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ウクライナの恐れ、ロシアの恐れ
ウクライナがたいへん善戦しています。
ロシアによる侵攻が始まった2月24日当時は、「首都キーフは数日のうちに陥落するだろう」とまで言われていましたが、3ヵ月経った今も、ウクライナの人たちの祖国防衛の意思は変わらず、勇気ある交戦が続いています。
西側からのさまざなま支援を受けて、ウクライナ軍の一部はロシア軍を押し戻し、一時占領された地域を取り戻しているようです。日本では、このような「ウクライナ優勢!」という報道が視聴者や読者受けがいいので、そうしたニュースが報道されがちのようです。しかし、英国のBBCが報じている図を見ますと、ロシア軍は「選択と集中」をしている様子がわかります。
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ロシア軍は、北東部のハリコフ(Kharkiv)地域から撤収する一方、東部戦線では占領地を増やしているようです。最近では、ロシア軍はドンバス州の制圧に狙いを定めたという報道もあります。ただ、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭っているため、進軍速度は必ずしも、ロシア軍の計画通りには進んでいないようです。
一方、ウクライナ軍やアゾフ連隊が降伏したアゾフスタリ製鉄所の攻防がよく報道されていましたが、こちらの地域は3月末の時点ですでにロシア軍がほぼ全域を制圧しており、アゾフスタリ製鉄所に籠城していた兵士たちへの補給は、まったく閉ざされていました。それなのに、1ヵ月以上も持ちこたえたことは称賛に価すると思います。ゼレンスキー大統領が、「英雄だ」と讃えた所以です。
※アゾフ連隊は内務省が管轄している「国家親衛隊」に属する組織です。国防省配下のウクライナ軍と、指揮系統が異なります。
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こうしてみると、ロシアが軍を進めている地域と、ウクライナ軍が押し戻している地域とがはっきりと分かれています。ロシア軍は全軍が後退しているわけでもないし、ウクライナ軍は全軍が前進しているわけでもありません。ロシアはやっと、ウクライナ軍の実力+西欧の武器供与という現実を正当に評価するようになったのでしょう。そうなると、ロシア軍だって簡単な相手ではありません。
態勢を立て直しつつあるウクライナ軍は、西欧などからの支援を得て、「クリミアを取り戻すのは今だ」と真剣に考えているかも知れません。私たちは一刻も早い停戦を願っているわけですが、ここで停戦・和解となったら、ウクライナがクリミア半島を取り戻す可能性は一気に減少することでしょう。クリミアを取り戻せない限り、ウクライナはロシアへの屈辱感を常に感じることになります。
それに、敗戦色の濃いままに停戦交渉に入ったら、ここまで破壊され尽くした社会インフラへの賠償を求めることも難しくなります。戦争で命を失った方々やその遺族への補償も、その財源確保が問題となります。戦争が終結したところで、これまでに受けた経済的損失からウクライナが立ち直るためには、巨額な資金と長い年月が必要です。ロシアに損害賠償を請求できないことは、ウクライナにとっては恐ろしいことでしょう。
一方のロシアは、なにかしらの戦果をあげ、少しでも優位な立場から、停戦交渉につきたいところでしょう。さもないと、ウクライナから賠償を求められるでしょうし、西欧がロシアを「敗者」として扱うことで、経済制裁は継続され、「大国」としてこれまで得てきたさまざまな特権(国連安保理常任理事国という立場も含め)を失うことになるかも知れません。そうなったらロシアは、世界の中での影響力をかなり喪失してしまいます。
これは、ロシアにとっては辛いことでしょう。自分たちがもはや、世界から畏敬されなくなることは。プーチン大統領は、「ロシアの威厳を失墜させた男」として、ロシアの歴史にその名を刻まれるわけです。
それは、困る。だからせめて、ドンバス地方だけでも占領したい。そうすれば停戦交渉で有利に立てる可能性があるし、クリミアも確実に安泰だ。国外で凍結されている資産だって、取り戻せる可能性がある。それに、ウクライナ側の社会インフラを破壊すればするほど、彼の国の復興は時間がかかるものとなり、それはロシアにとって戦力回復の時間的猶予につながる。
どちらの国も、まだ気配すら感じられない「戦後」を夢想し、失うもの、得られなくなるものを指折り数えて、恐れているかのようです。
だからもうしばらくは、戦闘が継続されることでしょう。その「しばらく」とは、半年になるのか、1年になるのか…。
そして戦闘が継続されているうちは、民間人の犠牲を避けることはできません。これは、一刻も早い停戦を願う人たちにとっては辛い現実です。
一旦始まったら、収束する道を探ることがたいへん困難。
新型コロナ・ウィルスだけでなく、人類史と共に歩んできた戦争も、私たちは未だにこの世界から除去することができないでいるのです。