、今日は残念だったねぇ…(先輩男)くんに和ちゃん取られちゃって。
○○:はぁ?
先輩女:ふふ、やきもち妬いてる?笑
○○:…子どもじゃないんで。別にそんなのないです。
先輩女:ふーん、つまんないの。
○○:つまんないって…💧
先輩女:私は嫌だったけどなー。私が○○くんのメンターしてた時○○くんが他の先輩にあれこれ構われてるの見るの。
○○:えっ?
先輩女:私が大切に育ててる○○くんに変なこと吹き込むな!みたいなね。笑
○○:そんなこと思ってたんですか?
先輩女:ない?和ちゃんに対してそういうのは。
○○:…。
先輩女:こういう時○○くんが黙るのは同意してる証拠なんだってね。和ちゃんが言ってた。笑
○○:チッ…あいつ余計なことを。
先輩女:で?どうなのよ。
○○:まぁ…そういう意味では多少はあるかもしんないですけど。
先輩女:ふふ、そかそか。笑
ニヤニヤする先輩女。
○○:ていうかさっきからなんなんですか。邪魔しに来たんですか?
先輩女:あー、ごめんごめん本題に入るね。
○○:はい。
先輩女:私この後✕✕工業の✕✕さんのとこ行かなくちゃいけないんだけどさー、あの人苦手なんだよね。
○○:あー…たしかにちょっとクセ強いですよね。
先輩女:だから、和ちゃん居なくて暇を持て余してる○○くんについてきてほしいの♡
○○:いや…俺あいつの世話以外に仕事ありますからね?
先輩女:ふふ、安心して。もう部長の許可は取ってるし、ついでにお昼も奢るからさ♡
○○:えぇ…。
先輩女:ね、いいでしょ?和ちゃんが居ない心の穴を埋めてあげるからさ♡
○○:はいはい、わかりましたよ。
先輩女:よし決まりね♪
○○:…あ、そうだ。僕昨日からうなぎが食べたいなって思ってたんですよ。
先輩女:えっ、和ちゃんを!?
○○:…💧
――――――――――
一方
先輩男:どうだった?
和:すっごく勉強になりました!
先輩男:そっか。それならよかった。
取引先からの帰り道。
和:…。
和:(ここ昨日○○さんと歩いたなぁ。)
先輩男:…どうした?ぼんやりして。
和:あ、いえ…!すいません。
先輩男:まぁ、今日暑いし疲れちゃったかな?
和:あ、いえ…この道昨日○○さんと歩いたなって思ってただけです。
先輩男:へー…。
和:たしかこの先に美味しそうなうなぎ屋さんがあるんですよ。
すると
先輩男:…和ちゃんってさ。
和:はい。
先輩男:○○のこと…好きなの?
和:えっ!?
先輩男:ああ、ごめんね変なこと聞いて。普段の様子とか見てて、なんとなくそう思ったからさ。
和:え、えっと…
和:(やばい何て答えよう…。)
少し考えて
和:す、素敵な先輩だなって…思います。なんだかんだ優しくしてくれるし、いろいろ教えてくれるので。
先輩男:そっか。まぁたしかにあいつ結構仕事出来るしなぁ…ごめんね、今日は俺で。笑
和:あ!いえそんなつもりでは…💦
なんて話しているうちに例のうなぎ屋に近づいていく2人。すると
先輩男:あれ?あそこにいるの○○と(先輩女)じゃない?
和:えっ?
少し先、うなぎ屋の前に見える2人の姿。
和:あ、入っていった…。
先輩男:あいつら昼からうなぎ食うのかよ。リッチな奴らだなぁ。笑
和:…。
少し寂しそうな表情でうなぎ屋の入口を見つめる和。
先輩男:和ちゃん?
和:………。
先輩男:あの…和ちゃん。
和:………………。
先輩男:…。
先輩男:…おいっ。
和の顔の前でパンと手を叩く先輩男。
和:はっ!!!
我に返る和。
和:ごめんなさいぼーっとしてて…!
先輩男:あはは、俺らも入る?
和:え…
和:…入らないです!暑いので早く帰りましょ!
先輩男の服の袖を引っ張ってぐいぐいと歩き出す和。
先輩男:…和ちゃんってさ。
和:はい。
先輩男:わかりやすいね。笑
和:!
和:よ、余計なこと言わないでください!///
先輩男:あはは、ごめんごめん。笑
――――――――――
時は流れ、夕方。
○○:あー、疲れた。
職場に戻ってきた○○と先輩女。
和:…どこ行ってたんですか?
○○:✕✕工業。(先輩女)さんのお供だよ。
先輩女:それと、うなぎ屋さんね。あそこのお店美味しかったー♡
和:…。
嬉しそうに言う先輩女に内心ちょっとだけムッとする和。
和:自分の仕事するって言ってたのに…嘘つき。
○○:あ?なんだって?
和:別に何も言ってないです。
○○:…で、どうだった?ちゃんと(先輩男)さんの仕事ぶり学んできたか?
和:………はい。
○○:なんだその不貞腐れたような態度は。
和:…別に不貞腐れてなんかないです。
先輩女:(あー、こりゃだいぶやきもち妬いてるな。笑)
○○:いやいや、どう見ても不貞腐れてるだろ。
和:不貞腐れてるか不貞腐れてないかは○○さんじゃなくて私が決めることです!
○○:はぁ!?
先輩女:まぁまぁ、2人とも落ちついて。笑
間に割って入る先輩女。
○○・和:…。
○○:…あ、ていうか(先輩女)さん今日の報告書まとめないと。
先輩女:あー、いいよそれは自分でやるから。○○くんは自分の仕事に戻りな?
○○:…そうですか。
先輩女:うん、今日はありがとね。
そう言って○○の肩をポンと叩き、こっそり耳打ち。
先輩女:いい?“自分の仕事”、ちゃんとやるんだよ?
○○:…。
――――――――――
席に着くも、なんとなく気まずい2人。
和:…。
○○:…。
○○:………なぁ。
和:…?
○○:さっき…ごめんな。
和:い、いや…私こそ失礼なことを…すいませんでした。
互いの方を向くと、ぱちっと目が合う。
○○:…。
目を逸らし、PCに向き直す○○。すると
和:…美味しかったですか?うなぎ。昨日言ってたお店ですよね。
○○:ああ、美味かったよ。
和:実は…見てたんです。○○さん達がお店に入るとこ。
○○:えっ?そうなん?
和:偶然同じタイミングで(先輩男)さんと通りかかって…
○○:なんだよ。声かけてくれたら4人で一緒に食えたのに。
和:…すいません。
そう言って、俯きながら
和:どうせ行くなら○○さんと2人がよかったから…。
○○:えっ…
和:行きませんか?この後…
○○:井上…
和:…。
○○:…俺2食連続でうなぎになるんだけど?
和:…それくらい我慢してください。
○○:ったく…しょうがねぇな。
和:ふふ、やった♡
○○:じゃあさっさと仕事終わらせるぞ。
和:そんな焦る必要あります?
○○:早く行かなきゃ並ぶだろ、あそこ。
和:ああ…なるほど。
和:まぁ私は多少並ぶ時間長くても構わないですけどね?○○さんみたいにせっかちじゃないんで。
○○:うっさいはよ仕事しろ。
そう言いつつ席を立つ○○。
和:どこ行くんですか?
○○:タバコ。
和:………はよ仕事しろ。
○○:何か行った?
和:…何も?笑
――――――――――
仕事を終え、うなぎ屋へ。
○○:うわぁ、もう結構並んでんな。
和:○○さんが呑気にタバコ吸ってるからですよ。
○○:はいはい、悪かったな。
列の最後尾に並ぶ2人。
○○:…暑いな。
和:あ、私いいもの持ってますよ。
そう言ってカバンの中からハンディファンを取り出す和。
和:はいっ。
スイッチを入れ○○に風を向ける和。
○○:あー…涼しい。
表情が綻ぶ○○。
○○:お前は暑くないん?
和:暑いです。
○○:じゃあ…交代。
和からファンを貰って風を当てる○○。
和:ふふ、○○さん意外と優しいー。笑
和がそう言うと、くるっとファンを反転させる○○。
和:あっ。
○○:“意外と”が余計なんだよなぁ。
和:…もう。笑
そうこうしているうちに列は進み、店の中へ。
○○:あー、涼しい。
お冷を飲み、メニューを開く。
和:わっ、結構いい値段しますねぇ。
○○:お前ん家から見たらこんなもん端金だろ?
和:…💢
○○:ごめんって。笑
へらへらと和を宥める○○。
○○:まぁ、気にせず好きなの頼んでいいからな。
和:えっ、自分で出しますよ?
○○:いいよ、俺も昼(先輩女)さんに奢ってもらったから。
和:…じゃあ1番高いやつにしよーかな?
○○:…💧
和:ふふ、冗談ですよ♡○○さんと同じのがいいですっ。
○○:んー、じゃあ…これとか?
和:あ、いいですね!
料理が運ばれてきて、舌鼓をうつ2人。
和:美味しーい♡
○○:ああ、2食連続で食っても美味いわ。
和:…お昼とどっちが美味しいですか?
○○:はぁ?
和:(先輩女)さんと来た時と私と来た時、どっちが美味しいか聞いてるんです。
○○:んなもん一緒だろ。同じ店なんだから。
和:…やだ。
○○:やだってなんだよ。
和:私と来た時の方が美味しいって言ってくれないと嫌です。
○○:どういうことだよ。
和:…。
○○:…わかったよ、お前と来た時の方が美味しいよ。
和:ふふ、よかった♡
○○:嬉しいんか今ので…💧
苦笑いの○○。
和:昼間…○○さんたちのこと見たって言ったじゃないですか。
○○:ああ。
和:その時…(先輩女)さんに嫉妬しちゃったんです。
○○:えっ?
和:“○○さんは私だけのものなのに!”って。
○○:…。
和:…めんどくさいやつだなって思ってるでしょ。
○○:うん。
和:…ひどい。
俯いてしまう和。
○○:…。
和:…。
○○:…まぁ、それで言うと俺もめんどくせぇ奴かもな。
和:えっ…?
○:今日、(先輩男)さんと一緒だったろ?
和:はい。
○○:俺がちゃんと責任持ってお前のこと面倒見てんだからさ…別にわざわざ(先輩男)さんに預ける必要なくね?って思った。
和:えっ…
○○:まぁ…何と言うかさ。
和:…。
○○:お前のことを考えたらずっと俺ばっかなのもよくないけど、かといって他の奴がお前にいいとこ見せてたらそれはそれで腹立つというか…
和:…。
○:…。
言葉に詰まる…少しの沈黙に、ふっと我に帰る○○。
○○:…タバコ吸ってくる。
和:えっ、このタイミングでですか?
○○:…仕方ないだろ吸いたくなったんだから。
そう言って席を立つ○○。
和:………。
和:(○○さん…。)
○○:…。
○:(あー…何言ってんだ俺は…。)
――――――――――
会計を済ませ、店の外。
和:あの…ごちそうさまでした。
○○:おう。
すると
○○:…あのさ。
和:?
○○:さっきのは忘れてくれ。やっぱああいうのは俺のキャラじゃねーわ。
照れくさそうに笑う○○。
和:…。
和:(そんなの…無理。)
○○:井上?
和:…。
和:(嬉しくて…胸がきゅってなっちゃったから。)
○○:…。
和:…わかりました。
あえて、思ってもないことを言う和。
○○:おう。じゃあ…帰るか。
和:はいっ。
初夏の夜の帰り道。
心地の良い風が吹く中でも、歩いていると汗をかく。
○○:…お前さ。
和:?
○○:改めて見ると…
和:え…
○○:…ちびだよな。笑
和:えっ!?このタイミングで悪口ですか!?
○○:ははは。笑
和:(むかつく…!💢)
そうこうしているうちに、駅に着く。
○○:ほんじゃ、また明日な。
和:…はい。
和:また明日っ。