サービス業のホスピタリティについて考えてみた。ホスピタリティの作り込みと行動 雑記#4
7月初旬に春日部で一泊しました。都市型のビジネスホテルに宿泊し、近くの和食ファミレスを利用しました。ホテルと飲食店、業態は異なりますがどちらもサービス業です。この2箇所で対照的な経験をしました。少し悩みましたが、利用した施設の実名を使ってホスピタリティについて考えてみます。(この記事のバナー写真は日本ホスピタリティ推進協会のHPより引用しました。)
スーパーホテル埼玉・春日部駅前
色々なビジネスホテルに宿泊したことがありますが、スーパーホテルは今回初めて利用しました。スーパーホテルはリーズナブルな価格で宿泊できるホテルチェーンで、全国に171店舗を展開しています。チェックイン可能な時間よりも早く到着したため、フロントに行くためのエレベーターが利用できないようにされていました。ただし、駐車場利用者のための「駐車場案内」がプリントされて、持って行けるようになっていました。
駐車場に車を停めて、所要を済ませて、夕刻にチェックインに向かいました。フロントでは、「笑顔」で迎えられ、「スーパーホテル」の利用経験を聞かれます。「初めての利用」と答えると、アメニティやパジャマ、枕の利用について丁寧に説明されます。部屋に備えられている枕の高さや堅さがあわないときのために別の枕が用意されていました。いずれもフロント近くに置いてあり、必要なものを自分で持って行くスタイルです。温泉のある施設でしたので、温泉の説明も受けました。
今回宿泊した部屋は、ダブルベッドの上にシングルベットがあるという「二段ベッド」仕様でした。ダブルベッドを使用して二人で宿泊する前提の部屋ですが、上のシングルベッドを使用する際は、自分でシーツなどを掛けるようになっています。アメニティなどと同様にリーズナブルな宿泊費を実現するためのシステムでしょう。
歯ブラシは部屋に置いてありましたが、使用せずにフロントへ持って行くと「お菓子」が貰えると書いてありました。歯ブラシは持参していましたから、翌朝、アメニティの歯ブラシをフロントへ持って行きました。チェックイン精算でチェックアウト手続きがいらない仕組みですから、フロントは無人です。それでも声を掛けると直ぐに、すぐに朗らかに対応してもらえました。気持ちよくチェックアウトしました。
藍屋・春日部店
春日部市は特に名物料理がある地域ではありませんので、宿泊した日の夕食はファミレスで簡単に済ませようと考えました。スーパーホテル埼玉・春日部駅前から徒歩15分程度のところに藍屋・春日部店がありましたので、そこに向かいました。藍屋は「ガスト」や「バーミアン」など27ブランドのレストランチェーンを展開している「スカイラーク」グループのブランドの一つで、関東から九州北部にかけて38店舗を展開している和食チェーン店です。同グループの和食チェーン店の夢庵よりも少し高単価になりますが、リーズナブルな和食ファミレスです。
席に着くと、水を提供されて、オーダーが決まったらテーブルにある「ボタン」を押すように告げられました。少し考えて、ボタンを押しました。特に何の応対もなく、しばらく待ちましたが誰も来ません。もう一度押しました。ちょうど隣のテーブルにオーダーを取りに来た男性のフロア担当の方から、仏頂面(私にはそのように見えました。少なくとも笑顔ではありませんでした。)で「順番に聴きに来ますのでお待ちください」と告げられました。あまり気分の良い応対ではありませんでした。
オーダーしたものはそれほど待たされることなく提供されました。フロア担当が少なくなってしまう特別な事情でもあったのだろうと思って、オーダーの時のことは忘れて、食事を楽しみました。提供された料理はコスパの良い、美味しいものでした。
のんびりするタイプの店でもありませんから、食事を済ませて会計に行きました。会計もボタンを押して店員を呼ぶスタイルでした。1度押して、何の音沙汰もなく、誰も来ません。少し待って、もう一度押しました。厨房の方にフロアに来ることができる店員の姿は見えていますが、再び何の音沙汰もなく、誰も来ません。少し待って、もう一度ボタンを押しました。ようやく、会計をしてもらえました。結局、提供された食事の味は忘れて、オーダー時のことを思い出して、少し気分を落として店を出ました。
ホスピタリティの作り込み
ホスピタリティ hospitality は、親切な[手厚い]もてなし、接待、歓待、厚遇、もてなしの心という意味(英辞郎on the Web)の英単語です。友人を家に呼んでもてなす場合であれば、その友人にあわせた「おもてなし」をすることがホスピタリティです。しかし、サービス業という営利企業の活動におけるホスピタリティは、顧客一人一人に個別にあわせた「おもてなし」ということではありません。想定する顧客(マーケティング用語では顧客セグメント)に応じた「おもてなし」がサービス業のホスピタリティです。
リーズナブルで心地よい眠り・癒やしを提供するスーパーホテルは、宿泊客が支払う宿泊代に合わせて「おもてなし」の仕組み(システム)が作り上げられています。宿泊客の気分を害することなく、コストのかかる要因を省く工夫がされています。サービス・システムへホスピタリティが作り込まれているのです。
藍屋の接客システムも同じように、想定する客の飲食代に見合った「おもてなし」の仕組みがあります。「ボタン」を押すことでフロア担当が無駄なく接客できるようにして、フロア担当者を減らして(コストダウンして)、「おもてなし」しようとする仕組みです。リーズナブルな飲食店での定番とも言えるシステムで、藍屋に限らず、様々な飲食店で同様のシステムが使われています。やはり、藍屋でもサービス・システムにホスピタリティが作り込まれています。
ホスピタリティの心
サービス業のサービスは有料です。コストがかかります。友人をもてなすようなギフト(贈答)のホスピタリティでは営利のサービス業は成立しません。だからこそ、顧客に気分良くサービスを消費してもらうためのホスピタリティの作り込みが重要になります。スーパーホテルは「リーズナブルで気分の良い宿泊」、藍屋は「リーズナブルで気分の良い食事」というホスピタリティを自分たちのサービス・システムに作り込んでいます。それでも、私の経験では、スーパーホテルにホスピタリティを感じ、藍屋にはホスピタリティを感じませんでした。
違いはサービス・システムを動かしている人の、ほんのちょっとした行動の違いにあると思います。賢明な読者には既におわかりのことと思います。一つ目は、「笑顔」です(よく指摘されます)。サービスの提供にはコストがかかりますが、「笑顔」にコストはかかりません。私が藍屋・春日部店で食事をしたときは、突発的にフロア担当者が少なくなり、フロア担当者もてんてこ舞いだったのでしょう。それでも、笑顔か「申し訳ないという表情」かがあれば客はそれほど気分を害さないのではないのでしょうか。
もう一つは「声出し」です。オーダーの時も会計の時も、誰かが一言「少々お待ちください」と言っておけば、客は待ちやすいのです。ボタンを押しても何の反応もなければ、客は不安になります。藍屋の会計の際にはフロアに来ることができる店員が見えていました。しかし、その店員は私たちを一顧だにしませんでした。その店員は、来ることができなかったとしても、「少々お待ちください」という声出しはできたと思います。こうした「声出し」にもコストはかかりません。
ホスピタリティの両輪
サービス業のホスピタリティの基本はサービス・システムへの「おもてなし」の作り込みだと思います。特に、リーズナブルな価格設定をする業態では、コストダウンのために従業員数を少なくするような形で「おもてなし」を作り込みます。何らかの事情で担当者を確保できなくなったとき、作り込まれたホスピタリティは機能不全に陥ります。リーズナブルな価格設定でなくとも、ホスピタリティがどのように作り込まれていようとも、そうした機能不全を防ぐのは従業員の行動に表れる「おもてなし」の心です。サービス業のホスピタリティには、サービス・システムへの作り込みと従業員の「おもてなし」の心を両輪が必要なのです。どちらが欠けてもホスピタリティは動かないのです。春日部での一泊の経験でこんなことを考えました。