ネットワーク効果の分解の仕方(ネットワーク効果その2) 儲ける法務その23 DXその58
先日は、マーケットの選定や何をするかの際、ネットワーク効果を頭の片隅に置かなければならないことを記載した。以下は、スタートアップ目線のhowと大企業目線のhowを参考文献を見ながら検討する。
Ⅰネットワーク主導の成長を促進する方法 (スタートアップ目線)
マーケットを選定(to whom)したのち、whatとhowを決めるときのプラントしては以下の基準がある。以下を参考とする。
1. 摩擦を最小限に抑える。
感動を与えるには、相手の期待値<<遥かに超える<実際の効果でしかない。簡易化と省力化、機能の研ぎ澄ましは、圧倒的であると口コミは早期に広まる。
2. 低いコミットメントを要求し、高い価値を提供する。
フリーの試用をさせて、「早期に顧客を獲得し、顧客がより多くのトランザクションを行い、時間の経過とともに製品への定着が進むにつれて、支払いでより多くの収益を上げることを可能に」する。
この実現のために、スタートアップは絶対に機能は絞り込み、多額のお金を投資せず、大きな労力をかけて機能を完全にしないことが要求される。
3. デザインの選択を通じて成長を促す。
人間は、直感で動くシステム1と訓練とロジックで動くシステム2で構成されている。そして、システム1は、日常で動いているため、それに沿ったシステムの作りが必要となる。アカウントをもたせることで、その相手先のアカウントをも構築させることができる。これによって、ネットワークの活性化が期待できる。
4. 隣接する成長チャネルを特定する。
たくさんのパートナーシップを築き、営業をしなくてもその営業効果が得ることができる仕組みを作る。
5. 大規模な流通ノードへの対応 (ロックイン)
ロックインができる試用になるように大規模なパートナーを選定する。その販売と導入は困難だが、一度確保されれば、スイッチングコストが上昇する中で大きな競争優位性を生み出すことになる。
Ⅱそのスタートアップを分析する手法(by 運営側及び大企業など)
1顧客獲得関連指標(シード時期)
スムーズに顧客を獲得しているか
① オーガニックユーザー vs. 有料獲得(ペイド)ユーザー
② トラフィックの供給源
③ 有料マーケティングによるCACの時系列
2競合他社関連指標 (シード時期)
①マルチテナントの普及率(競合他社の動向チェック)
② スイッチング・コストまたはマルチホーミング・コスト
競合他社への乗り越え、ロックイン、二重管理にする顧客のコスト等も理解しておく必要がある。
3エンゲージメント関連指標 (シリーズAなど)
① ユーザー継続のコホート(シード時期)
理論上は、過去のユーザー層よりも今のユーザー層のほうが、使い勝手が良くなるので、継続率があがるはずである。
しかし、現実的にはその逆が起こることがある。その理由は、アーリーアダプターのほうがペインを大きく持っていたからということが考えられる。
その他「「競合他社の存在」、「超地域密着型である結果、どの新しい地域にいる新規ユーザーに対して『リセット』されてしまうネットワーク効果」、さらには「ユーザーにとって価値がある一定の閾値で実際に減少する (もしかすると、そのネットワーク内の過密状態や汚染物質に起因するかもしれない) マイナスのネットワーク効果」といった他の状況」なども考えられるので、自分のネットワーク効果がどの分類に該当するかを予め確認しておく必要がある。
② コア・アクションの継続コホート
③ 売上の継続コホート & 契約ユーザーの継続コホート
④所在地 / 地域ごとの継続率 (シード時期)
「地域密着型ネットワーク効果をもつ企業の場合、そのネットワーク効果は市場単位で存在し、新たな地域では「リセット」され」る。また、「各地域でネットワーク密度が成熟し、構築されていくうちに、その市場における継続率が向上するはず」である。
⑤ パワーユーザー曲線
4マーケットプレイス指標
①マッチ率 (または利用率、成功率など) (シード時期)
「どんなマーケットプレイスでも、その仕事は需要と供給のマッチを促進することです。したがって、成功した「マッチ率」(購入者が販売者を、また逆に販売者が購入者を見つけられた率) を測定することが重要です。この指標を定義する方法はそのビジネスごとに決まります。」
「関連する指標は「ゼロ」、すなわち成功しなかったマッチを測定することです。ライドシェアの場合、アプリを起動したが最終的に配車リクエストをしなかったユーザーの割合は何%ですか? それらの「ゼロ」は長過ぎる待ち時間、価格の高騰、またはその他のマーケットプレイスが需要を満たせなかったあらゆる出来事に起因している可能性があります。マーケットプレイス運営者はマッチが起こらない理由を特定したうえで、マーケットプレイスで制約を受けている側の増大と動機付け、製品設計の改善、その他の仕組みを通じて、これらの障壁を除去または削減するための措置を講じなければなりません。」「収入増の可能性や最低限の実用性すらなければ、マルチテナントは発生します。」
どの段階でミスマッチが起きているのかを、カスタマージャーニーを使い、確認し、なぜゼロになるかを特定する必要がある。価格が高いのか、タイミングが悪いのか、ニーズがマッチしていないのか、使えないのかなど一つ一つ確認作業をする必要がある。
できるならば、NPS指標を取り入れてユーザーから確認をし、また、自らもユーザーとして確認を取る必要がある。
② 市場の深さ(シード時期)
「どんなマーケットプレイス企業でも、主な任務の一つは検索コストを減らすこと、一方のサイドの参加者による他方のサイドの参加者の発見やマッチを簡単にする」必要がある。「これに失敗すると、マーケットプレイスにマイナスのネットワーク効果が発生」する。
「異質的(ヘテロジニアス)供給 vs. 同質的(ホモジニアス)供給についての注意点――「同質的供給」市場は通常、ネットワーク効果について漸近線を描きます。このような状況では、ユーザーにとっての価値は市場が大きくなっても最終的には横ばい状態に達します。例えば、Limeのスクーターが私の最寄りの街区に6台あったとしても、これは利用できるスクーターが私の近くに4、5台しかなかった場合よりも価値が高い、ということには全くなりません。さらなる供給の追加があろうとも、ユーザーの価値は変化しません。他方、異質市場の場合、供給サイドのノード全てが異なっており、潜在的により大きな価値を付加できるため、漸近線は存在しません。Airbnbを例にとると、ユーザーの好みが非常に具体的であるかもしれないため、プラットフォーム上に追加されるどの販売リストにも確認する価値が生まれます。」
これは、同質の機能価値の場合、一定の供給を上回ると、価値が低減し始める。ネットワーク価値は上昇しなくなる。
これに対して、サービスが各々異なる場合、閲覧する価値も合わせて価値を上昇させ、多いほど良くなる。
③ マッチの発見にかかる時間 (または在庫回転率、もしくは回転日数)(シード時期)
「通常、マーケットプレイスのマッチ率は曲線を描きます。そこでは在庫の大多数が長期間にわたる横ばい状態の中でさばけていきます。製品マーケットプレイスの場合、これは一般的に在庫回転率と呼ばれます。
その逆が回転日数です。この指標は伝統的なマーケットプレイスほどよく当てはまります。このような場では、ユーザーによるオプトイン (一方のサイドが販売リストを作り、他方が応答する) によってマッチが起こり、オンデマンド型マーケットプレイスとは対照的です。後者のマーケットプレイスでは中央集約型のアルゴリズムに基づく (そしてユーザーからは見えづらい) 方法でマッチが行われます。
例えば、求人マーケットプレイスの場合、「雇用者が被雇用者を見つけるまでにかかる時間」や「最初の応募を受け取るまでにかかる時間」が問われます。P2Pマーケットプレイスの場合、「各サイドが取引に携わるまでにかかる時間」です。Thumbtackの場合、「ユーザーが最初の見積もりを受け取るまでにかかる時間」です。OfferUpでは、「販売者が自分の製品を売るまでにかかる時間」となります。」
これは、最初の時期、マッチングがあまりにされないと離脱する。そして、タクシーの場合、急を要する顧客は5分も待たず、他のタクシーに乗ってしまう。たとえ、多くのサプライサイドを集めても、そのニーズにマッチするデマンドサイドが他の地域の場合、離脱をすることしかない。
如何にニッチのエリアを決めてやり抜いて、次のエリアに広げていくかがこのゲームに置いては必要である。
例えばMRIで脳ドックをする際、デマンドサイドの付近に病院がない限り意味を持たない。デリバリーができる商品はラスクルのようにスマートにできるが、手離れができない役務の場合マッチングの難度が上がることになる。
④ 需要と供給の集中と断片化 (シード時期)
「需要サイドと供給サイドの断片化が大きいマーケットプレイスは価値が高まり、防御もしやすくなります。これはつまり、需要サイドまたは供給サイドの参加者が不均衡な形で、取引を高い割合で占有していないということです。これはビジネスの持続可能性と多様性を高めます。あるマーケットプレイスで需要または供給が集中し過ぎている場合、大きな購入者または大きな販売者がそのプラットフォームを去ると決めてしまうと取引の大部分を持ち去ってしまうというリスクが存在します。
また、マーケットプレイスが断片化した商品や提供者を集約すると、さらに高い価値が生まれます。集約しない場合、それらを発見・利用することがもっと困難になってしまうはずだからです。これは要するに、ロングテールを活用 (多様性とニッチの増加) し、 (ただのヒット商品にとどまらない) そのテールのヘッドを知ることを簡単にするようなものです。」
これは例えばZozoがユナイテッドアローズその他の大型販売者がいるときは、安定的に収益を得ることができるが、そうした維持ができないと、逆回転を起こす事象を想起させる。
AirBnBは、大口の顧客がいるわけではなく、それぞれが個性のあるサプライヤーなので、そのネットワーク効果さえ確保すれば、障壁が確保できる。
5エコノミクス関連指標 (シリーズAから)
①価格決定力
② ユニットエコノミクス
Ⅲまとめ
VCなどはユニットエコノミクスをみて投資などを決めるが、企業側は相性を見たほうが良い。相性があまりに異なるとシナジーを起こさず、混ざることでかえってオペレーションに混乱を発生させる可能性がある。
シード時期からと記載しているものは、自分が立ち上げの時期でも、分析に使えるので、ビジネス組み立ての際なにをやらないのか、何をやるべきかを決める際に使えるように思われる。
その上で、その1での要素を追加するかを考えていくと、よりネットワーク効果が強化される。
Ⅳカーン氏のアマゾンに関する著作
以上を見ながら、カーン氏の著作をみると、スタートアップとしてあるべき姿、そして規制当局としてあるべき姿が浮かび上がる。そして、ESG投資などによって、独禁法の網がかかりにくくなることも予測できる。