Lina Khan氏の著作と学び アメリカの独占禁止法はどこに向かうか。 儲ける法務その13 DXその48
初めに、日本とアメリカの独占禁止法とは異なる。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)
(目的)
第一条
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
なお、以下の本に記載の通り、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」は、究極の目的であり、独占禁止法の直接の保護法益ではないとされる(石油価格協定刑事事件)。
これに対して、アメリカは以下の通りである。
the antitrust laws have had the same basic objective: to protect the process of competition for the benefit of consumers, making sure there are strong incentives for businesses to operate efficiently, keep prices down, and keep quality up.
と記載されている通り、日本と類似しているように見える。
しかし、カーン氏は、この点を覆して理論的に、新しく独占禁止法を再構築しようとしている。
1.The Ideological Roots of America’s Market Power Problem
『1890年シャーマン法、1914年クレイトン法、1914年連邦取引委員会法などの反トラスト法を制定した議会は、このような極端な民間権力の集中を抑制し、州レベルで存在していた独占禁止法を連邦化しようとした。議員たちは、抑制されていない独占的な力が基本的な自由を脅かし、真の民主主義を妨げていることを認識していた。全体として、独占禁止法は、開かれた市場を維持し、機会を拡大し、大企業が生産者や消費者から富を奪うのを防ぎ、私的権力の極端な集中を防ぐことを目的としていた』『独占禁止法は、私的な経済力の集中に対する強い予防的方向性を持っている。このことは、シャーマン法、クレイトン法、連邦取引委員会法から、セラー・ケフォーバー修正条項、ハート・スコット・ロディーノ法に至る立法経緯からも明らかである』『経済をコントロールする権力は、産業界の寡頭制ではなく、選挙で選ばれた国民の代表者の手に委ねられるべきである。産業界の権力は分散されるべきである。多くの人の手に分散させることで、国民の運命が少数の自称男の気まぐれや気まぐれ、政治的な偏見、感情的な安定性に左右されることがないようにすべきである。彼らが悪質な人物ではなく、立派で社会性のある人物であるという事実は関係ない。。これが、シャーマン法の理念である』。
反対論は、『独占的な利益を奪う企業が常に参入してくるという脅威によって乱用のリスクが抑えられているため、権力の乱用は起こりえないというのがその理由である。この理論には2つの側面がある。1つ目は、市場支配力の濫用は必ず高いマージンを生み出し、新規参入を促進するという仮定であり、2つ目は、市場支配力の濫用や維持は永続的ではないという暗示です。しかし、実際には、市場を支配しているプレイヤーは、小さな新興企業の参入を妨げ、それによって支配力を維持することが多い』
反対論は『参入障壁を排除し、市場を「自己修正」するものと仮定し、市場権力の乱用は競争によって最終的にチェックされることを示唆している。しかし、反トラスト法の判例では、永続的な市場支配力を持つ支配的な企業 や、新規のライバルを排除するために参入障壁の設置に成功した支配的な企業の例が数多く挙げられる。 このアプローチは、裁判所や執行者が、競争を促進する行為と競争を阻害する行為を区別することができないという、慢性的な認識論的な疑問や不確実性を背景にしているが、これもまた、法的基準とそれを適用する機関との関係を根本的に逆転させるものであるため、不安定なものにしている。ある状況下での特定の行為が反競争的かどうかは、個々の裁判官の独立した評価ではなく、法的基準によって決定されるべきである』であって、前提が異なる。判断できる仕組みを作るべきである。
『大規模なテクノロジープラットフォームに関するより差し迫った独占禁止法上の問題は、彼らがデータを管理し、データにアクセスし、複数のビジネスラインにまたがる統合を行うことで、競争を弱める形で支配力を定着させることを可能にしている点にある。このようなオンラインプラットフォーム市場のダイナミクスに対して、福祉的な手段に頼ることは、多くの問題を解決できないままにする』。
『どの論文もシャーマン法第2条に焦点を当てていない。これは、現在の反トラスト法の枠組みで最も弱体化している法分野であり、違法に獲得・維持されている既存の市場支配力の集中を対象としていることから、市場支配力の問題に正面から取り組むためには、この分野を復活させることが最も効果的であると考えられる』
『FTCが第5条の適用範囲を狭めるガイダンスを撤回し、同条項に基づいて訴訟を起こすことは、執行を活性化するためにFTCが取り得る最も明確なステップの一つ』とする。
『問題の原因が単にエンフォースメントの欠如ではなく、現在の独禁法の哲学にあることを認識する必要がある。現行のアプローチは、エンフォースメントに深く敵対するマーケットパワーの理論を前提としている。集中した私的権力への不信感を含む反トラストの本来の価値に合致する権力理論を回復することは、我々の政治経済全体で集中した市場権力に完全に対処できる執行体制を復活させるために重要である。そのためには、独占禁止法の分析を、狭い範囲の結果に焦点を当てた一連の評価基準ではなく、プロセスと権力に関する構造的な調査に再び焦点を当てる必要がある』。
2.SOURCES OF TECH PLATFORM POWER
『アメリカ新聞協会の会長は、「フェイスブックとグーグルが我々の主要な規制者である」と述べている。このパワーの源は、プラットフォームが重要なインフラとして機能しているだけでなく、市場全体で統合されているという事実である。プラットフォームが重要なインフラであるだけでなく、市場を超えて統合されているため、プラットフォームの優位性を利用して、別の市場や補助的な市場で有利なポジションを確立することができる。このような統合は、プラットフォームを、そのインフラを利用する企業と直接競合させることで、利害の対立を生み、プラットフォームが第三者の提供する商品やサービスよりも自社の提供する商品やサービスを優遇する動機付けとなる。昨年、欧州委員会は、このような差別が欧州競争法に違反すると発表した。Googleは、「組織的に自社の比較ショッピングサービスを目立たせ」、「ライバルの比較ショッピングサービスを検索結果から排除し」、サードパーティへのトラフィックを誘導したとして、27億ドルの罰金を科した』
『プラットフォームがライバル商品を導入して競争を激化させることではなく、プラットフォームとそれ以外の人々の間に存在する重大な情報の非対称性に基づいて戦略を立てていることである。ライバルの成長のごく初期の段階で介入できるということは、プラットフォームは競争が脅威となる前に効果的に排除することができるということだ。確かに、プラットフォームには他の形態やメカニズムのパワーが存在する。しかし、ゲートキーパー力、レバレッジ力、情報活用力という3つの力が、これらの企業が現在享受している優位性を十分に説明しているといえる。』『ゲートキーパー・パワーは、ネットワーク・モノポリー、固定費の高い産業の特徴、ネットワーク効果、あるいは製品やサービスがユーザーに使われるほど価値が高まる現象など、いつでも発生する可能性がある』。
『ラットフォームに依存している企業活動のデータを収集することで、プラットフォームは情報面で優位に立ち、その洞察力を利用して企業から価値を奪ったり、関連する事業分野で新たなライバルを阻止したりすることができる。情報搾取力への対処は簡単ではない。そのためには、欧州で採用されている一般データ保護規制(GDPR)のようなプライバシー規制を導入したり、プラットフォームが収集した情報を別のビジネスラインに有利になるように使用することを禁止したりすることが考えられるが、このような規制は、プラットフォームの構造、すなわち、ビジネスの根本的な動機付けや能力を対象としたものでなければ、効果がない』。
3.THE SEPARATION OF PLATFORMS AND COMMERCE
この論文が一番読みごたえがあるのだが、長い。
要約の要約に留める。
『一握りのデジタルプラットフォームが、オンラインでの商取引やコミュニケーションを仲介し、そのシェアを拡大している。これらの企業は、市場へのアクセスを構造化することで、何十億ドルもの経済活動のゲートキーパーとして機能している。優位性のあるデジタル・プラットフォームに共通する特徴は、プラットフォームを運営すると同時に、その上で自社の商品やサービスを販売するという、ビジネスラインを超えた統合を行っている。このような構造により、支配的なプラットフォームは、プラットフォームに依存している一部の企業と直接競合することになり、プラットフォームが支配をさらに強化し、競争を妨げ、イノベーションを阻害するために利用できる利益相反が生じている。本稿では、支配的な技術プラットフォームによる統合の潜在的な危険性に対して、構造的分離することを論じている。分離体制とは、特定の市場への参入を禁止したり、別々の事業を別々の関連会社で運営することを要求したりすることで、企業が従事できる事業を制限するものである。以前は、ネットワーク産業における標準的な規制介入や反トラスト法上の重要な救済措置として実施されていたが、構造的分離はほとんど放棄されている。法律家が特定分野の規制を弱めたり、撤廃したりするのと同時に、反トラスト法の司法解釈は、反競争的であるとみなされる垂直的行為や構造の形態を大幅に狭めている。そして、反トラスト法の執行者がこれらの形態の行為や構造を対象とした場合、彼らは一般的に(1)問題の根本的な原因を対象とせず、(2)それらを監督するために割り当てられた行為者の制度的能力を上回ってしまっている。構造的な救済策を無視した結果、実質的な弊害と制度的な不整合の両方が生じている。その影響はデジタル・プラットフォーム市場において特に顕著である。本記事は、構造的分離に対して再考することを目的とする。分離の歴史をたどると、分離は、公正な競争やシステムの回復力、メディアの多様性や管理のしやすさなど、数多くの機能的な目標によって動機づけられてきたことがわかる。このような幅広い関心事を想起することで、支配的な仲介者に対処する際に問題となる様々な要因に焦点が当てられ、プラットフォーム市場での分離が多様な問題にどの程度対応できるかを検討することができる。』
4.THE END OF ANTITRUST HISTORY REVISITED
『独占禁止法は、民主主義の基盤の上に社会を構成するための重要なツールであり、哲学的な基礎である。「民主主義には何が必要か」。ブランダイスは1912年の演説でこう問いかけ、「政治的、宗教的な自由だけでなく、産業的な自由も必要である」とした。』
現在においては『アメリカの独占禁止法を歪め、警察や裁判所は消費者にとって低価格になるという理論に基づいて「効率」を促進することに主眼を置くようになった。効率を重視するあまり、労働者、供給者、革新者、独立した起業家など、不当な市場支配力によって引き起こされる多くの弊害について、執行者の目がほとんど行き届かなくなった』。
『シカゴ学派の多くの人々とは異なり、ブランダイジアンはいかなる形態の組織やいかなるタイプの権力も必然的なものとは認めないことを意味している。技術の進歩は、既存のバランスを崩して統合を促進することもあるが、政府はイノベーションを促進するために政治経済を構築することができるのと同様に、イノベーションの成果が市場に対する民間のコントロールを獲得するために利用されないようにすることもできるとする』。
今回は、同人は同ニュー・ブランダイス派に賛同するものと思われる。
5. 日本の方向性としてはどうなのか
アメリカが変われば、GAFAについて遠慮が減るので、日本でも同じ法律が作られるのは間違ない。民主主義の根幹に配慮したものになる可能性がある。
構造的な分離なども視野に入れているようだが、日本だと、以下の流れは類似しているともいえる。
AT&Tは参考になる事例であろう。
一番良くないのはぬか喜びして何もしないパターンである。アメリカはなんのためにこうしたことをしているのは真相を理解しない人は、本当に困る。別に民主主義を守るためだけではない。おそらくは、中国にも関係するのではないか。その際に、大きな力GAFAで揺さぶりをかけられたのでは、アメリカ政府としては困る。獅子身中の虫ににもなりうる。
ソフトバンクへのインパクトも大きいものになる可能性もある。追い風のように見えるが、後は大きなフィードバックが来るのは歴史が語っている。
プラットフォームが変わる以上、どこかに依存する手法は望ましくない。また、域外適用などを考えると、何をするか気になるところである。それらを予想して動かなければならないのが、今回の流れであろう。
しかし、まさか銀河英雄伝に近い状況、帝国と自由惑星同盟との争いのようになるとは思わなかった。勿論、自由惑星同盟に類似するアメリカは、話に出てくるよりはるかにワイズであり、全然は話が異なる。
しかし、ドラスティックに変化を遂げている姿をみると、民衆の狂喜が思い浮かぶ。フェザーンのようなGAFAをある意味、抑え込む点も、興味深い。再構築された独禁法は今後新たに出てくる可能性があるが、如何に抑え込むかは興味がある。
欧州のプライバシーによって押さえ込む手法は芯を食ってない。現行の競争法もいまいちで、ドグマにハマっている。
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6.追記
トンフィさんのブログを見ても、民主主義の根幹を壊すというのは、外れでもないと思われる。プラットフォームは、公的なものになるという流れは、大きくなる。
むしろ、表現の自由の観点は、プラットフォームでは大事である。経済を落とされると、容易に表現の自由は制限されるのは、就職などした場合わかることであろう。民主主義の根幹を崩されやい過渡期と思って良い。
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