BTSと小宇宙へ冒険した2日間:2021 MUSTER SOWOOZOO
世界には2種類の人間しかいない。2日ライブがあったら2日とも行く人と、そうでない人のどちらかだ。古代ギリシャの偉い人がそう言っていました。私は産湯に浸かった頃から前者だった気がします。好きなアーティストが連続公演を行うときは、逡巡なく両日のチケットを手に入れる種族です。いつか好きなバンドのツアーを全公演通して見るのがささやかな夢です。
なんてことを口にすると、もう片方のグループに属する人々から必ずかけられる言葉が「なんで2日とも行くの?どっちも同じでしょ?」。
それが、違うんですよ。
別種族の方に問いたい。あなたは毎日同じ歩数で駅まで歩いていますか?毎日同じスピードで牛乳を飲み干していますか?と。時の流れは不可逆で、全く同じ瞬間というものはこの世に存在しない。正確なタイムテーブルを誇る日本の電車だって時には遅延するし、ぺこぱにだってドラえもんにだって本当の意味で「時を戻そう」はできないのです。
表現、表情、息遣い。空気の色や濃さや匂い。毎回変わるアウトプットの爪先をつかまえに、我々は現場へ足を運ぶ。その時その場所で生まれては消えていくたくさんの瞬間を受けとるために。そして1日目はこうだったね2日目はこうなってたねと並べたり比べたり重ねたりしながら、短くて幸せな2時間×2を反芻するのです。2公演でチケット代は倍になっても生成されるエンドルフィンの量は軽く10倍。こんなコスパのいいこと、あります?
だって好きなものは何度でも見たいですよね。
そもそも初日はだいたい興奮状態で、受け取る情報量とあふれる感情量を処理しきれずいっぱいいっぱい、見てるようで何も見えてないし、聴いてるようで何も聴こえちゃいないんです。「このギターソロ一生忘れない」と心に刻んだつもりの瞬間が、ライブが終わり客電がついた途端にまっさらで何にも思い出せなくなるあの現象、なんていうんでしょうか。そもそもステージが始まれば近づく終わりを感じて悲しくなるし、今そこにライブがあるのに行かないなんて耐えられないんですわ。
そんな訳でBTSのオンラインライブ『2021 BTS MUSTER SOWOOZOO 』を2日間楽しみました。
初日終了後に度々思い返しては「そうだ、明日もあれが見れるね」とあったかーい気持ちになったシーンはこれ。
大吹打コント防弾新喜劇バージョン。ソロより7人の集団芸が好きな私には爆弾級のプレゼント。ていうか、こんなのありなの?あのシリアスなMVを新喜劇にしちゃって怒られないの?付け髭のクオリティ、ペラッペラなんですけど?笑 首を落とされたVさんからは、宮廷の勢力争いに敗れ志半ばで退場を余儀なくされた左議政(誰?)の無念を感じました。
RMの「Daechwita!Daechwita!」はずっしり重たくて最高オブ最高。RMのラップって「背中の傷は武士の恥」みたいな正々堂々真向勝負感がすごく好きです。J-HOPEの高速ラップもけしからんくらいかっこよかった。こんなこともできちゃうんだよね僕、って感じにさらりと見せつけてくれました。イケボのソロ曲を別のイケボで聴けるというこの贅沢、神々の遊びかなにかですか?
メンバーのソロ曲をグループでやっちゃうサプライズと、これぞファンミーティングというユルめのノリ。これが防弾祭りの流儀なんですね。実に楽しいじゃないですか。ここでしか見れないBTSからのプレゼントでひとしきり笑った後の『IDOL』はもう圧巻。一瞬にして場の空気が変わり、おうちライブが時空を超えて小宇宙のどこかに飛んでいってしまいました。『IDOL』の求心力の強さはきっと幾世紀たっても色あせないですね。
そして「さあ昨日は目が届かなかったあれやこれやを見るぞ!」と心して臨んだ2日目の『大吹打』。
かわっとる。『Chicken Noodle Soup』に。え、『Chicken Noodle Soup』の7人バージョン聴けちゃうの?!嬉しい。でも『大吹打』もう見れないの?あの豪華なセットは1回だけで廃棄?感情がスクランブル交差点になる中で始まるCNS。CNSダンス、ジンがすごく上手!こういう軽快でポップなダンスが得意という新発見。うわー、J-HOPEのラップをSUGAが歌ってる。全然ポップじゃなくてただのSUGA!JKのシルクのようなコーラスはゴージャス極まりなく、ジミンのラップも上手でびっくり。7人のダンスバトルも全然バトってなくて、いつもその辺でやってる遊びっぽくてかわいかった。
HOPEさんのパフォーマンスはもう圧倒的。歯切れよく軽快で、階段を一段飛ばしで駆け上がっていくようなリズム。全身パーカッション。『Chicken Noodle Soup』はヒップホップでも『MIC Drop』よりもずっとJ-HOPEの芯を食った音楽性。彼はPOPの申し子ですね。同じラッパー、同じストリート出身でも(かどうかは知りませんが)、SUGAとは持ち味が真逆。陽と陰。太陽と月。ビタミンとタンパク質。その二人が同じグループにいると反射するように互いの輝きが増して、非常によろしいです。
そして、ついについに『Dis-ease』が聴けた!ほらやっぱりライブで最強だったーーー!四方八方から合いの手とコーラスが入りまくって、気づいたら自分の身体が海藻のようにゆらゆら揺れている。これこれ、これが聴きたかった。これぞBTS funkの『Dis-ease』!アルバム『BE』からは他に『Fly To My Room』と『Stay』も披露されましたが、どちらも2日目はぐっとまとまりがありました。『Fly To My Room』はTiny Deskのフォーマットで聴きたいなあ。
『Dis-ease』の横揺れグルーブからの強烈な縦ビート『FIRE』『So What』『Not Today』の爆発力。画面越しにでも燃える情熱とはじけるエネルギーをビシビシ感じる。このほとばしる情熱、これがBTSのライブの真骨頂だと改めて思いました。「BTSのライブを見ると、他に行けなくなりますよ」とSUGAパパが熱弁をふるいたくなるのも分かります。『Not Today』はどんどこラウドなアレンジですごく好み。こういう新しい出会いがあるから、ライブは止められないですね。
『So What』はライブで見てなんぼの曲ですね。BANG BANG CON 21のサンパウロ公演の熱狂を思い起こしました。巨大なスタジアムを熱気ムンムンのダンスフロアに変えてしまうパワー全開のパフォーマンス。『FIRE』は7人がぐいぐい引っ張っていく牽引力が強い曲だけど、『So What』は会場を巻き込んで一体化する力がすごい。メンバーも飲む水がなくなるまで水かけ合戦に夢中になったり(小学生?)、サングラスのレンズが片方なくなっちゃうくらい飛び跳ねたりして汗びっしょり、観客を入れてないライブと思えない熱さ。水まき職人ジンは今日イチくらいにキラキラした表情を見せています。
解き放たれたようにステージで遊ぶ7人の姿、これ屋外のリアルライブに近いステージだから生まれた瞬間じゃないのかなと。残念ながら無観客ではあったけれど、広がる景色や生ぬるい風やじっとり熱い空気が彼らの内なる何かを呼び起こしたように見えたし、お客さんと同じように、演者もその場の空気を五感で受け止めてエネルギーの交換をしてるんだなと思いました。
ステージの上には「小宇宙」のテーマで組まれた巨大なセット。紫を基調に優しい色合いで作られた小宇宙は、彼らの「8」年の軌跡を模しているようでもあり、無限「∞」を表明しているようでもありました。
このセットを見た時に起きた、言葉にしがたいような胸の高鳴り。昨年のオンラインライブ『MAP OF THE SOUL ON:E』はデジタルクリエーションの妙をこれでもかというくらい味わえたけど、スタジアムライブならではのパカーンと豪華なセットにはデジタルでは得られない魅力があります。紙吹雪や火柱や花火もそう。圧倒的な実体がそこにはある。物理の力で両頬をたたかれた気分。大きいものってかっこいいですね。人類が巨大ピラミッドや高層ビルに惹かれる気持ちが分かる。
7人の表情も『MAP OF THE SOUL ON:E』より数段明るくなってました。去年は全く先が見えなかったけど、今はやっと数か月後の未来が描けそうな状況まできてますもんね。韓国でもワクチン接種が進んでいて、イベントの集客人数制限が緩和されているようなので、いよいよリアルライブが帰ってくるかもしれません。
SOWOOZOOの視聴者数は世界195か国で133万人を記録したとのこと。オフラインのライブとは違うけど、「そうだ、今日は夜になったらライブがある」と何度も思い出してはそわそわし、いつもの憂鬱な日曜と沈鬱な月曜の夜にぽわっと明りが灯った2日間でした。2日目ラストの『Mikrocosmos』ではメンバーに合わせてモニターの前で手をぶんぶん振ってみたらすごく楽しかった。かすかな腕の痛みにライブの実感と運動不足の実感を得た瞬間。ありがとうBTSの皆さん。ライブDVDが発売される日をお待ちしています。
では、ニッコニコの「A」とスンッとした「M」のコントラストに思いを馳せつつ終わりたいと思います。
※お借りした写真には掲載元のリンクを貼っています