「これはジョジョとディオのラブなのか」ジョジョファンがジョジョミュを見に行ったよ
※ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』のネタバレを含みます。
一部公演中止で悪い意味で話題になったミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』(ジョジョミュ)を見てきました。
僕は原作マンガのファンで、妻に連れられてしぶしぶ行ったのが正直なところです。「どうせズームパンチは再現されないんだろう」とか「メメタァはどう表現するんだ」とばかり思っていたのですが、いざ観てみればすごい原作再現。
ただ、さすが舞台だけあって女性比率も高く(ほかの演目より男性は多かったようですが)、観劇層に合わせて内容も調整されていました。
「原作再現がすごくてジョジョに対する愛=理解があるとはわかる一方、そこはかとなくジョジョっぽくないところもある」という不思議な気持ちになったので、感想を書き留めておきます。
◆再現されていたところ
ミュージカルなので原作再現は限度があると思っていたのですが、想像以上にきっちり再現されていました。印象的なところをピックアップするとこんな感じ。
・「族長!」
・ディオの馬車から飛び降りる場面
・「何をするんだァーッ!」
・「そこにシビれる! あこがれるゥ!」
・「君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ!」
・「酒! 飲まずにはいられないッ!」
・逆さに歩くディオ
・ズームパンチ
・パウッ
・メメタァ
・「北風が勇者バイキングを作った」
・馬から出てくる例のあれ
・空裂眼刺驚
など、とにかく原作をきっちり再現しようという意図が感じられました。びっくりしたのがズームパンチやスピードワゴンの帽子攻撃まで再現していたところで、よくやるよな~と感心するほどです。
また、後に展開された「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズを通しての再解釈が行われており、全般的に「ジョジョっぽいワード」がたくさん盛り込まれています。これはちょっとやりすぎな気がしますが、まあ制作陣に熱心なファンがいるアピールにはなっていると思います。
◆再現できなかったところ
一方で、うまく再現できなかったところもあります。原作マンガは非常に長いのではしょられている部分も多かったです。(が、おおむねカットの判断はうまかったと思います。)
・浮遊感のあるダニー
・「ロボだこれーー!!!」なダニー
・あーん!スト様(の出番)が死んだ!
・ねーちゃん! あしたっていまさッ!(ワード自体はアリ)
舞台なので動物は致し方ないでしょう。スト様ファンは「先生のカバッ!!」と言ってもいいかもしれません。もちろん「かかったなアホが!」もないです。
前述のように原作再現は盛り込みまくりで、印象的なセリフはほとんど用意されています。同時にファン向けな表現もかなり多く、原作未読ではわかりにくいシーンが非常に多いです。
スピードワゴンがツェペリさんの腕を溶かす場面や、チェーン首輪デスマッチにおけるツェペリさんに関する演出、そして空裂眼刺驚あたりもかなりわかりづらい。ミュージカルとして見に来た人は何がなんだかと思うことでしょう。
◆ジョジョとミュージカルの相性
さて、多くの人が気になっているのは「ジョジョをミュージカルにするってどういうこと?」という部分だと思います。
ミュージカルといえば急に歌い出すとよく言われますが、本作においてはジョジョの奇妙なところがむしろミュージカルに吸収されているのです。
原作マンガには印象的なセリフが多々ありますが、その多くは「なんでこんな言い回しするの?」と思うものばかりです。しかし、それがミュージカルに取り込まれると“思ったよりふつう”になります。これは意外でした。
「ふるえるぞハート 燃えつきるほどヒート」なんてセリフはいかにも昔の少年マンガっぽいものの、歌に合わせるとそこまで奇妙ではない。セリフとしては妙でも、歌詞としてはふつうだと解釈できるのかもしれませんし、舞台だから大げさな表現もそこまでおかしくないのだと考えられます。
とはいえさすがに無茶なところはあって、
「俺は♪(溜め)人間を♪(長~い溜め)やめるぞ~↑♪」
の部分は笑いをこらえるので必死でした。
◆ジョジョミュの解釈違いなところ
最初に書いたように、舞台演劇は女性ファンが多いらしく、ジョジョミュも観劇層に向けた変更点があります。
エリナのソロ曲も用意されていましたが、これは申し訳ないですがいらなかったと感じました。男性に対する思いを歌う女性というのはミュージカルでは王道なのかもしれませんが、原作はバトル主体の少年マンガなのであまりにも合いません。
エリナ役の清水美依紗さんは歌がうまいだけに、これはかなりもったいない。とはいえ、主役級の人に歌わせないわけにもいかなかったのでしょうが。
また、原作よりもディオがかわいそうに描かれています。原作ではゲロ以下のにおいがプンプンするうえ策に溺れる間抜けな悪役という印象ですが、「生い立ちが不幸なのでこうなっちゃうのも仕方ないよね」的に描かれています。
とにかくダリオ・ブランドーがしつこくて「ディオディオディオディオ♪」と何度も出てきて、ディオは父に囚われた悲しい人物のように描写されるのです。これはおそらく、観劇する側がディオに同情できるよう描いているのでしょう。
舞台演劇はキャスト目当てに観る人も多く、そう考えると悪役にも一理あるように描くのはおかしくありません。カーテンコールではジョジョとディオがとてもイチャイチャしており、狙いを定めている印象を受けました。
スピードワゴンがラップを披露するのも謎でした。本作は産業革命時のイギリスが舞台であることをやたらとアピールするのですが(これも日本のミュージカルっぽい)、ラップはその時代背景に合ってないのでは。
一応、ジョジョ二部の時代からスピードワゴンが過去(一部)を振り返るという設定なのですが、それでも無理があるでしょう。あと、急にねぷたが出てくるのも謎でした(あれなに?)。
◆石仮面の力を目の当たりにしたかのよう
「結局のところジョジョミュはおもしろかったのか?」と聞かれると、「よくわかりません」と答えざるを得ません。
原作再現がすごくてジョジョに対する理解があるのは確かなのですが、日本のミュージカルを基調に作られているところも多々あり、かといってジョジョとミュージカルの相性が意外とよくて、一方で無理があるところはふつうに無理がある。
館が燃えるまでの一幕は退屈せず楽しめましたが、バトル中心の二幕はアクションの派手さが足りないうえに尺もなく厳しい印象です。でもミュージカルでここまで再現できててすごい……でもディオあんなんではないよなあ……と考えがまとまりません。
なので、スピードワゴンがディオに銃を撃ったときのセリフで〆ようと思います。
「おれにはわからねえ… ……今…なにが起こっているのかさっぱりわからねえ」