藻澄川 6

音もなく流れる川の音が、
慶次をそっと包んだ
 
踏みつけられてまき散らされた草木の汁の匂いで、
慶次は自分が大きな川の前に来ていることが分かった
 
 
 
遠くに見える中天辺りを漂う灯篭の明かり以外は
一切の光もなく
虫の音すら、まったく響かない

恐ろしいほど、静かな場所 
 
  
  
まるでここが、黄泉の国であるかのようだ
 
 
 
生きているものは誰もおらず、
ただ亡き者たちの魂だけが堂々巡りを繰り返す
 
死んだ者たちだけの国
 
 
 
慶次は、川の手すりに身を預けて
遠くに見える灯篭の明かりをただ眺めていた
  
 
灯篭の光はあてもなく天を彷徨い、
虚空に月のような光の塊を埋め込んでいく
 
 
 
 
どれほど時間がたっただろうか
虫の音が空を満たし、川から立ち昇る蒸気が鼻をつく
  
  
   
 
突然、誰かがスイッチを切ったかのように
 
天に浮かんでいた明かりが消えた
 
虫の音も消えた
 
川の香りも消えた
 
 
慶次は、虚無の闇の中に浮かんでいた
 
最初慶次は、灯篭流しが天に映らなくなったのかと思った
しかし、すぐにそうではないことに気づいた
 
なぜなら、音も香りも、真夏の夜のけだるい熱気さえ
急に退いていったからだ
 
 
そして、、、
寒かった
氷水に突っ込んだかのように
 
 
そんなはずはない
8月の夜に、寒さを感じるなんてありえないのに
 
 
鳥肌が立ち、冷気が肌を嚙む
 
 
 
すると、何かが慶次の身体を強く引っ張った
空に投げ出され、硬い何か(地面だろうか)がしたたかに彼を打つ
 
再度彼の頭を硬いものが打つ
まるで、坂道を転がり落ちているかのようだ
 
 
何かが、上半身を嚙んだ
 
 
いや、違う
川に落ちたのか
 
冷たい、真冬の川のような水溜りに
 
 
 
その時、慶次は気づいた
 
 
何かが、そこにいる

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