被害者は救われるか 脅しで判決が変わったとは思いたくないが 西日本新聞社説で思う
日本語として文意が通っているのか。入試の国語の読解題材に出したい文章である。それが下の西日本新聞の社説。
書き出しは①「日本で最も凶悪な反社会的組織を、壊滅に追い込まなければならない。」
暴対法の趣旨を述べている。暴力団はそもそも存在悪なのだ。だから徹底的に追い込めと姿勢を示すが、中ごろでは、②「いかなる刑事裁判でも、精緻な有罪立証が不可欠であることを、捜査当局は改めて肝に銘じてほしい。」
いきなり罪を憎んで人を憎まず的に論調が変わる。
そして末尾では③「今回の判決を冷静に受け止め、官民一体となって地域の平和を取り戻したい。」
存在悪の団体の存続を認めつつ、どうやって地域の平和を守るのか。4件の事件はそれぞれ無辜の自民を理不尽に殺傷したもの。ウクライナのブチャ等でのロシアの犯罪については国際刑事裁判所が動き出している。下手人(実行兵士やその直接指揮官)は徐々に特定されているようだ。だが本当の殺人者はだれか。
上命下達の専制体制では、下っ端jには判断の余地はない。命令には絶対服従だ。そしてこの場合に、命令が常に署名入りの命令書で届くわけではない。往々にして、というかどちらかと言えば阿吽の呼吸。さらに言えば専制者の思いを察した上位の部下の気持ちをさらにその下僚が忖度して実行はなされる。こんなものを明確な証拠を示せと言われても無理筋。
1審で「裁判長、覚えておけよ」と言い放ったそうだが、やくざ映画の定番ではそれが下に下に伝わり、”純真な”鉄砲玉が実行行為に走る。これについて謀議の証拠を出せと言われても検察官は頭を抱えるだろう。「そんなの無理だから起訴するのをやめておこう」。そうなれば地域の平和の解決どころではない。
死刑判決が懲役刑に下がった。脅しの効果があったと思った人が少ないのではないか。
以下はドラマの中での役者のセリフだから真偽は知らないが、民主主義国のヨーロッパのある国でテロ事件が起きた。警察が突入して大成功。人質は全員無事だったが、犯人は全員死亡した。発表では犯人は投降の意思表示をしたが、警察には見えなかったようで抵抗の素振りと判断されて射殺された。これについて突入犯の指揮官がボソッと息子に語る。「生かして裁判になったら出身国に向けて好き勝手はことを言い、またその母国では新たなテロ犯を送り込んでくるだろう。この国では刑務所収容期間も短いから、すぐに赦免になって母国に英雄凱旋する。それを許しては国民の安全を守れない。もちろん射殺命令は自分の独自判断だ。そしてこれは俺が墓場に持って行く」
工藤会高裁判決 重い有罪維持、壊滅に進め
西日本新聞社説 2024.3.14
日本で最も凶悪な反社会的組織を、壊滅に追い込まなければならない。警察と地域住民が、その決意を新たにする再出発点と考えたい。
市民を襲撃した4事件で殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)トップで総裁の野村悟被告(77)に対する控訴審判決で、福岡高裁が一審福岡地裁の死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。
看護師刺傷事件など3事件を有罪とする一方、最も重い罪に問われた1998年の元漁協組合長射殺事件について無罪としたことで、死刑が回避された。
福岡県警や検察にとっては、野村被告の逮捕に踏み切った中核の事件で、有罪立証が否定されたダメージは小さくないだろう。
高裁は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則の下、高度な立証を求める刑事訴訟法を厳格に捉えたと言える。野村被告は射殺事件当時はトップではなく2次団体の組長だったとして、実行犯と共謀した直接証拠はなく、一審判決が組織的に意思決定したとするほどの推認力は乏しいと結論付けた。
もとより、直接証拠に乏しい一審の有罪判決が他の刑事事件に拡大解釈されれば、冤罪(えんざい)を生みかねないとも指摘されていた。
その一方で高裁は、発生時に野村被告がトップに就いていた他の3事件については、同被告の関与を推認した一審判決をほぼ支持した。
同じ4事件により一審で無期懲役を言い渡されたナンバー2の会長田上不美夫被告(67)の控訴も棄却した。つまり高裁は、上意下達が徹底された工藤会の強固な組織性を一審判決に続いて認定したのである。この意義は重い。
両被告を巡る共謀の推認について、間接証拠の積み重ねにより合理的と判断した。
一概に推認を否定しなかったことは、今後の暴力団捜査や組織犯罪対策に大きな意味を持つことになろう。暴力団事件は、上位者が刑事責任を免れるよう巧妙に計画されるからだ。
両被告の弁護人は上告した。暴力団という特異な組織を巡る立証責任を、最高裁がどう判断するか注視したい。
工藤会は暴力団排除活動に積極的な市民らを狙った襲撃や発砲事件を繰り返した。同会系組員が市内のクラブに手投げ弾を投げ込んだり、福岡県条例に基づき組員の入店を禁止する標章を掲示した店の従業員が切りつけられたりして、地域は恐怖に陥った。
それでも市民は県警の壊滅作戦に呼応した。同会本部事務所は取り壊され、事件数も格段に減った。しかしなお、構成員などは昨年末時点で240人に上るとみられる。
今回の判決を冷静に受け止め、官民一体となって地域の平和を取り戻したい。
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