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初めてラジオを聴いた夜

10月5日 25時29分 57秒‥58秒‥59秒‥

軽快な音楽と、これまた軽快なオープニングトークに包まれながら、この日この時をもって私はついにラジオデビューを果たした。

大げさな物言いなので勘違いされてしまいそうだが、もちろん聴く側である。

家族が全員寝静まった深夜に、寝たふりをしながらこっそりイヤホンを耳に忍ばせている。したがって、正確に言えば包まれているのは音楽でもオープニングトークでもなく、愛用の布団にだった。

これまでほとんどラジオに触れずに生きてきた私が今さらラジオを聴き出したのは、この度推しがTokyoFMでラジオデビューを果たしたからだ。もちろん彼らは話す側だが。

しかし、このことが公式発表された時にはなぜラジオ??と思ったものだ。推しの生業とする所から若干遠いように感じたし、私自身ラジオというものがあまりピンとこない。

これまで情報もエンタメも大概はテレビで事足りてきた。高度経済成長期に幼少時代を過ごした親世代ならいざ知らず、チャキチャキの平成っ子である私は好き好んでラジオを聴くという発想すら持ったことがない。

そもそも実家が田舎すぎてラジオの電波が届きにくいというのもあったかもしれないが。

ピンとはこなくとも、推しがこうと決めたのなら黙ってついていくのがオタクというものである。課金してメンバーシップに登録、募集されていたお便りもその日のうちに投稿し、推しの晴れ舞台に備えた。



タイトルコールが流れるやいなや、聞き慣れた声が脳に響く。

その瞬間、形容し難い感動が体中を駆け巡った。

ほんとにラジオで、地上波で、推しの声が流れているんだという実感がじわじわと湧いてくる。
いつもと変わらない調子で話す彼らの声を聴いていると、ラジオを聴く前に私が勝手に感じていた不安や焦燥、その他諸々がすっかり消えていった。

そしてこの時、私は初めて彼らのラジオデビューを心から喜ぶことができた気がした。

「リスナーからのお便りを紹介します」

その一言に心の臓がぎゅっとなる。
まさか自分のものが読まれることはないだろうと思いつつも、うっすら期待してしまうのがオタクというものである。

しかしながら現実は厳しいもので、私の1時間かけた渾身のお便りは当然かつ残念ながら読まれなかった。

それはそれでやはり寂しくはあるのだが、それよりも採用されたお便りを聴いて、なんだか感心してしまった。

ラジオのお便り紹介とはただパーソナリティがリスナーのお便りを読んで答えて終わり、というような形式的なものだと思っていたが、それだけではない交流のようなものがそこにはあった。

あるリスナーは番組前の過ごし方を聞いてみたり、またあるリスナーはラジオネームについて話を膨らませてみたり、私では思いつかないような切り口のお便りと、彼らのトークがシナジーを生み、聴いてるこちらもついつい楽しくなる。

なるほどこれがラジオの良さなのかと妙に納得してしまったのだった。

となりで寝ている子どもの大きないびきで我に返ると、ラジオを聴き始めてからそろそろ30分、まもなく番組が終わる時間だ。

BGMの心地よさか構成のテンポ感か推しのトーク力か、あるいはそのすべてのためか、深夜で半分まどろんでいる状況も相まって、あっという間の夢かと思うような30分間だった。

結果として、私の初めてのラジオ体験は当初の予想をはるかに越えて驚きと喜びに満ちた有意義なものとなった。

さて、一週間経って、今日は推しのラジオ番組第2回が放送される日である。

また布団にくるまって聴こうか、それともコーヒーを飲みながら聴こうか。

今日はどんな話が聞けるのか、始まりを楽しみにじっと待つ。

25時29分 57秒‥58秒‥59秒‥

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