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恐怖の「ワルツ・スケルツォ」
"オーケストラのパート譜とソロの楽譜が全然違う!?"
オーケストラライブラリアンにとって、楽譜のトラブルはできるだけ避けたいものですが、以前チャイコフスキー作曲「ワルツ・スケルツォ」というヴァイオリンソロとオーケストラのための曲を以前やったときとんでもない落とし穴がありました。
この曲をやることが決まった時に手元に楽譜を持っていなかったので、新たにオーケストラのフルスコアとパート譜を購入し、手元に届いたフルスコアを片手に、パールマンの録音を聴きながらスコアを眺めていたところ、途中で????な箇所だらけ。フルスコアと演奏が途中から全然違っているのです。
いろいろと調べていくと、どうもヴァイオリニストの間でよく演奏に使われているものは、チャイコフスキーの原曲ではなくワシリー・ベゼキルスキーというヴァイオリニストがチャイコフスキーの死後に大幅に改変したものが一般的に演奏されていることが判明。そのソロ譜は、原曲からかなりの改訂がおこなわれているものなのですが、それにあわせて出版されたのはピアノ伴奏譜のみで、オーケストラ譜にはそれに対応したものは出版されていないということが判明しました。
その時のソリスト南紫音さんもベゼキルスキー編(ギンゴールド校訂-International版)を使用ということで、そのソロ譜を至急取り寄せ、ソロ譜とオケ譜お互いの楽譜を見比べながら寸法をチェックし、大小9箇所ほどのカットを施し、途中一箇所7小節間はまったく既存の楽譜で対応できないベゼキルスキー創作の箇所まであり、ソロ譜の音を参考に楽譜を新たに作ってはさみこむという、つぎはぎだらけの楽譜をこしらえてなんとか無事に演奏会は終わりました。過去にピアノ伴奏では度々演奏されていたそうですが、南さんもこの時がオーケストラ伴奏では初めてということで、原曲とソロ譜が違っていることに驚いていらして、それほどこのカットのほう版がヴァイオリニストの間ではメジャーな存在になっているようです。
この時の指揮の現田茂夫さんは、この曲がとにかく無事に終わってよかったと終演後わざわざ仰るくらい印象的な出来事でした。
次にこの曲をやった際ソリストでいらした三浦文彰さんに、この曲を他のオケでやったことありますかとお伺いしたところ、以前サンディエゴでの公演の際、リハーサルが始まってからソロ譜とオケ譜の相違が判明して、この曲があわや本番で演奏できないかも、という事態があったそうです。
指揮の佐藤俊太郎さんにもお伺いしたところ、国内のオケで以前やったとき、やはりリハーサルで楽譜がおかしいということになり、佐藤さんとその時のソリストで急遽楽譜を回収し、書き直してなんとか本番は演奏したという事態になったことがあったそうです。
こんな曲が存在しているなんて楽譜の世界は恐ろしいです。
追記:その後、Urtext版のソロ譜がHenleより出版されたりしてるので、将来的には短縮版のソロ譜に取って替わるかも?
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