僧侶が酒宴で強制還俗
時々、こういうニュースを目にします。
8月29日、タイ北部チェンマイ県にある仏教寺院で、焼肉パーティーをしていた7人の僧侶と1人の一般人。
周辺住民の通報で警察が寺院内に立ち入り、ビールまで飲んでいたことが発覚しました。
タイの上座仏教僧侶は、戒律によって飲酒が禁止されています。その一方でタイの法律は、たとえ僧侶であっても飲酒自体を禁止していません。よって7人の僧侶を、飲酒によって逮捕することはできません。ただ、現在「非常事態宣言」が施行されているタイでは、5人以上の集い(宴会も含む)が規制されています。この政令に違反し、かつ現在義務付けられている「公共スペースでのマスク着用」という感染症対策をしていなかった「感染症制御法」違反によって、8人が逮捕されました。
タイでは僧侶を逮捕するために、しかるべき手続きがあります。
タイの僧侶(タイ仏教の儀式によって出家した外国人僧侶も含む)は、「世俗を超えた存在(=出家ですね)」として位置づけられています。そのため、法律を犯して逮捕される場合は、まず仏教の戒律及び儀式に基づいて「強制還俗(破門)」という手続きが取られます。「強制還俗」によって、僧侶が「世俗を超えた存在」から一般市民に戻ったことを受けて、警察が彼らを正式に「逮捕」するのです。
8月31日の Bangkok Post 電子版で、位階が上にある僧侶が司る儀式によって、7人の僧侶が「強制還俗」させられている写真が掲載されました。あまり見かけない画像なので、ここにアップしておきます。
「位階が上の僧侶」と記しましたが、ふつうの僧侶であれば。所属している仏教寺院の僧団長(すなわち住職)が還俗儀式を司ります。しかし今回ケースでは、戒律を犯した7人の僧侶のうち4人がそれぞれの寺院の僧団長という立場にありましたから、還俗儀式を司ったのはチェンマイ県僧長、つまりチェンマイ県内にある仏教寺院に所属している僧侶たちのトップが儀式を司りました。
※なおタイ上座仏教には、マハー・ニカーイとタンマユット・ニカーイの2派があり、それぞれが各県の僧団長を任命しています。つまり僧団長が各都県に2人ずついる、ということです。
還俗の儀式はいたってシンプル。
まず黄色い僧衣を着たままで僧侶一人ひとりが、儀式を司る僧侶の前で「還俗」の意思表示をします。そのうえで僧衣を脱いで白い作務のような衣に着替え、還俗後も仏の教えに帰依し続けることを誓う経文を唱え、終了です。なお今回は強制還俗ですが、儀式自体は一般的な還俗式と変わりません。
還俗後、7人の元僧侶と一般信者1人は、警察官に連れられて裁判所へ。
前述のように飲酒自体では裁かれず、非常事態宣言と感染症制御法に違反した罪によって、「懲役15日、執行猶予1年、罰金10,000バーツ(約33,000円)」の簡易判決を受けました。まぁ、妥当な判決でしょう。
それよりも、元7人の僧侶にとって重大問題なのは、これからの生活。
飲酒という破戒行為によって、生活の糧も住居も一気に失ってしまったのです。さて、これからどうするのでしょうか…。当面は、親族や知人を頼って居候をするのでしょうけれど。
タイ上座仏教僧侶は、市民からの布施によって食を得られますから、コロナ禍であっても生活に困窮することはありません。それゆえ中には、家庭の貧困が出家の理由だったという僧侶もいます。もちろん、たとえ理由は貧困であっても、一生懸命修行に取り組んでいる僧侶だっています。しかしそのような立派な僧侶であったとしても、自分自身の欲望と闘うことは、並大抵なことではないでしょう。今日は欲望を抑えることができても、明日も抑えられる保証はありません。毎日が、欲望との闘いです。
タイに住んではいても、私の生活は仏教僧侶たちの生活とまったく異なります。けれど、僧侶でない俗人であるからこそ、欲望をしっかりコントロールする必要性を感じています。特に飲酒、女性関係については、きちんとした「絶対防衛ライン」を自ら設定していないと、一気に敗走してしまいそう。バンコク都は今日から規制緩和が始まりますが、それに流されて欲望への規制まで緩和しないよう、気をつけたいと思います。