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手術

 予定より手術の時間が早まるかもしれないと言われ、手術着と着圧ソックスを渡される。ドキドキしつつ支度をして何度もトイレに行くが、結局は予定通り14:00の開始だった。
 看護師さんと一緒に歩いて手術室に行くのだが、エレベーター待ちしてる時にナースステーションの人に「いってらっしゃい。」と言われて「いってきます。」と応じる。その時の声の情けなさと言ったら。子どもの頃のジェットコースター乗る前の心持ちだった。怖くて怖くて、でも係員さんたちは明るくて、そのギャップを奇妙に感じてたあの頃。

 手術室に入る。最初の部屋で軽く説明を受け、麻酔科医やオペ看が挨拶をしてくれる。多分どんどん情けない顔になっていたと思う、俺。
 そして奥の手術台まで歩く。廊下もあってそれなりに距離あるな、と。そして人が多い。どこまでが俺の手術担当してくれる人なんだろう、と思いながら「よろしくお願いします。」と言いながら歩く。挨拶しながら手術台まで行くとは思わなかった。

 手術台に寝る。いろいろと固定をされながら、点滴で麻酔を入れられる。ジワジワと何か入ってきたなと感じていると徐々に意識が朦朧としてきて「変な気持ちです。」と言う。

 暗転

 名前を呼ばれている気がする。目の前は暗い。名前を呼ばれている。返事をする。声が小さい。気持ち悪い。気持ち悪い。名前を呼ばれている。「終わりましたよ。」と言われる。動かされている。気持ち悪い。吐きそうと伝える。エレベーター乗っている気がする。朦朧としている。病室に戻る。気持ち悪い。気持ち悪い。左足の感覚が変。吐き気がはやく過ぎ去ることを願う。気持ち悪い。

 看護師や麻酔科医や諸々話しかけられる。今ひとつ覚えていない。看護師が気を利かせてスマホを近くに置いてくれる。

 痛い。左足が痛い。点滴で痛み止めも入れてもらうと徐々に和らぐ。痛い。気持ち悪い。なんだこれは。いつまで続くんだ。早く、早く、と。やめたくてもやめられない。耐えるしかない。

 その後何回か体温と血圧を測られる。少しずつ吐き気と痛みが和らいで気持ちが落ち着く。スマホをちょこちょこいじるも気持ち悪くなるから程々にする。

 術後3時間近く経ってから一度点滴を終え、看護師に介助してもらいながら松葉杖でトイレに行こうとするが、身体を起こした途端にふらふら?ふわふわ?何とも言えない浮遊感があった。血圧は下がっていないようだが、ベッドから立ったところで動けなくなりトイレを断念する。ベッドに腰掛けるのが難しく勢いを殺せずに座ってしまい、傷口にウッとなる。普通の動作が難しい。身体を操れない。
 その後、尿瓶を渡される。



 軽食を用意してくれて、少しずつお腹にいれる。

 写真で見ると何とも味気ないが、24時間何も口にしていないとこんなにも美味しく感じるのかと感動する。空腹は最高のスパイスとは正にその通りだ、と。 
 ただ、口に入れると吐き気も催し、休み休み食べる。食べた方が良いのかと思いながら食べたのだが、後に看護師に「点滴入れてるから気持ち悪かったら無理して食べなくて良いよ。」と言われた。

 食後、尿瓶に挑戦するが出ない。そしてオムツを履いていたため、自分でオムツを外したのだが、普段仕事で履かせていたオムツをこうして自分自身にやるとはと思うとなんとも言えない気持ちになった。
 にしても、出ない。心を落ち着かせるが出ない。尿意はあるにはあるのだが出ない。外岩に登りに行った時などは誰にも見られていない場所でなら出来たのだが、周囲にカーテン越しに人がいるのかと思うと音を聞かれてしまうのではと緊張してしまい出ないのだ。
 試行を繰り返している最中に看護師が来て、「ちょっと待ってください。」と慌ててオムツを留める。尿が出ないことを伝えると車椅子を持ってきてくれてトイレに連れて行ってくれた。ただ、その時に左足を床につけてはいけないと言われて非常に難しい。左足に力が入らないなら持ち上げづらいし、かといってつけてはいけない。下がってくる左足にドキドキしつつ、可能な限り上げる。変な筋肉を使って攣りそうになる。
 便座に座るも左足の方に意識がいってしまいなかなか出なかった。が、出る。それなりの量が出る。少しの安心感を得た。ドア越しに看護師を呼ぶと、部屋からパンツを持ってきてくれたのでそれを履く。手術着はでろーんと前後に長い(スーパー銭湯の館内着のような奴)ので股間は隠れているが手伝ってもらう時の恥ずかしさが凄い。背に腹はかえられない。
 ベットまで戻してもらい、入眠。22:00くらいだと思う。
 その後入眠中2回くらい点滴を変えられた。


 術後の辛さがいつまで続くのだろうか。
 早く慣れたい。早く戻りたい。

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