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打ち上げ花火に照らされて

花火大会当日―

prrrr...

《お掛けになった電話をお呼びしましたが、お出になりません。》

和:…。

結局○○を誘うことにした和。しかし、応答がなく…

和:(むぅ…どうしよっかな。)

途方に暮れながら、スマホを見ていると

和:(あっ、もうこんな時間…!)

――――――――――

浴衣の着付けをしてもらうため、実家へ。

和:どう?

浴衣姿になると、母の前でくるっと回って見せる和。


母:ふふ、よーく似合ってる♡

和:へへ…///お母さんが選んでくれたからかな?

母:ううん、和が可愛いからよ♡

すると

父:おお、浴衣着てるのか。

和:ふふ、見て見て。どう?

父:いやぁ…べっぴんさんだなぁ。母さんの若い頃みたいだ。

母:もう、何言ってんのよ。笑

和:…。笑

和の浴衣姿に嬉しそうな両親と共に、記念に写真を撮る。

母:あっ、もうこんな時間じゃない。そろそろ出るでしょ?

和:えっ?ああ…うん。

和:お母さんとお父さんは花火大会行かないの?

母:ああ、このあと2人でご飯行くのよ。

和:えっ、そうなの?

母:前から行きたかったお店の予約が取れてね、和は花火大会行くって言ってたから誘わなかったんだけど…

和:…そっか。

父:次は和も一緒に行こうな。

和:…うん。

――――――――――

和:じゃあ…行ってきます。

両親に見送られ、家を出る。

和:…。

和:(まぁ…お母さんもお父さんも喜んでくれたし、少ししたら帰ろうかな。)

和:(さすがに、1人で花火大会はね…。)

どうしても込み上げてくる寂しい気持ちを押し殺しながらトボトボと歩いていると

prrrr...

和:!

着信音が鳴り、スマホを見ると

和:!

和:(○○さん…!)

和:もしもし…?

○○:『ああ、もしもし。すまん着信に気づかんかった。』

和:ああ…いえ。

○○:『で、どうした?』

和:えっと…今って、何してました?

○○:『…何してたと思う?』

和:えっ…?

和:ご、ごめんなさいちょっとわかんないんですけど…。

○○:『…仕事してた。』

和:えっ!?そうなんですか?

○○:『休み明けの会議でプレゼンしなきゃいけないんだけど、その準備に手こずっててな。』

和:…。

和:(なんか…花火大会誘うの申し訳ないな…。)

○○:『そんなことよりどうしたんだよ。お前たしか花火大会行くとか言ってなかったか?』

和:そうなんですけど…

○○:『?』

和:…。

○○に今の状況を説明する和。

○○:『あはは、ツイてないなぁお前。笑』

和:もう…笑わないでください。

唇を尖らせる和。すると

○○:『行くか?』

和:えっ…?

○○:『いや…楽しみにしてたんだろ?浴衣着て花火行くの。』

和:…はい。

○○:『今からそっち行ってもそんな時間かかんねぇから。帰らずにちょっと待ってろよ。』

和:○○さん…。

――――――――――

その後、会場近くで待ち合わせ。


和:あっ…○○さん!

○○:すまん…ちょっと遅くなった。

和:いえいえ!💦ありがとうございます…わざわざ来てくれて。

○○:さすがにちょっと可哀想だったからな。笑

冗談めかしてそう言って笑うと

和:…。

しょんぼりする和。

すると

○○:…いいじゃん、浴衣。

和:えっ…?

○○:なんて言うか…よく似合ってる。

和:…///

○○:ばか、何か言えよ…恥ずいだろ。

和:…ふふ。笑

○○:…まぁいいや。とりあえず行くか、腹減ったから何か食いたい。

和:…そうですね!

――――――――――

○○:うまっ。

屋台で買った串焼きを食べながら歩く○○。

和:…あの。

○○:?

和:来てもらって言うのもあれですけど、大丈夫なんですか?仕事…

○○:ああ…まぁこの休みの間にやればどうにかなるだろ。

和:…。

和:○○さんって…

○○:なんだよ。

和:そんな仕事熱心なタイプだったんですか?笑

○○:やかましいわ。笑

苦笑いの○○。

○○:くそ生意気な後輩がいるからな…ちゃんとやんなきゃナメられるだろ。

和:それ誰のこと言ってます?

○○:お前や。

和:ひどい…!私そんな生意気ですか?

○○:うん。

和:むぅ…!

そんな感じに喋りながら歩いていた、その時。

○○:…!

急に立ち止まる○○。


和:○○さん?

つられて立ち止まる和。すると

??:○○…?

前から歩いてきた女性が、すれ違い様に○○の名前を呼ぶ。

和:…?

??:ひ、久しぶり…奇遇だね、こんな所で会うなんて。

○○:ああ…うん。

??:そちらの方は…新しい彼女さん?

○○:…職場の後輩。

和:…。

??:そ、そっか…へぇ。

○○:…じゃあ。

??:あっ…

半ば振り切るように、歩き出す。

○○:…すまん。行こうか。

和:は、はい…!

??:…。

――――――――――

再び歩き出す2人。

日が沈むにつれ、人の数も多くなってくる。

○○:はぐれんなよ。探すの面倒だから。

和:…。

和:あの…○○さん?

○○:…。

和:さっきの方は…?

○○:…。

○○:…前の彼女。

和:えっ…!

○○:…はは、まさかこんな所で会うとはな。笑

わざとらしく笑って言う○○。

和:(すごい…綺麗な人だったなぁ。)

ちょっぴり気落ちする和。

○○:変な気ぃ使わせてたら…ごめんな。

和:い、いえ…!💦

○○:…暑いな、かき氷でも食う?

和:…はい!

――――――――――


ちょうど良さげな場所で、かき氷を食べながら一休み。

○○:打ち上げまでまだちょっと時間あるな。

和:そうですねぇ…。

○○:大変じゃない?浴衣。

和:…ちょっと疲れました。笑

○○:だろうな。

すると

○○:浴衣の中ってさぁ…どうなってんの?

和:えっ!?///💦

○○:ああいや…!変な意味じゃくて普通に気になったというか…。笑

和:も、もう…///

思わず赤面する和。

和:試しに、中…見てみます?

○○:ばかなこと言うな。

和:(自分から言い出したくせに…!💢)

苦笑いの和でした。

――――――――――

他愛もない話をしていると、だんだんと近づく花火の打ち上げ時間。

すると、その時

prrrr...

○○のスマホが鳴る。画面を見ると

○○:…!


和:出ないんですか?

○○:…。

和:…さっきの方ですか?

○○:…。

和:出た方が…いいんじゃないですか?

○○:…。

○○:…もしもし?

○○:えっ………?

○○:………。

○○:……わかった。

電話を切ると、和の方を見て

○○:悪い…少し外していいか?

和:……はい。

○○:…ごめんな。

和:…いえ。ここで待ってますね。

○○:…すぐ戻ってくるから。

和:…。

○○の背中を見送る和。

その手の中では、先ほどまでかき氷が入っていたカップが、べちょべちょになってふやけていた。

――――――――――

花火大会の会場内、人混みから外れた場所。

元カノ:…ごめんね、急に呼び出して。

○○:…ああ。

2人の間に流れる、なんとなく気まずい空気。

○○:…1人で来てんの?

元カノ:ううん、(友達)たちと来てる。今は…抜け出してきた。

○○:…そっか。

元カノ:…あのね。

○○:…。

元カノ:やり直せないかな…?私たち。

○○:えっ…?

元カノ:…。

じっと…○○を見つめる。

○○:…。

不意に、和の顔が脳内に思い浮かぶ。

○○:何言ってんだよ…そっちからフッておいて。

元カノ:そうだけど…居なくなってから気づいたの、○○が居なきゃだめだって…。付き合ってる時はわかんなかったけど、今は…

○○:…調子いいこと言うなよ。

元カノ:それは…わかってる。でも…

○○:…。

元カノ:それとも…もう新しい相手が居る…?

○○:…いや。

元カノ:さっき一緒に居た子は…?

○○:あいつは職場の後輩だって。さっき言ったろ。

元カノ:職場の後輩と2人切りで花火大会来たりするの?

○○:…。

○○:まぁ…メンターだからな。

元カノ:…なにそれ。

○○:…いいよ、わかんなくて。

元カノ:…。

○○:とにかく…ごめん。やり直すっていうのは…俺は考えられない。

元カノ:…そうだよね。

目の前に居ないのに、○○の脳内にはずっと和の顔が浮かんで消えない。

元カノ:私のことなんて…もうキライだよね。笑

苦し紛れのような、自虐的な笑みでそう言うと

○○:…いや。

○○:(元カノ)がどうこうってより…今は“仕事”に集中したいんだ。

元カノ:えっ…?

元カノ:○○って…そんなこと言うキャラだったっけ…?

○○:…。

○○:まぁ…(元カノ)と付き合ってた頃は絶対言わなかっただろうね。

○○:これが…今の俺だから。

元カノ:…そっか。

元カノ:なんか…顔つき変わったね。

○○:えっ…?

元カノ:…いいと思う。今の○○の方が…私と付き合ってた頃の○○よりも。

○○:…ありがとう。

元カノ:じゃあ…戻るね。時間取らせてごめん。

○○:…うん。

振り返り歩き出す元カノの姿がを見送ることなく、○○は和が待つ方に戻って歩き出す。

夜空には、大きな花火が打ち上がり始めていた。

―――――――――

時間は、20時ちょうど―

にぎやかな音と共に、無数の花火が夜空に舞い上がる。

和:…。

その光が、1人で空を見上げる和の顔を明るく照らす。

和:(まさか…この展開で1人で見ることになるとはなぁ…。)

その顔は…どこか寂しそうで。

和:…。

花火から目を逸らし、スマホを見る。

○○から何か連絡がないかと思ったものの…音沙汰なし。

和:…。

諦めて、再び花火を見上げる。

すると

○○:井上…!!

和:…!

人混みの中、汗だくで戻ってくる○○の姿が。

和:○○さん…!

○○:ごめん、開始に間に合わなかっ…

○○の言葉を遮るように、抱きつく和。

○○:井上…?

和:…遅い、ばか。

和:…もう戻ってきてくれないのかと思いました。

○○:…ごめん。

自らの胸に顔を埋める和の肩に、そっと手を触れる○○。

和:…。

顔を上げると、ぱちっと目が合う。

和:あっ…ごめんなさい…///

目が合うとふと我に返り、途端に恥ずかしくなる和。

和:…でもよかったです、戻ってきてくれて。

○○の隣に立ち、ぎゅっと手を繋ぐ。


和:…もう逃さないですからね。

和:一緒に見ましょう…花火っ♡

○○:…ああ。

フィナーレに差し掛かった大花火。

爆音と共に暗い夜空を明るく照らす光たちが、2人の表情をも明るく照らしていた。