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使えない後輩

本日の仕事開始直後


○○:…なぁ。


和:?


○○:昨日の言葉忘れてなかったら…ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。


和:えっ…?


○○:この、(取引先)さんとの打ち合わせなんだけど…


和にお願いしたい仕事の説明をして


○○:どう?いけそうか?


和:任せて、頑張る。


○○:おっ、頼もしいな。じゃあ、よろしくな。


和の肩をポンと叩き、自らは別の仕事へ…すると


○○:…あっ、その資料絶対忘れんなよ。それがないとどうにもなんないからな。


和:うん、わかった。


――――――――――


その後


和:(…どうしよう、出るの早すぎて時間持て余しちゃった。)


○○が自分を頼ってくれたことが嬉しくて、気合いを入れて早めに職場を出発した和。しかし、取引先との待ち合わせ時間はまだだいぶ先。


和:(どうしよ…。)


すると


和:(あっ、あんな所にカフェがある。あそこで時間潰そっと。)


いい感じのカフェを見つけ、入店。


和:〜♪


コーヒーでも飲みながら、まったり。


和:(…そうだ、今から使う資料読み込んどこう。)


カバンから取り出し、目を通す。


和:(○○が作った資料ってすっごいわかりやすいんだよなぁ…私のと何が違うんだろ?)


そんなことを考えながら…しばらくして


店員:ありがとうこざいましたー。


カフェを出て、いざ取引先へ。


和:(…よし!頑張るぞ!)


――――――――――


取引先に着くと、挨拶やら名刺交換やら何やらして、いざ本題。


和:えっと…まずはこちらの資料をですね…


しかし


和:(…あれ?)


カバンの中をガサゴソと探す和。


和:(…え!?ない!うそ、なんで…!?)


血の気がさーっと引いていく。


和:(う、嘘でしょ!?💦)


しかし何度探しても、ないものはない。


和:(え、なんで…?どっかで落とした…?)


慌てれば慌てるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


取引先の人:あ、あの…?


和:…。


少し時間を貰い、外に出て○○に電話をかける和。


○○:『もしもし。どうした?』


和:し、資料…!失くしちゃって…!💦


○○:『えぇ!?』


和:ね、ねぇどうしよう💦どうすればいい?💦


○○:『待て、落ち着け!最後に資料見たのいつか覚えてないか?』


和:え?えっと…


ここまでの記憶を思い起こす…までもなく


和:(あっ!カフェ!!)


すぐ直前のことなのに…焦りとは、恐ろしい。


○○:『思い出したか?』


和:カフェ…寄ったから、そこかも…!


○○:『そうか。じゃあなぎはすぐにそこに向かって資料を回収しに行ってくれるか。俺もそっち向かうから、そこからはなんとかするから。』


和:うん…!


電話を切り大急ぎでカフェに戻ると、親切な店員さんが落とし物として預かってくれていて


○○:あったか!?


和:うん…!


場所を聞いて合流した○○と共に、再び取引先へ。


○○:申し訳ありませんでした…!


取引先に頭を下げる○○。その横で、和も頭を下げる。


取引先:いやいや、大丈夫ですよ○○さん。頭を上げてください。


そこから、急ピッチで打ち合わせを進める○○と取引先の人。


和:…。


その様子を…眺めることしかできなかった、和でした。


――――――――――


時間は押したものの無事に打ち合わせを終え、帰り道。


和:…。


落ち込んだ様子で○○の後ろをとぼとぼと歩く和。


○○:…。


○○:…ごめんな。


和:え………?


○○:当日の朝に急に仕事振った俺が悪かった。なぎは何にも悪くないから。気にするな。


和:…。


おそらく、○○は本当に和のことを責めていないのだろう。


しかし、それが…今は全く嬉しくない。


和:…。


すると


📱:prrrrr...


○○:もしもし。あー、はい。会議…はい。ちょっと遅れそうなんで、先に始めててもらえないですかね。…はい、すぐ戻るんで。…はい、はい…。


和:…。


電話を切ると


○○:…タクシー拾うか。


和:…。


ちょうど近くに居たタクシーに乗り、急いで帰社。


○○:…。


和:…。


なんとなく、気まずい車内。


和:…。


呆然と、窓の外を眺めていると


○○:…。


窓ガラスに反射して見える○○の様子からは、会議に遅れていることへの焦りが伺える。


和:(あーあ、全部私のせいだ。)


和:(だめだなぁ…私って。)


その後、職場に到着直前。


○○:なぎ。


和:…?


財布から数千円取り出し、和に渡す○○。


○○:俺、着いたらすぐ降りて行くから。それで料金払っといて。


和:…うん。


――――――――――


その後、昼休憩。


1人でとぼとぼと食堂に向かっていると


部長:一体何を考えているんだ…!


○○:…すいません。


人目につかないところで、部長に叱責される○○を見つけてしまう和。


部長:井上さんに仕事を押し付けて先方に迷惑をかけるとは…お前は私の顔に泥を塗る気か!


○○:…すいません。


和:…。


和:(もうやだ…!)


聞くのも見るのも耐えかねて、その場を離れる和でした。


――――――――――


午後からは自分の仕事に戻るも…上の空。


和:…。


すると


和:…あっ!!


思わず大きな声が出る和。


先輩女:なになに?和ちゃん、どうしたの?


和:明日までにまとめなきゃいけない書類…間違えて消しちゃって…。


先輩女:えぇ!?途中で保存してないの?


和:…。


保存は…していたものの、だいぶ最初の方。


先輩女:大丈夫、落ち着いて?今からまたやり直せば間に合うから。ね?


和:…はい。


もう、泣きそうな和に


先輩女:(…もう!なんでこんな時に○○くん居ないのよ!)


プロジェクトの会議で不在の○○に代わって、和に親身に寄り添う先輩女さんでした。


―――――――――――


その後、すっかり夜。


和:(やっと終わった…。)


大残業で今日の仕事を終えた和。


一緒に残ってくれようとした先輩女さんにも先に帰ってもらったので、今はひとりぼっち。


和:はぁ…。


すると


○○:…おう、まだやってたんか。笑


別の部屋でプロジェクト関連の残業をしてた○○がオフィスにやってくる。


和:…。


○○:…(先輩女)さんに聞いたよ。大変だったな。


いつもの…和の隣の席に座り、和の方を見てにっこりと笑う○○。


今にも泣きそうなのを堪える和の頭を、そっと撫で


○○:…よく頑張った。


すると


和:…ごめんね。


和:こんな…使えない後輩で。


そう言うと…一筋の涙が、和の頬をつーっと流れていく。


○○:何言ってんだよ、そんなことないって。


和:だって…!


和:ほんとは…○○の役に立ちたかったのに…結局足引っ張ってばっかだし…!


堪えていたものが、次々と溢れ出す和。


○○:…なぎ。


和:…。


○○:昨日も言ったろ?なぎを育てたのは俺だって。


和:…。


○○:俺にとって…なぎは自慢の後輩だよ。


○○:…あっ、もちろん自慢の彼女でもあるけどな。笑


和:…。


○○:だからさ…もう二度と、自分のことを使えない後輩とか言うな。俺の“宝物”を…否定するようなことを言うな。


和:………。


和:…ごめん。


もう…泣きじゃくる和を、そっと抱き寄せる○○。


いつも働く…職場のオフィス。


いつもは賑やかな場所も、今はふたりきり。


思いっきり…愛する人の胸に、顔を埋める和でした。


――――――――――


その後、心配なので和を家まで送り届けた○○。


和:わざわざ…ごめんね。


○○:ううん。


和:○○の方が…疲れてるはずなのに。


○○:まぁ…ここ最近の仕事量はちょっと堪えるな。笑


和:…。


和:…私が言うことじゃないかもしれないけど。


和:あんまり…無理しないでよ?


心配そうな和に、にっこりと笑顔を見せ


○○:…ありがとな、心配してくれて。


そう言って、そっと…唇を重ねる。


和:…///


○○:あー、今のキスで明日も仕事頑張れそう。笑


和:…ばか。笑///


1日の最後は…笑顔で。


すっかり寒くなった秋空の下、1人帰路につく○○でした。