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交際宣言

今日は、3月最後の出勤。


すなわち


今年度、最後の出勤。


○○:…。


昼休憩、食堂できつねうどんをさっさと平らげて閑散としたオフィスに戻り、今月分の観察日記を書く○○。


和:…。




…と、隣でその様子を眺める和。


○○:おい、覗くなよ。


和:やだ。そのセリフまだ聞きたくない。


○○:はぁ?


和:…もう最後だもん。


○○:…。


和:…寂しい。




○○:寂しいって、別に年度が変わるだけで来週からも一緒に仕事するんだから。


和:でも…メンターじゃなくなる。


○○:彼氏に専念できるってことだな。


和:…///


ついニヤけちゃう和。


しかし


和:でも…仕事の時は今までみたいに私に付きっきりってわけじゃなくなるでしょ?○○抜きでやってけるのかなってのが不安で…。


○○:ああ…。


ちょっぴり真剣な表情になる○○。


○○:まぁ…お前がそういう不安を抱くのもしかたないことなのかなとは思う。


和:え…?


○○:俺が少し過保護にしすぎたというか…もう少し突き放すとこは突き放して、1人でいろいろ経験させなきゃいけなかったのかなっていうのは…反省してる。


和:そんな、○○のせいじゃ…💦


○○:…まぁでも、大丈夫だ。お前はちゃんと成長してるし、この1年間頑張っていろいろ結果出してきたんだから、自信持て。


和:それは○○がいたから…


○○:…なぎ。


和:…?


○○:この1年間…自分が何を考えてどういうことをして、その結果何を得られたのか…反対にどういうとこを反省すべきなのか、自分を客観視して整理することも、社会人にとって大切なことだよ。


そう言って、優しげな表情を見せる○○。


和:…うん、わかった。




和:ちなみに…○○はそれ出来てるの?


○○:いや。偉そうに言ってるだけ。笑


和:えっ?笑


○○:まぁ…俺からのメンターとして最後の金言だ。ありがたく受け取っとけ。笑


そう言うと、席を立ち和の肩をぽんと叩き…どこかへ行く○○。


和:どこ行くの?


○○:トイレ。たばこじゃねえからな。


和:…別に疑ってないし。笑


○○が部屋を出て、1人取り残された和。


○○の机の上には…わざとらしく置きっぱなしになっている観察日記。


和:…。


何の躊躇いもなく手に取り読み込む和。


“初めての出張では、慣れないことだらけの中でもわからない事がある時は周囲にアドバイスを求める等、積極的な姿勢を見せてくれました。”


和:…ふふ。


相変わらず良いことばっかりな内容に、思わず表情が緩む。


…と思いきや


“ただ、少し時間にルーズなところがあるので、その辺りの自覚を持つことが次年度以降必要になってくると思います。”


和:(…うるさいなぁ。笑)


その後も文章は続き…最後。


“この1年間、井上さんはこちらの予想以上のスピードで様々なことを吸収し、成長してくれました。”


和:…。


“それと同時に、私自身もメンターとして貴重な経験を積ませてもらうことができました。”


“この経験を糧に、次年度以降も互いに切磋琢磨しながら業務に取り組めたらなと思います。”


和:(○○…。)


最後まで読み終わり、観察日記を元の場所に戻す。


和:(これからも頑張ろ。)


そう、決意を新たにしていると


○○:…あっ。


トイレから戻ってくる○○。


○○:しまった、置きっぱなしにしてた。まぁいいや後で部長に提出してこよう。


和:…そのわざとらしいセリフは何のために言ってんの?💧笑


―――――――――――――――




その後、社長室に呼び出された2人。


社長:すまないな、忙しい中来てもらって。


○○:…いえ。


社長:まぁ、まずは…1年間、ご苦労さん。


ぺこりと頭を下げる2人。


社長:入社した時に比べたら…表情にも凛々しさが増して、もう立派な社会人だな。和。


和:…へへ。


社長:どうだった?1年間働いてみて。


和:すっごい、楽しかった。…です。


○○:(おいおい小学生の感想かよ。)


笑いそうになるのを必死に堪える○○。


社長:はっはっは。それは何よりだ。


満足気に笑いながら…○○の方を向き


社長:…○○くん。


○○:はい。


社長:和は私の実の娘ということで…実は、最初は不安だったんだ。


○○:え…?


社長:周りと上手くやっていけるのか…気を遣われて浮いてしまうんじゃないか、とな。


和:…。


社長:ただ、今こうして和はこの1年間を“楽しかった”と言ってくれている。


○○:…。


社長:それは、紛れもなく…キミがメンターとして1年間頑張ってくれた努力の成果だと思う。


社長:本当に…ありがとう。


そう言って、頭を下げる社長に


○○:や、やめてください!そんな…💦


たじろぐ○○。


○○:僕自身、和さんのメンターを通して非常に貴重な経験をさせていただきましたし、和さんのおかげで僕も成長させてもらえたと思っています。


社長:…そうか。


穏やかな表情で、2人を見る社長。


社長:2人は…メンターと新人として、良き相性だったようだな。


○○·和:…。


すると


社長:ただ、どことなく…2人はそれ以上の関係のようにも見える。


○○·和:!!


ドキッとする2人。


社長:まるで、恋人同士のような…どうだね○○くん、うちの娘は。


和:パ、パパ…!


社長:おっと、すまない。お喋りが過ぎたようだ。はっはっは。


すると


○○:…社長。


社長:ん?どうした。


○○:…いえ、


一度…深呼吸をして


○○:和さんの…お父様。


○○:僕は…既に和さんと交際をさせてもらっています。


和:!!




○○の告白に驚く和と、逆に表情一つ変えない社長。


○○:認めて…いただけないでしょうか。


社長:…。


和:…💦


少しの沈黙に、ドキドキしすぎて苦しくなる和。


社長:…最初に言った通り、和はもう立派な社会人だ。誰と付き合おうと、和が幸せならとやかく口出しをするつもりはない。ましてや相手がキミなら…尚更だ。


○○:…ありがとうございます。


和:…。


内心、めちゃくちゃホッとする和。


社長:…ただし!


○○·和:…!


社長:キミも知っていると思うが…私はかなりの親バカでね。


○○:…。


社長:もしも和を泣かすようなことがあれば…その時は容赦しない。社長としての権限もフルに使わせてもらう。たとえ公私混同と言われようともな。


そう言って、にっこりと笑う社長。


○○:…肝に銘じておきます。


すると


和:…パパ。


社長:ん?どうした和。


和:○○さんね、パパがたばこ嫌いなのを知って、たばこを辞めるとまで言ってくれたの。




和:だから…安心して、見守っててほしい。


○○:…。


和:…。


真剣な眼差しで、社長をじっと見つめる和。


社長:…そうか。


一瞬目を閉じた後、2人を見つめ


社長:…和。


和:…?


社長:素敵な人に…巡り会えたようだな。


―――――――――――――――


社長室からの、帰り道。


○○:…。


和:…。


和:…びっくりした。


○○:すまん、なんか昂ぶってしまった。


和:もう。笑


思わず笑ってしまう和。


和:まぁ…なんかいい感じになってよかったね。


○○:後戻り出来なくなっちゃったけどな。笑


和:はぁ?後戻りしようとしてたわけ?


○○:いや、そうは言ってないだろ。


和:ったく…後戻りなんてさせないから♡


○○:だからしないって。笑


後戻り不可の、“和の道”。


道のりはまだまた…始まったばかり。






○○:…てか、禁煙のこと言うの早いわ。せめて1ヶ月続いてからにしてくれよ。


和:え?言ったでしょ?“応援する”って♡


○○:…応援のしかたえげつねーな💧