藻澄川 1
その川は街の真ん中を流れていた
川の名前は藻澄川というものであったが、
誰もその名前を知りはしないし、また興味も抱かなかった
緑の藻が浮かび、ただあてもなく流されていく黒ずんだ川は
人々の興味を引き付けるにはあまりにも特徴がなかった
ただ昔一度だけ、ここで死んだ男の遺体が浮かんでいるのを発見された時には
その川のことがお茶の間で少し話題になりはしたが、
人々の興味はやがて日常のこまごまとしたこと
政治やら高騰する野菜の値段やら誰と誰が不倫しているかなどの話題に埋もれていった
最初のうちこそは、その遺体が発見されたそばに
遺族からかの献花が供えられていたが、
心無い人たちによってその花も荒らされると
その習慣も途絶え、もとの特徴もない川へと戻っていったのだった