赦す
私のことを赦してほしい。
私は君を赦したい。
赦すことは、妥協することではない。
赦すことができなくて、ずっと苦しかった。
時間が経つと薄れていってしまうものに怯えている。
そのまま保っているためには、何かを犠牲にしなければならないのだろうか。
「私だっていろんなこと我慢してるのに」
普段は絶対に口にはしないそんな言葉を吐いて、ふと我に返った。きっとそれは私の本音で、甘えだったと思う。
弱いのに強いふりをしてしまうし、寂しいのに満たされているふりをしてしまう。
誰かに心情を吐露することすらも容易にできないのに、わかってほしいと思うなんて烏滸がましい。
人は容赦なく私に期待をぶつけてくる。過度な信頼を放り投げてくる。暴力だよ、それ。
「逃げていいんだよ」って言いながら、私の両手をちぎれるほどの強さで握ってくる。束縛だよ、それ。
空がどれだけ青く澄んでいたって、星がどれだけ綺麗に瞬いていたって、瞳を開けられなかったら意味がないじゃない。
彼女を赦そうと思う。今朝、電車に揺られながらそんなことを考えていた。
彼女を赦すことで、私自身をも赦すことになるのだろうか。
赦すという行為で救われるものがいくつあるのだろう。救われる人が何人いるのだろう。
ずっと憧れていた。彼女のようになりたかった。出逢ったその瞬間から恋をした。同じ目線で言葉を紡ぎ合えることが嬉しくてたまらなかった。彼女の生きる理由でいたかった。彼女の弱さを受け入れてあげたかった。彼女の逃げ場でありたかった。
あれは、あの感情はきっと、依存に近いものだった。
彼女を救った気になって、救われていたのは私だった。
私の人生は、彼女の存在をなくしては語れないと思う。
ありがとう。まだ幼くて、未熟なあの頃の私と君。
変わりたくて、変われなくて、変えたくて、変わらなくて、絶望した。変化を好むくせに変化を嫌うなんて、人間って勝手な生き物だ。
どう足掻いたって、私と君が交わる世界線なんて存在しなかっただろうね。
私を赦せなかったのは、他の誰でもなく、私自身だったのかもしれない。