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良いことばかり書く理由

今日は8月最終日。ということで


和:あ、○○さんが私にラブレター書いてる♡


○○:…観察日記から随分とランクアップしたなぁ。


覗き込もうとする和の視線を身体で妨害しながら書類を書く○○。


○○:チッ…マジで面倒だなこの作業。


和:もー、そんなこと言わないでくださいよ。笑


すると、急にくるっと和の方を振り返り


○○:…。


じーっと見つめる○○。


和:えっ…なんですか?///


○○:…この1ヶ月でお前が働いた悪事を思い出してる。


和:私悪事なんて働いてないです💧


隙をついてヒョイと覗き込むと、取引先で頑張ってた時のことや、○○のプレゼンが上手くいかなかった時に一緒になって改善点を考えたことなどが書かれていて


和:…ふふ♡


和:(嬉しいな、ちゃんと見てくれてて。)


しかし


○○:そういえば、お前今月遅刻したり居眠りしたりしてたよな?


和:ギクッ。笑


○○:…。


○○:…反省してる?


和:も、もちろんしてます!すっごく!


○○:…じゃあいっか。


ということで、今月も“良い事尽くめ”な報告書の出来上がり。


和:やっぱり、これ見ると元気出ます♡


○○:あっそ。


照れくさいのか、素っ気ない態度の○○。


和:もっと書いてくださいよ。笑


○○:もう枠一杯まで書いてるだろ。


和:え〜…。


和を置いて、さっさと部長に提出しに行く○○でした。


――――――――――


その後、部長に呼び出された○○と和。


○○:…お前なんかした?


和:いやあ…


コソコソと喋る2人。


部長:すまないな、忙しい中来てもらって。


○○:いえ。


部長:…社長がお呼びだ。


○○・和:えっ…?


部長:なに、驚くことはない。単なる新入社員面談だ。


和:新入社員面談…


部長:まぁ、本来ならば部長である私が行うのだが…社長の御意向で、井上君に関しては社長がご自身で行うことになった。


○○:あの、僕は…?


部長:社長がキミにも出席してほしいと仰っていてな。


○○:え…?


部長:さて、向かうとするか。社長がお待ちだ。


部長の後をついて、社長室へ。


部長:失礼します。社長、2人をお連れ致しました。


社長(和父):おお、忙しい中すまないな2人とも。


にっこりと笑う社長。


社長:…悪いがキミは外してくれるか。


部長:はいっ…!失礼いたします。


社長に促されそそくさと出ていく部長。


それを見送ると


社長:あの男は…どうも私の顔色ばかり伺って仕事をしていてな。


○○・和:…。


社長:奴にこの面談を任せたところで、きっと碌なことにならないだろうということで、私が行わせてもらうことにした。


○○:(あの部長全然信用ねーな。)


苦笑いの○○。


社長:まぁ立ち話もあれだから、座りなさい。


○○:失礼します。


和:…ます。


促され、席に座る2人。


社長:…どうだ?和。仕事には慣れたか?


和:うん…!あ、いや……はい。


社長:そうか、それはよかった。


にこにこと嬉しそうな社長の表情は…どっちかと言うと父親寄りになっているのだろうか。


社長:覚えることも多くて大変じゃないか?


和:大変だけど…、○○さんが優しく教えてくれるから大丈夫!…です。


○○:(こういう時、親子ってやり辛いんだろうなー。)


和のぎこちない敬語に、そんなことを考えていると


社長:○○君から見たら…どうだね?娘の働きっぷりは。


○○:えっ…えっと、そうですね…まぁ…不慣れなことも多くて苦労していると思いますが、明るく前向きに頑張ってくれてると思います。


和:…///


急に話を振られて若干動揺気味に話す○○と、その横顔を見つめてちょっぴり照れる和。


社長:…そうか。


なんとなく表情の硬い社長。すると


社長:キミに来てもらった理由なんだがな…


○○:はい…?


社長:キミが書いた、新入社員の育成状況に関する報告書を今月分含めてこれまでの分全て見せてもらったのだが…


和:(あ…私の観察日記。)


社長:なんと言うか…あまりにも肯定的な内容が多い気がしてだね。


○○:…はい。


和:…。


社長:こんなことを言いたくはないが…キミは私や娘に忖度をしていないか?


○○:えっ…?


和:…?


社長:例として出すのもアレだか…キミの所の部長のように私や娘に気を遣って良い事ばかり書いてるのではないかと勘繰ってしまっているのだが…


○○:…。


和:お父さん!○○さんは…


社長:和は黙ってなさい。


和:…。


和にそう言うと、○○をじっと見つめる社長。


社長:気分を害していたらすまない。ただ、もし私の予想が正しいならば…それは娘のためにならない。


○○:…。


社長:その場合…申し訳ないが、キミにはメンターを外れてもらおうと思う。


和:えっ…!?


○○:…。


社長:親バカな社長だと思うだろう?だがそれで構わない。私は和には大きく羽ばたいてほしいと思っているのでね。


○○:…。


社長:どうなんだね?


○○:…。


和:(○○さん…!)


不安そうな表情で、○○の横顔をずっと見つめる和。


社長:…。


○○:…。


○○:…社長の仰る通り、僕は報告書に和さんに対して肯定的な内容を多く記載しています。


和:…。


社長をじっと見つめる○○。


その横顔を、和はずっと見つめている。


○○:ただそれは…僕が社長や和さんに対して忖度をしているからではありません。報告書に記載した内容は、全て事実です。


和:…。


社長:では、一体どういう理由で…


○○:それは…


和:…。


○○:…僕は、和さんのメンターとして、彼女の良い所を出来るだけたくさん見つけたい、そしてそれを部長や社長にも知ってほしい、もっと言えば、彼女の良い所を僕がさらに伸ばしてやりたいと…そう考えているからです。


和:○○さん…


社長:…。


○○:もちろん…彼女も人間ですから、ミスもたくさんあります。それ以上に、まだ入社5ヶ月ですから、未熟な点や至らぬ部分もたくさんあります。


○○:ただ…それを単に上に報告するのではなく、正しい方向へと導いて、その結果生まれた成果を上に報告するのが僕の…メンターの仕事だと思っています。


社長:…。


○○:…正直、僕は昨年度末この会社を退社しようと考えていました。


社長:…!?


○○:仕事に対するやりがいも感じられず、落ちぶれていた所に和さんのメンターを任されて…最初は面倒でしたが、和さんの日々成長する姿に、僕自身多くのことを学びました。


○○:今では…この仕事にやりがいも感じています。和さんが僕を変えてくれたと思っています。


和:…。


○○:メンターという立場ではありますが…僕はこれからも和さんと切磋琢磨しながらこの仕事を頑張りたいと思っています。


○○:和さんのメンター…最後まで僕に任せていただけないでしょうか。お願いします。


そう言って頭を下げる○○。


社長:…。


社長:…そうか。


社長:疑ってしまい…申し訳なかったな。


席を立ち、○○の元へ歩み寄る。


そして、肩にポンと手を触れ


社長:娘のことを…よろしく頼んだよ。


――――――――――


社長室を出た2人。


○○・和:…。


照れくさくて、ちょっぴり気まずい空気が流れる。


和:…○○さん。


○○:…ん?


和:何と言うか、その…嬉しかったです。すっごく。


○○:…そっか。


そこで少し会話が途切れ、その後


○○:…一服してくるから、先戻ってて。


和:…やだ。


○○:はぁ?


和:…私も行きます。


すると


○○:すまん、1人にしてくれ…頼む。


よっぽど照れくさいのか、顔が赤い○○。


和:…わかりました。早くしてくださいよ?


○○:わかってるから。はよ戻れ。


手でシッシと和を追い払う○○。


和:もう…!笑


―――――――――――


一服終え、職場に戻る途中


先輩女:おっ、サボり?笑


先輩女に遭遇する○○。


○○:…違いますよ。


先輩女:なーんだ。ていうか、あれ?なんか和ちゃんと一緒に呼び出されてなかった?


○○:あぁ…まぁ、はい。


先輩女:和ちゃんは?


○○:あいつはもう仕事に戻ってますよ。


先輩女:ふーん。で?なんで呼び出されてたのよ。


○○:…。


社長室での会話を先輩女に話す○○。


先輩女:へぇ…社長にそんなこと言ったんだ。笑


○○:自分でもびっくりしてます。


先輩女:ふふ、いいねぇ…燃える熱血メンターって感じで♡


○○:…そんなんじゃないです。


なんとなく、煮えきらない様子の○○。


先輩女:どしたの、暗い顔して。


○○:…。


○○:ほんとに…よかったのかなぁって。


先輩女:えっ?


○○:あんなこと言ったけど、俺がメンター続けるのが…あいつにとって良いことだったのかなって。


先輩女:…。


先輩女:…さっさと戻って、和ちゃんの顔見てきたら?すぐに答えがわかると思うよ。


○○:…。


先輩女:それにさ…


○○:?


先輩女:好きなんでしょ?和ちゃんのこと。


○○:…!


若干目が泳ぐ○○に、にやっとする先輩女。


先輩女:どうなのよ?


○○:…。


○○:好き…ですよ。


先輩女:…!


先輩女:(きたぁー!これが両片想いってやつ?くぅ〜!!)


意外とあっさり打ち明けた○○に、込み上げる感情を必死に抑え込む先輩女。


○○:…ただそれとこれとは関係ないです。メンターは仕事なんで。


先輩女:…あっそ。告ったりしないの?


○○:…メンターなんで。


先輩女:(むぅ…こいつこういうとこ頑なっぽいよな。)


○○:一応言っときますけど、このことは誰にも言わないでくださいよ。言ったら命はないと思ってください。


先輩女:おい先輩だぞ。


○○の肩をポカッと叩く先輩女。


すると


和:ちょっとー、こんな所で何してるんですか?


先輩女:あっ…和ちゃん?


遠めからぷんぷんと怒りながらツカツカ歩いてくる和。


和:○○さんいつまで経っても帰ってこないから…わからないことあるから教えてほしくて待ってたんですけど!


○○:ああ…ごめんごめん。


先輩女:ごめんね和ちゃん…2人のいちゃいちゃタイムを奪っちゃって♡笑


○○・和:チッ


先輩女:…舌打ちでシンクロするのやめな?💧笑


思わず笑ってしまう○○と和に、苦笑いの先輩女。


そんな3人を、遠巻きに眺める人物が1人。


社長:○○……か。


社長:彼とは…長い付き合いになりそうだ。