中国語オノマトペの形態音韻派生

 この文章はどちらというと自分用の覚え書き的なものですが、国際母語デーってことで公開させていただきました。

 これから潮州方言と北京方言について扱うが、筆者は潮州方言について内省を持たないため、該当するデータはすべて朱(1982)に基づく。北京方言については必要に応じて内省を語らせていただく。
 また、中国語のオノマトペを研究対象とする形態音韻論的な検討において、管見の限り朱(1982)が最も重要である。そのため、朱氏のデータと論考を日本語でまとめることにした。
 先ほども言いましたが、自分用の資料なので、専門用語や音韻理論の説明などは書いておりません。

潮陽方言のオノマトペ


 潮陽方言のオノマトペには以下のような三つの語形(CH1、CH2、CH3)が見られる。


朱(1982:176)

 この三つの語形の音節構造は以下のようである。

朱(1982:177)

 朱(1982)はCH2、CH3の語形について、音素配列的にも基本的な記述もなさっている。 まず、CH2のC1V1のV1に現れる母音について

朱(1982:177)

 CH3のV1について、CH2と同じ記述できる。ただ、V2=口音あるいは口音+mの場合、V1はiŋにもなれる。
 今度CH2のC2に注目すると、nかlであることがわかる。朱(1982)はこの場合は基本的にlであるとしている上、張(1982)のCH2の子音変わるような語形成は、潮陽方言の一般語反復と同様である主張を支持している。潮陽方言の一般語反復では以下のようである。

潮州語の一般語反復


 朱(1982)の指摘は妥当である。なぜなら、nが現れる場合を観察すると、C2が鼻音の場合は、ベースのRimeは必ず鼻音性持つ。(uŋは例外、この一般化であると拧干はtsuŋ nuŋになるはず)
 以上の観察に基づき、朱(1982)は潮陽方言のこの三つの語形の派生関係について、CH2のC2V2がこの三つの語形の共同のベースであると主張している。このことを認めると、CH1、CH2、CH3の形態音韻派生は簡単に説明できる。
 CH1はつまりベースの反復形である。

   構造的にCH1=RED+BASE(ここでPrefixで書いているが実際REDは
   prefixなのかsuffixなのかわからい)

 CH3はつまり以下のようなテンプレートである。

   Prefix+Base (Prefix=C1V1、Base=C1V2。しかもV1の音価は
   V2と関係あり。具体的にV2とV1がどういうmapなのかわからない)

 CH2は一番複雑で、まずBASEがCH3になり、それからCH3をベースにsuffixを追加。

    Prefix+Base(=CH3)
    Prefix+Base+Suffix(Prefix=C1V1、Base=C1V2、Suffix=
          lV2、lは場合によってnになる)

 (もちろんPrefixをC1を複写してから母音添加、SuffixをV2複写してから子音添加と分析しても良さそう。ただ、Prefixの母音は具体的にどうやって決まるのか(音韻論的?それともlexical的に決まる?)わからない。suffixの方はなぜlが添加されるかはONSETによるのだが、なんでlateralで、しかもlなのかさらに考えなければならない。)

北京方言のオノマトペ

 北京語では私の方言では言わないようなオノマトペほぼない気がするので、こちらは内省あります。

 北京方言には潮陽方言に対応する語形もあれば、潮陽方言にないパターンもある。
 まず、CH1のような反復形(朱の用語に従ってBJ1と)がある(が、形態統語的に異なると朱がまとめている。形態音韻論的に、北京方言はREDの数に制限ないのに対して、潮陽方言REDが一つでなければならない)。

  只听见pa1(pa2pa3pa4pa5pa6...…pan)的一(二三四…….n)声音。

 次に、CH3に対応するBJ3がある。音節構造と語例は以下の通りである。

朱(1982:178)
朱(1982:178)
朱(1982:179)

 これらはCi(N).Ca(N)のようなテンプレートがある。tɕʰiŋは音素配列的にkʰ+iがtɕʰiになるので、underlying representationはkʰiであることがわかる。

 CH3に対応するBJ3のほか、潮州方言にない形BJ4が見られる。音節構造と語例は以下の通りである。

朱(1982:179)

 このタイプはつまりBASE+suffixで、suffixは全部onsetがlなので、派生過程としては、BASE+V、それからONSETと何らかの制約でlが添加される。あるいはCVーlVのテンプレートを設ける。(BJ3とBJ4はBASEの完全反復も可能:pi.pa→pi.pa.pi.pa、taŋ.laŋ→taŋ.laŋ.taŋ.laŋ)

 最後にCH2に対応するBJ2がある。このタイプは一番複雑で、音節構造とデータは以下の通りである。

朱(1982:178)
朱(1982:178)
朱(1982:178)
朱(1982:178)
朱(1982:178)
朱(1982:178)

 このタイプは朱の分析ではつまり、BASE=C1V2があり、このBASEを複写してそsuffixとしてBASEに添加。それからこのBASE+suffixが一つのBASEとなり、このBASEを複写して、prefixing modeでBASEの前に添加。(suffixは母音を複写してlを添加、prefixはBASEの子音を複写、母音を添加。) 
 つまり、噼里啪啦pi.li.pa.laの派生だとまず、paがBASEとなり、それからsuffixのlaが添加、palaとなる。それからpalaのp_l_を複写してprefixing modeでBASE=palaの前に添加して、最後に母音が添加して、pili-palaが出来上がる。 
 このように分析すると、BJ2はつまりBJ4の一種の反復形と呼ぶこともできる。

 朱(1982)では潮陽方言のCH2の派生過程は一段階しかなく、BJ2はに段階があるとしているが、Stratal OT的に考えるとCH2は少なくとも2段階あるのではないかと考えられる。潮陽方言のBASEは単独で使わないため、stem stratumにとどまり、BASEがCH3になったらword stratumになる。(もちろんCH2もCH3もword stratum)

もう一言

 以上の語形成を全部テンプレート的に分析しても良さそうだが、少なくとも北京方言も潮州方言もsuffixのonsetはlであることが興味深い。なぜなら、日本語のオノマトペの語中に一番多いonsetはɾである(Hamano 1998:41、44)。ラ行音は象徴的な意味(柔らかいイメージ?)を持つ場合もあるが、ピリっとのように、象徴的とは言い難い場合もある。そうだったら、ピリっとのɾも添加される要素なのでは?と素朴な疑問が浮かぶ。
 これらの他に、中国語オノマトペの挿入母音はどうやって決まるのか、トーンの特徴など、(音韻論に限っても)いろいろ謎が多いと感じている。(日本語のオノマトペも謎いっぱいですね…)

参考文献

Hamano, S. (1998) The Sound-Symbolic System of Japanese. Tokyo: Kurosio
        and Stanford, CA: CSLI.
张盛裕(1982)「朝阳方言的象声字重叠式」『方言』1982:3 -181-
        182
朱德熙(1982)「朝阳话和北京话重叠式象声词的构造」『方言』1982:3 -174-
        180

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