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BTS『Permission To Dance 』は未来を祝う新しいアンセム

嬉しいことが起きたら好きな歌を口ずさむ。楽しさが極まったら体がそわそわして踊りだしたくなる。ときに寂しさや悲しみを音楽が慰めてくれる。これ、ヒトのDNAに組み込まれている生命維持装置のひとつだと思うんですよね。世界の津々浦々どこへ訪れても、音楽・歌・ダンスがまったく存在しないコミュニティはないだろうと思います。

だから古今東西の偉人たちはその素晴らしさを音楽で語り継いできた。一晩中ロックンロールしようぜと。ラジオに合わせて踊ろうよと。人類がある限り途切れることのない普遍のメッセージ。今度はそのバトンがBTSに渡り、彼らが歌う。「音楽が僕らをどこまでも連れて行く」「誰も僕らを止められない」「いま輝くときを踊りまくろう」と。

これは優勝の曲ですよね。祝いの歌。生きとし生けるものへの賛歌。Gleeだったら全国大会の決勝で歌うやつです。力を合わせて困難をひとつずつ乗り越えて、あとは楽しむだけ。私たちみんなにその資格がある。誰の許可も必要ない。歌って、踊って、キラキラ輝くこの瞬間を楽しもう。RMがこの曲のことを「キャンプファイヤー」と表現していたけど、ほんとそれ。

『ON』が肩を組み拳を振り上げて戦いへの団結と勝利を誓うアンセムなら、『Permission to Dance』は肩をぽんぽんと叩き笑顔で手をとりあって称え合う祝祭のアンセムです。まるで『Dynamite』『Butter』に続く英語曲3部作のフィナーレのよう。

曲調は正々堂々真っ向勝負、剛速球ど真ん中ストレートの王道ポップス。速球も速球、170キロくらい出てるんじゃないですか?エンゼルスのスズキさんじゃなかったら受けるのだけでも大変です。

心が勝手に踊りだすピアノのリズム、世界中のキャッチーを集めたようなメロディ、ノスタルジックなストリングス。『Tears Of A Clown』や『Ain't No Mountain High Enough』なんかの60年代モータウンサウンドが思い起こされて、愛くるしいったらないですね。曲を丸ごとムギューと抱きしめたくなります。私はストリングスを使った曲が大好きなので、Teaserの時点で期待が高まりすぎてドキドキが止まりませんでした。

インストver.を聴くと、サビの裏ではギターとベースも結構ファンキーにはねていてR&Bの香りが。ブラスもさりげなく入ってたし、ピアノ、弦、管入りのバンドアレンジでのパフォーマンスなんかも期待しちゃいます(←いつもこれ)。波音っぽいエフェクトも夏らしくていいですねー。

コンポーザーのエド・シーラン味が炸裂するJKの歌から始まり、2番手のRMへ。『Dynamite』の黄金パターンを踏襲。

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このポーズ、RMの背後でJ-HOPEとジンがすかさずマネしてて笑いました。スキあらば被せてくる少年団、天丼だってBTSのお家芸のひとつ。RMの声って説得力と包容力の乗算だと思ってたんですが、なんとなんと、グループ一番の青春声だったことが分かりました。このフラジャイル感。甘くかすれた切ない声。成熟と脆さの2面性をどうやって共存させてるのか。これは非常にキケンなやつです。大変なことになりますよ(私が)。

エド・シーランといえば英国、英国といえばSir. エルトン・ジョン、エルトン・ジョンといえばピアノ、ピアノといえばSUGAの猫背ピアノ、つなぎを着た猫背ミン・シュガ、ウッ・・・(心臓に何かが刺さった音)


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読んでいた雑誌を躊躇なく床に投げ捨てるジミン兄貴。Gジャン、ジャケット、雑誌、つかめるものなら何でもかっこよく投げられる強肩パク・ジミン。万物投げ捨て選手権があったら独走優勝です。

ここのフレーズ、ジミンのためにあつらえたようなメロディですよね。全盛期のブリちゃんにも負けないジミンのエッジ・ボイスが生きるメロディが多くて嬉しい。『Butter』では抑え気味だったので。最高音じゃない方が、ジミンの特殊な(褒めてます)丸い声で曲の場面がバシッとチェンジする。あと踊ってるときの流線形のラインがほんとにきれい。ラスサビでJKと並んだときのバッ!バッ!バッ!っていう振り(伝われ)のかっこよさよ。パク・ジミンが腕を上げるとそこにドラマが生まれる。音と振りが完全に一体化して、まるでミュージカルのラストシーンのようなクライマックス、何度もリピートしちゃいました。


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ジミンから受け取った何かで目を潰しにきたジン。(育ちの良いジンはそんなこといたしません)

『Butter』に続き、今回もジンの歌がすっごくいいです。2回目のサビではVの次に出てきて同じメロディを歌ってるんですが、2番手で現れるときのジンの声って、エッジや瑞々しさが際立って最高級に映えまくりです。ナナナのコーラスはジンが通しで歌っていたけど、あんなにキラキラしたナナナ聴いたことがない。史上最強のナナナ。ジンの声の良さが全部出ていて、この世のすべてのナナナのためにあるような声にすら思えました。希望を集めて声にしたような響きで、紫色の風船が青空の彼方に飛んでいく姿が見えるようです。

ジンだけじゃなくて、曲全体のパート割が秀逸。誰が来ても「この声、好きぃ~!」となるし、全員の位置に必然を感じる。

ジンはダンスもとってもよかった!『Chicken Noodle Soup』の時にも思ったけど、こういう軽快なダンスが得意ですよね。ゆったりと明るい曲調はジンのキャラクターにもぴったりだし。


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BTS5人目のボーカリスト登場。新加入かな?

ってJ-HOPEさん、歌うますぎません?結構な尺のメロディ、しかも単語ツメツメのフレーズをノーブレスでさらりと歌いきり。流れるようなメロディへの単語の載せ方にシーラン先生の影を感じました。J-HOPEの笑顔が浮かんでくるような優しい歌声。

PTDはラッパー全員が歌っていてパートもしっかり多めなので、分業制の様相が薄れて、曲を通しての一体感がすごくあります。レンジもキツくなくてダンスもゆったりなので、7人の声の個性と歌のうまさをこれでもか!というくらい堪能できて、目をつぶって聴いていると宮廷のサロンにいるかのような天上感を味わえます。音源よりパフォーマンスの方が至福だったので、公式から動画が上がりますように。

あとこの髪色のベリーショート、オサレ番長のJ-HOPEさんに最高に似合っていて大好きです。


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J-HOPEさんに手繰り寄せられてSUGA登場。石をも動かすJ-HOPE

ここ、「Just keep the right vibe」というフレーズの「right」までJ-HOPEが歌って、「vibe」からSUGAが入ってくるの、ものすごくかっこよくないですか。ここのシームレスな展開で聴き手の心をぐぐっとつかみにいってますね。『ON』のラップでJ-HOPEからSUGAにつながる部分なんかもそうですけど、継ぎ目なくパートを渡していく手法が性癖クリーンヒットで困ります。

J-HOPEは想定内として、SUGAまで完全に歌っていてびっくり。MVでもパフォーマンスでも、ここのSUGAのパートを見る度に心臓がドラムのようにドコドコ鳴るのはなぜでしょうか。『Dyamite』はシンギング・ラップと言えないこともなかったけど、こっちはただのシンギング。くぐもった野太い声がたまりませんね!音源ではエフェクト強めだったけど、なんならパフォーマンスの生声の方がうまかったし。メロディがJ-HOPEからSUGAに渡ってリズムが変わっていくところは、いつものラップのやりとりを彷彿とさせました。


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笑顔の伝播力No.1のVさん。赤のつなぎがこんなに似合うカウボーイいます?(実際はつなぎじゃなかったけど)

『Butter』では「親譲りのイケてるボク」の役を演じていたVさん、こちらではピュアな笑顔がはじけまくってます。特にサビの部分を、あんまり楽しそうに歌って踊っているので目頭の辺りが変調をきたしそう。Vさんの無垢な笑顔を見るといつも、「その笑顔を一生お守りいたします」と片膝ついて誓いをたてたくなります。

リリース当日のパフォーマンスでも、7人全員ほんとに笑顔が多くて、ハートフルなこの曲を歌うことで、作り手である彼らも力が沸いたり心がホワッとしたりするのかなと感じました。例えば誰かから「ありがとう」って言われたらもちろん嬉しいけど、自分が誰かに「ありがとう」って伝えるときも心があったかくなりますよね。そういう感じ。それと、もしかしたら言霊のような力がハンドサインにもあるのかもと思ったり。


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スーパーヒーロー登場!フロアで軽々とクワドアクセルに着地。満額加点。筋力と体幹が床の摩擦抵抗に勝った瞬間を目撃しました。「もしBTSのメンバーになれるとしたら誰になって何をしますか?」という質問をされたら、RMのように「J-HOPEになって一度でいいから体にウェーブを通したい。一度でいいから(真剣)」と答えるつもりだったんですが、このシーンを見ると「ジョングクになってグルグル回転するのもやってみたい。どっちにしよう」と迷いが生じます。

衣装のコンセプトはカントリー。刺繍とかコンチョとかフリンジとか細かいとこまで凝っていて楽しい!バイク乗りの人が履いてるパンツonパンツ(チャップス?)をお召しのJ-HOPEさんにはときめきを隠せません。RMが着ていた刺繍のシャツがすごく好きで欲しいなと思ったけど、予想通り私には桁がひとつ多いお値段だったので購入断念。

MVでは分かりづらかったけど、ダンスにもカントリーテイストが盛り込まれてましたね。デニムのポケットに指を突っ込んでステップ踏むところとか。カントリーダンスって酒場で大勢集まってワイワイ踊るイメージなので、曲のコンセプトにも合っててよいなあと。


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スクショされた回数No.1のシーンはこちら(自分調べ)。

『Permission to Dance』が加わって、BTSの音楽カタログがさらに分厚くなりました。これだけ幅広い音楽性のレパートリーを揃えているグループって、なかなかいないんじゃないでしょうか。AC/DCとかグレイトフル・デッドみたいにひとつの武器で戦い続けるのもかっこいいし、BTSのようにその時々で色んな表情を見せてくれるのも魅力的。私はどっちも好きです。

でもこの曲、実はBTSにとってものすごく大きな挑戦だと思いました。なぜなら、それまで彼らが着ていた「最強スーツ」を脱いでいるから。だってラッパーなのにラップしないんですよ笑。一番強い武器を使わないとか、自分なら怖くてたまらない。

ダンスにしたって、一糸乱れぬ高難度ダンスを代名詞にしていたグループが、かつてないほどほんわかした振付けを踊っている。

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「激しくない=簡単」ではないんですよね。手数が少ないものを洗練させてかっこよく見せるのって、ぎっちぎちの激しい振付を踊るのとは別の難しさがある。BTSチームの振付師の方も、確か『Butter』のMVを見ながら「メンバーが成熟したからこういうダンスもできるようになってきた」(昔はそれが難しかったから激しめきっちりの振付にしていた、のような文脈だった記憶)って話してたし、ドリーム・シアターがキンクスの曲をかっこよく演奏できるかって言ったら分からないじゃないですか。(できるかもだけど)

音作りにしても、それまで時代を先取りするようなサウンドとか凝りに凝った音作りをしてた人たちが、あれだけシンプルでポップな曲を出すって、そりゃもう大冒険だと思う。Tシャツ短パンで富士山に登るような感じ?それに「まーたメディアから ”昔みたいなヒップホップの曲は出さないんですか?” とか聞かれるんだろうなーーー」とか余計なことも考えちゃいそうだし。

そこを全部引き受けて、いまやりたい音楽として『Permission to Dance』をリリースしたのはすごく勇気があるし、かっこいいなと思いました。つきつめれば、ラップもダンスも、歌詞やメロディでさえも、表現したいことを実現する手段にすぎないんですよね。BTSが今回やりたかったことにもっともピタッときた曲がPTDでありこのダンスであり表現なんだろうなと思います。

年齢も人種も場所も関係なく、みんながマスクを外して心を通わせあって踊る。それは私が見たい世界だし、彼らがそれをMVで見せてくれてグッときました。MVに登場する人たちもみんなほんとにチャーミングで笑顔がかわいくて幸せそうにダンスしていて、思い出すだけで涙腺が全開になりそう。

そして最後のおまけシーン。現場を作ったメンバーみんなで笑いながらダンスする。彼らも、私たちも、早く返ってきてほしいと願っているのは、きっとこういうささやかな瞬間。TLでもファンに限らず「涙が出た」という感想をたくさん見たし、こういう音楽が求められていたんだな~と実感しました。

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Teaserでこれを見た時、「ほう・・・あのキャンピングカーの中でメスが作られているのか」とか思っちゃってごめんなさい。(Breaking Bad脳)



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