見出し画像

592台湾の投票制度

民主主義を支える投票制度。しかるにその投票権を行使しない者がなんと多いことか。国際的な研究機関である民主主義・選挙支援国際研究所が、世界各国の議会選挙の投票率をランキングしている。
https://www.fnn.jp/articles/-/258812
 
わが国の投票率は53.68%で世界ランキング139位。世界の国・地域の数は200を超えないはず。下位ランクということになる。そもそもせっかくの参政権を半分しか行使していない。民主主義国ですと胸を張れるのか。
日本国憲法は代表制民主主義こそが人類普遍の原理であると大見えを切っている。代議制民主主義に反する憲法を認めないと憲法自身が規定しているのだ。
なにかとわが国を比較対象にする韓国は66.21%で97位。「日本は民主主義国ではない」と新たな非難理由になりそうだ。元統治下にあった地域よりも低投票率になったのはなぜだろう。前世紀末に「有権者は投票に行かずに寝ていてくれた方がよい」と言った総理大臣がいたが、その言葉どおりになっている。
もう一つかつて統治下にあった台湾の投票率は74.86%とわが国より20ポイント高く、順位は58位だ。その秘訣は何か。手取り足取りの投票優遇促進対策を講じているのだろうか。
『台湾を知るための72章第2版』中に見つけた文章を引用する(91頁)。「有権者は、戸籍を登録した地区で投票する。日本で言えば戸籍と住民登録が一本化されたものと考えればよい。台北暮らしが長くても戸籍は故郷の台南にある、といった人は少なくない。不在者投票や期日前投票の制度がなく、投票日前には帰郷する人々の大移動が起きる。…投票日は土曜日と決まっているため、零細自営業者はホワイトカラー層のようには休めないので問題だ、という議論がある。大学生が試験前で投票に帰りにくい、といったことも起きうる。/在外投票の制度もなく、熱心な人々は投票のために台湾に戻ってくる。最大勢力は中国で事業を展開する「台商」と呼ばれる起業家だ。中台関係を後押ししたい中国共産党政権は…台湾への航空券代を補助することがあり、選挙への介入として民進党の反発を買ってきた」。
 
わが国では投票しなかった者が「投票しても変わらないから」とか「投票日がいつか知らなかった」などと棄権を正当化し、「政府は公民が投票に行きやすくするための手を打つべきです」とコメンテーターが迎合意見を述べるのが定番になっている。投票所までタクシーで送迎すべきだとの説を述べる者もいる。そうした至れり尽くせりが投票率を下げる。
 
台湾の投票者はスケジュールを調整し、旅費を工面して本籍地に戻って投票するのである。日本のように現在地で投票できるようにし、不在者投票や期日前投票の制度を導入すれば投票率は逆に下がると考えているに違いない。与えられすぎるとありがたみがなくなるからである。
 
投票率を上げたい、民主主義の実を上げたいのであれば方法は簡単。投票は時間をかけ、費用を支払って行うものだとの意識を持たせればよい。手間も暇もかけてこそ、投票行動が本気になる。
台湾のように本籍地でのみ投票できるようにするのは行き過ぎとしても、投票手数料の徴収であれば実行は可能だろう。例えば一律千円の印紙を購入するなどだ。印紙収益を投票所運営経費に回すことにすれば、民主主義がタダではないことを有権者は意識することになる。議員の歳費もこれで賄うことにできれば理想的だ。
投票率が下がれば、投票料を上げざるを得なくなり、投票率が極度に落ち込めば選挙自体を実施できなくなる。そうなると議員がいなくなるから議会は休止、民主主義は自動的に停止する。議員だった人も全員資格を失う。そうして民主政治が機能しなくなればどういうことになるか。民主主義税政治とは何かを国民が真剣に考えるようになれば、投票率はたちどころに回復する。「関心がない」「議会がなくても何も変わらない」などと言ってはいられなくなる道理である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?