葵の隠密(第三話シナリオ原稿)
【葵の隠密】第三話シナリオ原稿
⑴第三話シナリオタイトル
決断!
⑵注意事項・略称記号一覧
◎ Ⓣ=テロップ
◎ Ⓝ=ナレーション
◎ Ⓜ=モノローグ
◎ Ⓡ=読みかた
⑶登場人物一覧表(順不同)
◎ 中根正寿丸(後の中根正盛)=本作主人公。徳川家臣(徳川秀忠小姓組)/十一歳(数え年、以下略)。
◎ 本多正信=徳川重臣(相模国玉縄一万石大名)/六十一歳。
◎ 柳生又右衛門宗矩=徳川家臣(徳川家剣術指南役)/二十八歳
⑷原稿第三話本編
◇アバンタイトル(夜/曇り)
雲霧が夜空の満月を遮る形で、漆黒の闇に覆われる伏見城天守閣並びに同本丸御殿。
Ⓝ「安土桃山時代から江戸時代初期に関する一次史料『義演准后日記』は、史料価値が大変高い歴史的文献として今も尚有名である」
木製ベッドの上で病に苦しんで青息吐息の太閤・豊臣秀吉と、それを見守る側近達等。
Ⓝ「その西暦一五九八年(慶長三年)六月十三日付の同日記には、『秀吉不例』とあり、秀吉危篤の噂話は世間周知であったようだ」
伏見城の天守閣に留まっていたカラスの群れが、漆黒の夜空へと不気味に突如羽ばたく。
Ⓝ「かくして、一度は天下一統の名の下で戦国乱世が終焉したかに見えた世は、再び天下騒乱へと水面下で錯綜していたのであった」
◇見開き(夜/曇り)
和室にて、幾つかの蝋燭が灯る中、互いに向かい合う形で密談する中根正寿丸と本多正信のイメージ背景図に各自タイトルを挿入。
第三話題名よりタイトルを基本大きくする。
Ⓣ「葵の隠密(タイトル)」
Ⓣ「第三話:決断!」
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十四日/山城国・伏見徳川大名屋敷・本多正信執務室(夜/曇り)
自らの執務室にて業務中の正信。
襖を隔てた廊下より正寿丸を連れた柳生宗矩が、正信に入室許可のお伺いをする。
柳生宗矩「本多様、使い走りの中根正寿丸が先程当屋敷へ戻り、只今ここにおります」
柳生宗矩「私共々御報告の為にお部屋に入ってよろしゅうございますか?」
宗矩からの報告を聞いた正信は、簡潔にこう指示した。
本多正信「いや、入るのは正寿丸だけだ。宗矩は下がってよい。御苦労であった」
正信からの指示を受けた宗矩は、隣にいた正寿丸の肩を軽く叩いて元気づけた上でその場から離れた。
柳生宗矩「ははっ!畏まりました。では正寿丸、後は頼んだぞ!」
宗矩からの励ましを受けて一度深呼吸した正寿丸が、正信に入室許可を再度お伺いした上で、緊張した面持ちで部屋へ入ってくる。
中根正寿丸「本多様、改めまして中根正寿丸、御報告の為にお部屋へ上がらせて頂きます。御免!」
襖を開けて入室してくる正寿丸を、ニコニコしながら優しい目で見てからかう正信。
本多正信「まあそう堅苦しくなるな。宗矩からの報告によれば問題なく、先方の藤堂大名屋敷からは大層歓迎されたそうじゃないか」
本多正信「それでも何かあるならば、この場にて遠慮なく申してみよ」
下座に正座していた正寿丸は、正信からの問いかけに意を決した上でこう述べた。
中根正寿丸「実は帰り道に、鷹の目が如き鋭い眼光をした島様と呼ばれる年配の侍様と鉢合わせとなり、些か肝が震えました」
正寿丸の先述の話を聞いた正信は、目を細めて首をかしげる形で前者に問い質した。
本多正信「ほう、詳しくは分からないが、一つ間違えば切り捨て御免という訳だな」
本多正信「正寿丸よ。それは命拾いをしたな。その島何某という侍に感謝することだ。以後気を付けるように」
正信の質問並びに忠告を聞いた正寿丸は、軽く平伏した上で顔を挙げた後こう述べた。
中根正寿丸「先方は、当家の葵の紋所を一見して何やら思うところがある模様でした」
中根正寿丸「ですが、島様が、私が子供だということで見逃して下さり、間一髪で救われた次第であります」
正寿丸の話を聞いていた正信は、突如扇子を閉じた上で、厳しい顔つきでこう質問した。
本多正信「なに、当家の家紋を見て顔色を変えただと。それにまさかとは思うが、当の島様はもしやあの島左近ではないだろうな?」
正信の豹変した態度を見て、只事ではないと思った正寿丸は、恐る恐る前者に質問した。
中根正寿丸「本多様、何か疑わしき不審な点でも今の話でございましたでしょうか?」
熟慮した様子の正信は、持っていた扇子を正寿丸の顔に向けた上でこう私見を説明した。
本多正信「正寿丸よ。お主も太閤・秀吉の寵臣である近江佐和山十九万四千石大名・石田治部少輔三成の懐刀の島左近の名は知っているだろう?」
正信の詰問に喉をゴクリとした上で言葉を慎重に選びながら緊張して応答する正寿丸。
中根正寿丸「はい。島左近殿と云えば、『治部少(三成)に過ぎたるものが二つあり 島の左近と佐和山の城』で有名ですから存じ上げております」
正寿丸もまた、正信の私見に先述の回答をした瞬間、顔色を驚愕してこう反応した。
中根正寿丸「まさかあの島様が、かの有名な島左近殿とは思いもしませんでした!」
上座にいた正信が、席を立った上で下座の正寿丸に近づいてその首元に扇子を突きつける形でこう述べた。
本多正信「正寿丸よ。そのまさかの島左近本人である可能性は大だろう」
本多正信「よかったな。一歩間違えれば其の方は捕まり、秘密裏にその首が切られていたかもしれん」
正寿丸の首元から手にした扇子を離した上で、左手でその肩を軽く叩いて忠告する正信。
本多正信「これで判ったのであろう小僧。其の方が今やっているのは子供の遊びではない、命を賭けた正真正銘の戦と同じよ!」
正信は苦渋の顔つきになってさらに正寿丸にこう諭した。
本多正信「儂も人の事を云えぬ身だが、未だ童のお主が無理にその幼き体を危険に晒す必要はない。其方もその分別は判る筈だ!」
この時点で室内に複数設置された蝋燭台の一つで火が自然と消えるのをクローズアップ。
本多正信「政と業は表裏一体のコインのようなものだ。その魔力が持つ底知れぬ恐ろしさの一端を其方も此度身に染みただろう」
正信は両手を正寿丸の右手と握手して力を込めた上でこう警告した。
本多正信「これが本当に最後の機会だ。決断しろ。どんなことになろうとも、儂も含めて誰も其方を責める者なぞおらん!」
正信の真剣な説得に対して感動した正寿丸ではあったが、一度目を閉じて再度深呼吸した上で己の覚悟を正信相手に説明し始めた。
中根正寿丸「本多様、戦場にて敵前逃亡は大罪でございます。故にこの中根正寿丸、漢として武士として今ここで降りるつもりは毛頭ございません」
正寿丸の覚悟を決めた目つきを見て感心した正信は前者の言い分を黙って聞いた。
中根正寿丸「本多様に改めて此の場を借りて己の覚悟を表明させて頂きます」
正信の態度を注意深く見た正寿丸は、自らの右手を握りしめていた正信の両手をその両手で再度握りしめて説明を続けてこう述べた。
中根正寿丸「お国の為に御奉公できるのは、果報の極みでございますれば、このお役目命尽きるまでやらして下さるのを切にお願い申し上げます」
己の覚悟を述べた正寿丸は、自らの両手を本多正信から離した上で、再度下座で平伏する形で正信の反応を待った。
正寿丸の宣言に感動した正信は、高笑して手にした扇子を叩く形でこう賞賛した。
本多正信「天晴れ、見事なり。流石は平岩殿の自慢の孫だ。正寿丸、其の齢でこの立ち振る舞い。やはり儂の目に狂いはなかった」
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十四日/山城国・伏見徳川大名屋敷・本多正信執務室前の庭先(夜/曇り)
本多正信執務室前の庭先に出て夜空を見ながら色々な立ち話をする正寿丸と正信。
中根正寿丸「本多様につかぬ事をお尋ねしますが、藤堂大名屋敷への書状の中身は御存じなのですか?」
本多正信「やはりお主は封を切らなかったようだの!流石は儂が見込んだだけはある」
本多正信「よろしい。ならば先程の件も含めてお主を見込んで、教えて進ぜよう」
本多正信が夜空を仰いでこう述べた。
本多正信「なに、あの書状はいわゆる多数派工作の一環じゃよ。来るべき事後を見据えての、それ次第で世の命運を左右する!」
本多正信の問いかけに疑問を投げる正寿丸。
中根正寿丸「多数派工作の意味は判りかねますが、来るべき事後とはもしや太閤殿下亡き後の政局ですか?」
正寿丸の私見に的を射たとばかり高笑いする正信。その背景図に雲霧で隠れる満月描写。
本多正信「其の方は、童なれども器量については人並み以上に度胸も見識もあるのう」
本多正信「では、我が徳川の悲願・天下泰平への大政略をこれより述べるとしよう!」
Ⓣ「第三話:END」
あらすじ兼第一話URL葵の隠密(あらすじ兼第一話シナリオ原稿)|ssk2106 (note.com)
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