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熱くさせたんだから

時は遡り、9月上旬。


秋の県大会予選、敗者復活2回戦。


試合は8回裏、1-7で乃木高は6点ビハインド。


相手校の攻撃…マウンドには、公式戦初登板の○○の姿が。


○○:…。


捕手からのサインに頷き、セットポジションから投じた初球は、ストレートが外角に外れ、ボール。


2球目もボール、3球目もボール。


彩:(うぅ…頑張れぇ…。)


ベンチから、心配そうに見つめる彩。


そんな彩とは裏腹に


○○:…。


マウンド上の○○は、意外と冷静だった。


ミスを重ねて、心が折れかけた前の試合。


ベンチ裏で彩に励まされてから…心に決めたことがある。


いつどんな場面、状況でも…自分らしいプレーをすること。


カウント3-0からの4球目、四球を嫌って置きにいくのではなく、思い切り腕を振って、ストレートを投げ込んだ。


ストライクゾーンのど真ん中に吸い込まれていった投球を相手打者が見逃し、これで3-1。


△△:ナイスボール!


初めてのストライクに、○○の代わりにショートに入っている△△からも声が飛ぶ。


そして5球目、真ん中高めのストレートを相手打者が打ち上げ、センターフライで1アウト。


彩:(よし♪先頭打ち取った♪)


続く打者2人も、オールストレート勝負で打ち取り、公式戦初登板にも関わらず結果は上々の三者凡退。


○○:よっしゃ、点差あるけど最後まで諦めずに食らいついていくぞ!!


ベンチに戻ってきたナインに檄を飛ばし、気合いの入った返事が球場にこだまする。


彩:(ふふ、いいねぇ♪)


ビハインドを感じさせない空気に感心しつつ


彩:ナイピッチ♪


○○に一声かけると


○○:…。笑


にっこりと…ドヤ顔の○○。


彩:(ふふ♡)


麻衣:…なによ、たまたまいい感じに散った球を相手が打ち損じてくれただけじゃない。笑


彩:いいんですよ、細かいとこはこれから練習していけば。今日はとりあえず結果が出たのが何よりですから♪


麻衣:…。


麻衣:(…生意気。笑)


そして9回表、乃木高最後の攻撃。


最後まで諦めずに…そんな○○の言葉が効いたのか、下位から打線が繋がり1点返して2-7。


『3番、ショート、柴田君。』


一死一三塁で、左打席に△△。


その、初球。


内角のストレートを引っ張った打球は一二塁間を抜け、ライト前へ。


これがタイムリーヒットとなり、3-7。


なおも、一死一三塁で


『4番、ピッチャー、池田君。』


右打席に、○○。


彩:(4番ピッチャー…///)


野球をやったことのある人なら、一度は憧れたことがあるであろう、打順とポジション。


彩:(ふふ、ここで打たなきゃかっこ悪いぞ♪)


そんな…彩の心の声が届いたのか、初球攻撃に出た○○は外角のスライダーを巧みに捉え、ライト前ヒット。


彩:(やった♪さすが4番!♡)


これで4-7となり、まだまだ続く一死一三塁。


『5番、キャッチャー、岡本君。』


左打席に立つ✕✕。


またしても、初球。


思い切り振り抜いた打球が右中間手前で弾み、5-7。


彩:(やった!すごいすごい!♪)


クリーンナップトリオの3連続タイムリーに、興奮気味の彩。


ここで、マウンド上に相手内野陣の輪が出来る。


少し間を置き、なおも一死一三塁。


『6番、ライト、五百城君。』


左打席に…今度は□□が立つ。


この試合、先発ピッチャーとしてマウンドに上がったものの、7点を失い○○にマウンドを譲ってからはライトのポジションに回っていた。


悔しい気持ちを胸に…カウント2-1からの4球目、高めのストレートを捉えた打球はレフトフライに。


これが犠牲フライとなり、三塁走者が生還し6-7。ついに1点差に迫る乃木高。


彩:(すごい!逆転できるかも!!)


しかし…後続が打ち取られ、乃木高の反撃はここまで。


終盤に怒涛の猛追を見せた乃木高ナインだったが、6-7で破れ、センバツ出場の夢は事実上儚く散ったのだった。


――――――――――


その後、帰り道。


○○:…。


彩:…。


途中まで一緒だったチームメイト達と別れ、2人切り。


夕焼けに照らされた2人の影が、地面に長く伸びる。


○○:やっぱりさー…悔しいよな、敗けると。


彩:うん…。


ちょっぴり俯き気味に歩く2人。


彩:…でもさ?


○○:?


彩:敗けちゃったけど…終盤の追い上げはすごかったし、みんなの一生懸命な姿…すっごくよかった。


○○:小川…。


彩:だからさ、夏に向かって…また頑張ろう?キャプテンっ♡


○○:うん…そうだな。落ち込んてる暇なんてないもんな。


彩:ふふ♡


にっこりと笑う彩。すると


○○:てかさ、マネージャーになってから気づいたけど…小川ってそんな熱いこと言うタイプだったんだな。笑


彩:えっ…?


○○:なんか、意外だなって。笑


彩:…///


ちょっぴり照れくさそうに、はにかみながら


彩:………責任、とってよね。


○○:えっ…?


彩:あやのこと、こんなに熱くさせたんだから…責任とってよね!


そう言って、顔の赤い彩に微笑みながら


○○:…小川。


彩:…。


○○:任せとけ!!


彩:ふふ♡任せた!♡