財務諸表を読む ~取得原価主義~
こんにちは。SSKC会計グループの吉田です。
貸借対照表の借方部分には資産のみが記載されています。資産の金額によって企業の見え方は大きく変わってくることになります。
その資産がいくらであるのか考えるときに、会計上は主に二つの考え方があります。
一つが、取得原価主義です。
取得原価主義では、資産の価額は取得したときに支払った金銭の額だと考えます。
1,000円で買ったものは1,000円だと考えるわけです。
買った時の金額が将来変化するはずがないので、資産の価額は一生そのまま1,000円になります。
一方、時価主義という考え方があります。
これは資産の価額を時価で評価するという考え方で、端的に言えば「今売ったらいくらになるか」で資産を評価します。
1,000円で買った場合、買った瞬間は1,000円で売られていたものなので1,000円ですが、時が経つにつれて900円、800円・・・と減っていったりします。ものによっては高くなるかもしれませんね。
このように、時価主義では毎期毎期資産の金額が変わっていくことになるのです。
<日本の会計基準では取得原価主義を採用しています。>
つまり、一度買った資産の金額が変わることはありません。正確には変わることがあるんですが、その話はいったん置いておきましょう。
国際社会では時価主義の風潮がありますが、日本が取得原価主義を採用しているのはそれなりのメリットがあるからです。
①金額に客観性が担保される
1,000円払ったならそれは1,000円払ったということでしかなく、誰の目にもその事実が明らかです。
請求書などに支払った金額も記載されているでしょう。
そのため、取得原価主義を採用すると資産の金額に客観性を担保することができます。
逆に言えば時価主義だとどうしても「絶対にこの金額です!」と言い辛いところがあります。
②費用が投資額に基づいて測定される
二つ目は少し複雑な話になります。
先に資産ってなに、という話を軽くしておきましょう。
資産の購入というのは、企業にとっては投資です。なぜ投資をするかというと、その投資によって利益が得られるからです。
利益獲得のために費やされるものを、費用と呼びます。
つまり購入した資産というのはその大半が将来費用に転じるものなのです。こういった性質を持つ資産を特に『費用性資産』と呼んだりします。
減価償却という考え方を知っているとこのあたりの話が理解しやすいかもしれません。
ここまでの話を踏まえると、資産が費用になるのであれば、資産の価額は費用の金額と密接に関わってくることがわかります。
資産をいくらと考えるか、という話は費用をいくらと考えるか、という話であると言い換えられます。
ここで取得原価主義を採用、つまり購入時(投資時)に支払った金額を資産の価額にしておくと、費用は投資額から測定することができる、ということになります。
これが「費用が投資額に基づいて測定される」の意味です。
これのなにがメリットなのかというと、「利益が投下資本に対する回収余剰になる」ということです。
利益は収益-費用で計算されます。収益は投資によって得られたお金、費用は投資したお金としておくと、その差額は投資によって得られた余剰分を意味することになります。
1,000円投資した、1,500円収益が得られた。ならば差額500円は投資によって得られたお金ですよね。企業の配当の源泉はこの利益になるわけですから、500円は配当してもいいお金と考えられるのです。
事業を始めるときの元手が1,000円だった場合、500円配当すると1,000-1,000+1,500-500=1,000 となりますので、元に戻ったわけですね。
時価主義を採用していると、1,000円投資した、買った資産が200円値上がりしてた、売上は1,500円だった、というときに利益は700円になります。
この700円は配当していいのでしょうか?
さっきと同じように手元のお金を考えてみると1,000-1,000+1,500-700=800 となりますので、200円分減りました。当然ですね。資産を売ったわけではないので200円は現金になっていません。
ちなみに、このような資産の値上がりを含み益と呼びます。資産が値上がりしたからといって売ってしまうことはあまりないので、いつまでたっても実現しないこともあり得ます。
<もちろん取得原価主義のデメリットもあります>
含み益や含み損を認識しませんので、物価の変動が今後どの程度影響をもたらすことになるのか財務諸表から読み取ることができません。
収益は当然今の物価水準を反映しますが、費用のほうは昔のままの物価水準から測定している、となるとこの利益率は物価が上がってるから高くなってるんじゃないの~? なんてことになってしまいます。
長くなりましたが、取得原価主義と時価主義はどちらが絶対に正しい、というものでもありませんので今後も会計基準は世情を反映して変わっていくのではないかと思います。