アメリカの独禁法の流れ(Lina Khan氏を中心)と日本における影響 儲ける法務その10
前回、以下の通り法案を記載した。これは今後のインターネット業界に激震が入ることを予想して記載したものである。
カーン氏就任以前の状況は以下の通り。
1.カーン氏の激震
以下の衝撃を受ける人は日本でどの程度いるだろうか。
「カーン氏(32)の指名を69対28で承認した。数年前には法科の大学院生だった同氏が、米独禁当局のトップ機関に席を得た。圧倒的な地位を持つ大手テクノロジー企業への規制を政府がどこまで踏み込むのかについて、カーン氏の意見は影響力を持ちそうだ。」
2.カーン氏の論文
カーン氏は以下の通り、論文を記載している。
えらく長いが辛抱して読むか、私の浅い理解まとめを以下の通り読むかをした方が良い。
そもそも、インターネット時代の独禁法の運用は、過去と異なるべきである。それを前提として、読むと良いと思う。
①分析
過去のシカゴ学派の話と揺り戻しの話も記載されつつ、Amazonの独占の経過が記載されている、ベソスは笑われながらも赤字を掘るようにしつつ、したたかにネットワーク効果を使い、多くの小売店に大打撃を与えていた。
『このような市場支配力を生み出す市場構造や競争過程を無視することは、企業が競争を歪めるほどの支配力をすでに獲得した瞬間に介入することを制限することになる。
なぜなら、市場が競争力を失った時点で競争を促進するよりも、市場が競争力を失う恐れがある時点で競争を促進する方がはるかに簡単だからである』との記載がある通り、早期での規制を求めている。
『市場をオープンにし、産業界の権力者から自由になるために必要なのは、「自由」である。このビジョンを後押ししたのは、経済力の集中が政治力の集中を招き、「反民主的な政治的圧力を生む」という伝統的な理解がある。このような現象は、少数派の人々が桁外れの富を築き、それを政府に影響を与えることで生じる。しかしそれは、「経済分野における少数者の私的裁量」が「すべての人の福祉をコントロール」することを可能にし、個人や企業の自由を損なうことによっても生じる。また、新しいビジネスや起業家が公平に参入できるように、開かれた市場を維持することも必要である』という古くの原理から、『独占禁止法を消費者の利益にのみ焦点を当てることは誤りである。これは、議会が経済力の過度の集中を防止するために反トラスト法を制定したことを明確にする立法趣旨を裏切るものである。このビジョンは、開かれた市場の維持、独占的濫用からの生産者と消費者の保護、政治的・経済的支配の分散など、様々な目的を促進する。第二に、消費者の福祉に焦点を当てると、企業が供給者や生産者を圧迫したり、システムの安定性を脅かしたり(例えば、企業が大きすぎて潰せない状態になることを許したり)、メディアの多様性を損なったりするなど、過度の集中が私たちに害を及ぼす多くの方法を無視することになる。このような幅広い利益を保護するためには、競争プロセスの中立性と市場構造の開放性に焦点を当てた独占禁止法のアプローチが必要である。』と結論付けている。
『企業が市場支配力を蓄積することを認めると、その力が最終的に行使されたときに、その力を意味のある形でチェックすることが難しくなる。企業は、短期的な価格や生産量への影響に直接つながらない多くの競争妨害的な方法で市場支配力を利用することができる。競争を理解するためのより良い方法は、競争プロセスと市場構造に焦点を当てることである。』とする。
具体的には、1)参入障壁、(2)利害の対立、(3)ゲートキーパーやボトルネックの出現、(4)データの利用と管理、(5)交渉力の力学。これらの要因を真剣に考慮したアプローチでは、市場がどのように構成されているか、単一の企業が競争結果を歪めるほどの力を獲得しているかどうかを評価することになる。
サブクリモデルでの特殊性を理解し、『アマゾンが成長のために利益を犠牲にすることを厭わないという事実は、企業が成長よりも利益を優先するからこそ、略奪行為が不合理であるとする現代の略奪的価格設定法の中心的な前提を覆すものである。このように、アマゾンの戦略は、プレダトリー・プライシング法(略奪的価格設定)の監視を受けることなく、プレダトリー・プライシング戦術を用いることを可能にしている。』としている。
Amazonのビジネス戦略
『アマゾンの力の特徴は、損失の継続を厭わないことと同様に、合理的な企業は競争相手を廃業に追い込もうとすると仮定する現代の独占禁止法の分析を大きく妨げている。アマゾンのゲームはもっと巧妙で、アマゾンは、電子商取引に欠かせない存在となることで、ライバルと競争しながらも、ライバルからのビジネスを享受している。さらに、アマゾンはサービス提供者として競合他社から情報を得て、それを利用して競合他社よりも優位に立ち、支配的な地位をより強固にすることができる。』
構造的優位性
『アマゾンは、利益を犠牲にしても赤字を維持し、積極的な投資を行うことを厭わず、分野を超えた統合を行うことで、市場において圧倒的な構造的役割を確立してきた』。『現在の反トラスト法の教義には当てはまらないが、アマゾンが出版社に与える圧力は懸念すべきものである。 一つは、アマゾンの価格設定戦略と出版社への条件改善要求によって、書籍販売業者の統合に拍車がかかり、出版社の統合にも拍車がかかっていることである』『第二に、アマゾンとの取引にかかるコストの増加は、出版社のビジネスモデルを根底から覆し、多様性を失わせる危険性がある』とし、『アマゾンの行為は、略奪的価格設定法や反トラスト法が一般的に幅広い価値観を促進するというシカゴスクール以前の見解の下では、脅威として容易に認識されたであろう。』とする。『狭い意味での「消費者に良いこと」の枠組みであっても、アマゾンが出版社への手数料で損失を回収しようとすることは、有害であると理解されるべきである。読者の選択肢や多様性が減少する市場は、消費者被害の一形態となる。』
参入障壁
『実際には、オンライン市場への参入を成功させるには、多額の先行投資が必要となる。独立したサイトにユーザーを引き寄せるために強力なブランド認知を構築するか、Amazon や eBay などの既存のプラットフォームを利用する必要があるが、これらは他の反競争的な課題をもたらす可能性がある。実際、ほとんどの独立系小売業者は、取引関係が彼らのビジネスを弱体化させるリスクがあっても、Amazonを通じて販売することを選択している。アマゾンが価格を引き上げた後も、真のライバルが出現していないという事実は、現在の反トラスト法のドクトリンに組み込まれている仮定を裏付けるものである。』
『強力な買い手に2つの優位性を与えることで、競争をさらに歪める可能性がある。すなわち、自分にとってはより有利な条件で、ライバル企業にとってはより高い購入コストである。強力な買い手にとっては好循環となり、弱い競争相手にとっては悪循環となってしまう。』さらに『アマゾンはライバルの弱点をビジネスチャンスに変えるという3つ目の利点を加えた。2006年、アマゾンは独立した販売者のための物流・配送サービスであるフルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)を導入した。』
『アマゾンがフェデックスやUPSに大幅な値引きを要求できたことで、他の販売者はこれらの企業から値上げを迫られ、アマゾンはこれらの企業を新規事業の顧客として獲得することができた。現代の反トラスト法は、バーゲニングパワーのような構造的要因を見逃しているため、このような競争市場に対する脅威に対処できていない。』『アマゾンは、オンライン小売と配送におけるその優位性を利用して、結束を伴い、排他的であり、参入障壁を生み出す立場にある。つまり、アマゾンが配送部門を歪めることで、小売部門にも反競争的な課題が生じている』『アマゾンの損失能力と広大な物流能力は、アマゾンが自社の商品を優遇する一方で、独立した販売者がUPSやFedExを直接利用するよりも安価で迅速に商品を出荷する能力を提供できる』。
『今日の独占禁止法の枠組みでは、アマゾンの優位性が差別や新規参入の障壁となるリスクを認識していない』とする。
『Amazonのビジネス戦略の反競争的な特徴を完全に把握するためには、インターネットビジネス全体の垂直統合が、クロスマーケットでの優位性を悪用し、ライバルを排除するための、より洗練された、潜在的にはより厄介な機会をどのように導入するかを分析することが不可欠である」とする。そこで、サードパーティーについて『マーケットプレイスを利用しているサードパーティの販売者は、プラットフォームの利用が自分たちを窮地に追い込むことを認識している。ある販売者は、「Amazonなしではオンラインで大量の販売者になることはできないが、販売者はAmazonが自分たちの主要な競争相手でもあるという事実を非常によく理解しています」と述べている』ことに言及する。『マーケットプレイスを活用することで、アマゾンはリスクを回避しながら売上を伸ばすことができる。新製品を導入する際の初期コストと不確実性を負担するのはサードパーティの販売者であり、アマゾンはサードパーティに目をつけるだけで、その成功が検証された後に製品を販売することができる』ことに着目する。
『現在の独占禁止法は、データを集中的に管理する企業が、市場を組織的に有利に傾け、セクターを劇的に変化させることができるという事実を、まだ考慮していない』とする。
『ネットワーク効果とは、ある製品を他の人が使うことによって、その製品から得られるユーザーの効用が増大することである。人気が高まると強化されるため、ネットワーク効果のある市場はしばしば寡占や独占に傾く。アマゾンのユーザーレビューは、ネットワーク効果の一形態として機能している。プラットフォーム上で商品を購入し、レビューを行ったユーザーが多ければ多いほど、他のユーザーがサイトから得られる有益な情報も多くなる。』(参入障壁)
『最も効果的な方法は、たとえ短期的な利益を犠牲にしても、市場シェアを追求してライバルを追い出すこと』とされる。
『オンライン・プラットフォームの力学がなぜ捕食を特に合理的なものにするのかを見落としていることに加え、現在の学説はプラットフォームがどのように損失を回復するかを評価していない。』『現在の略奪的価格設定の法理では、再補填があまりにも狭い範囲で定義されているため、競合他社は一般的に効果的な法的主張を行うことができない』。『現行の法理では、参入障壁をほとんど考慮していないため、垂直統合の反競争的効果を認識することは困難』である。
『規模がプラットフォームのビジネスモデルに不可欠であり、支配的な地位を確立するのに役立つため、独占禁止法は、リターンを犠牲にして成長を追求することが、現在の教義に反して非常に合理的であるという事実を考慮する必要があります。オンライン・プラットフォーム市場の現実に即したアプローチは、企業が損失を回復するために使用する様々なメカニズム、回復が起こる可能性のある長い時間軸、垂直統合とデータへの集中的なコントロールが新しい形の反競争的行為を可能にする方法も認識するでしょう。特に、オンラインプラットフォームがコミュニケーションや商取引を仲介する割合が増加している中で、オンラインプラットフォームのダイナミクスを反映した反トラスト法の改正は不可欠』とする。
②解決策
『プラットフォーム市場の経済性が反競争的な市場構造を助長する可能性があることが事実であるとすれば、少なくとも2つのアプローチが考えられれる。①オンライン・プラットフォーム市場を競争によって支配したいのか、それとも、②本質的に独占的または寡占的であることを受け入れて、代わりに規制したいのかを決めることである。①前者のアプローチをとる場合、独占禁止法を改正して、このような支配が生じるのを防ぐか、その範囲を制限する必要がある。②後者の場合は、規模の経済を利用するための規制を導入する一方で、企業がその優位性を利用する能力を中和する必要がある。』
aオンライン・プラットフォーム市場を競争によって支配する
『プラットフォーム市場の経済性を反映して、略奪的価格設定の法理を改正するには、支配的なプラットフォームによる低コストの価格設定の場合には、回収要件を放棄する必要がある。また、プラットフォームが略奪行為に資金を提供するユニークな立場にあることを考慮して、競争に基づくアプローチでは、支配的なプラットフォームが製品をコスト以下で価格設定していることが判明した場合には、略奪行為の推定を導入することも検討される』。『例えば、特定のサービス分野(クラウドコンピューティング、ライドシェアリングなど)で市場の40%以上を占めているプラットフォームは「支配的」とみなされるかもない。例えば、クラウドコンピューティングやライドシェアリングなど、特定のサービス分野で40%以上の市場占有率を持つ企業を「支配的」とすることができる。この市場占有率を全国的に測定するのではなく、執行者は地域のコントロールレベルに注目する。』
『垂直統合されたプラットフォームは、ある分野で得られたデータから得られた洞察力を利用して、別の分野のライバルを弱体化させることができる。この問題に対処する方法としては、企業が貴重なデータを取得し、それをクロスレバレッジできるような合併を精査することや、利益相反を引き起こすような合併を予防的に禁止することなどが考えられる』。
『より厳格なアプローチでは、一定の優位性に達したプラットフォームによる垂直統合に予防的な制限を設ける。これは、プラットフォームが複数の関連事業に関与することで、プラットフォームが自社の事業を優遇し、他社に不利益を与えるインセンティブを持つ状況が生まれ、利益相反が生じる可能性があることを認識するものである。』
b本質的に独占的または寡占的であることを受け入れて、代わりに規制する
『独占の利益を受け入れ、代わりに独占企業がその力をどのように使うかを制限することを選択』する。
『アマゾンは、インターネット経済において不可欠なインフラとしての役割を果たすことが多くなっていることから、公益事業規制の要素をアマゾンの事業に適用することは検討に値する』『公益事業規制の代表的なものとしては、①価格・サービスの無差別性の要求、②料金設定の制限、③資本金・投資額の要求、がある。これら3つの伝統的な政策のうち、無差別は最も理にかなっていると思われるが、料金設定と投資要件は実施が難しく、おそらく、明らかな欠陥に対処することはできない』。『アマゾンの垂直的な力の主な原因が利益相反であることを考えると、無差別の原則は特に適切であると思われる』。
c解決まとめ
『現行法では、略奪的な価格設定のリスクや、異なるビジネスライン間の統合が反競争的であることを十分に認識していない。このような懸念は、オンラインプラットフォームの場合、2つの理由から高まる。第一に、プラットフォーム市場の経済性は、利益よりも成長を追求する動機付けとなっており、投資家はこの戦略を評価しています。このような状況下では、既存の法理が非合理的なものとして扱っているにもかかわらず、略奪的な価格設定は極めて合理的なものとなる。第二に、オンラインプラットフォームは重要な仲介者としての役割を果たしているため、ビジネスラインを超えて統合することで、ライバルが依存している重要なインフラをコントロールすることができる。この二重の役割により、プラットフォームは、自社のサービスを利用している企業について収集した情報を利用して、その企業を競争相手として弱体化させることも可能になる。
このような反競争的な懸念を把握するためには、消費者のための枠組みに代わって、競争過程と市場構造の維持を重視したアプローチをとるべきである。この考え方を適用するには、例えば、企業の構造が反競争的な利益相反を生み出していないか、異なるビジネスライン間で市場の優位性をクロスレバレッジできるかどうか、オンラインプラットフォーム市場の経済性が略奪的行為を誘発し、資本市場がそれを許していないかどうかを評価する必要があります。具体的には、伝統的な独占禁止法の原則を復活させ、略奪行為の推定を行い、支配的なプラットフォームによる垂直統合を禁止することで、これらの市場の競争を維持することができる。その代わりに、支配的なオンライン・プラットフォームを自然独占または寡占とみなすならば、公益事業制度や必須施設義務の要素を適用することで、支配的なプラットフォームがそれに伴う権力を乱用する能力を制限しつつ、規模の利益を維持することができる。』
3.追記
米FTC委員長に就任 リナ・カーン氏:日本経済新聞
ここまで来ると、日本のこの辺りの法律も大きく変わることが予測されます。加速することと認識してます。
さらに、人事権を掌握した模様
Amazonからは、忌避を請求されている。
スキ、その他の行為は、元気玉として有効利用させていただきます。皆様のお力を少しでも世の中の改善に使わせていただきます。