フォースプレートによる床反力計測#1 〜フォースプレートの概要〜
フォースプレートとは?
フォースプレート上の人(または動物など)に作用する力,すなわち床反力(ground reaction force)を計測する目的のセンサである.フォースプレートの大きさも様々だが,400 x 600,600 x 900 mmなどのサイズが一般的である.
そのフォースプレート(force platform,またはforce plate)によって物体の重さを測定することもできるが,人が動いて動的に変化する床反力を高いサンプリングレート(1kHz程度)で計測し,床反力の重心点(COPと呼ばれる),フォースプレートに作用するモーメント,フリーモーメントと呼ばれるねじり摩擦力などを計測することができる.
床からの反力を計測することで,どのような戦略で動こうとしているのか,バランスをとるメカニズムを知る目的などで,必要となる計測機器である.また身体能力を計測する目的でも使用される.たとえば,歩行やランニング中の身体が床を蹴る力,ジャンプ力,ゴルフなどのスイング運動中,投球時の床反力などの計測を通じてパフォーマンスや能力を調べる目的などでも使用される.また,これとは対象的に静的なバランス能力を計測する目的で,床反力の重心点の変動などの計測に利用されることも多い.
モーションセンサやモーションキャプチャが,動きそのものを計測するのに対して,フォースプレートはその運動の原因となる外力を計測する計測機器である.したがって,床反力を計測しその物理的意味を理解し解析することで,運動のメカニズムや能力を直接的に理解しやすい特徴がある.
運動が激しくなるにつれて大きな力が身体とフォースプレート間に作用するため,フォースプレートにはある程度の重さ,硬さ,高さが必要である.ランニングの計測では,フォースプレート高さがじゃまになるので,床に埋め込んで設置されることもある.
計測できる物理量
前節で簡単にフォースプレートで計測できる内容を説明したが,もう少しだけ詳しくそれらについて説明する.以下の4つの物理量については,別の章でさらに詳しく説明する予定である.
1.床反力(ground reaction force)
フォースプレートはその名の通り,直接的には床反力を計測する.床反力(地面反力などとも呼ばれる)は身体等がフォースプレートに作用する力を意味し,通常4つまたは3つの力覚センサで力を計測し,総和の力を出力する.複数のセンサを使用することで,以下に述べる物理量を2次的に計算する.通常,鉛直方向と水平方向の3次元(3軸)の力覚センサを使用するが,下記のCOPの計算を目的として鉛直軸方向の力しか計測しないものもあるので注意をされたい.
2.力のモーメント(moment of force)
フォースプレートに作用する力は通常分布して作用する.このためフォースプレートには力のモーメントが発生する.力のモーメントはフォースプレート全体を回転させようとする力である.3個以上の3軸力覚センサを使用することでこのモーメントを計算できる.
3.圧力中心(COP:center of pressure)
フォースプレートに力が分布して作用するため,総和の力(床反力)が作用する代表点を圧力中心と呼ぶ.圧力中心は力分布の重心点で,フォースプレートに作用する力がつくる力のモーメントが釣り合う点として計算される.モーメントを計算する原点がフォースプレート表面上に置けば,水平力(摩擦力)は計算に必要ない.鉛直方向の力だけでCOPを計算できる.バランス運動をしているときにはCOPの挙動を観察することで,間接的に重心のゆらぎを計測することができるため,特に医学やリハの分野では,COP計測の目的としたフォースプレートを重心動揺計と呼ぶことがある.しかし,厳密にはこれは誤った名称である.COPは身体重心のゆらぎを間接的に反映するが,COPは重心位置ではない.
4.摩擦モーメント(frictional moment, vertical moment)
この力のモーメントは摩擦力(水平力)全体がつくる,COPを原点とする,ひねり・ねじりに相当する力のモーメントベクトルである.このベクトルはフォースプレートの面に対して鉛直軸回りに回そうとするトルクである.
このモーメントは一般的にフリーモーメント(free moment)と呼ばれる.しかし,この力のモーメントは,明らかにCOPの位置に依存して変化する束縛ベクトルであって,自由ベクトルではないため誤用と思われる.
1と2の力と力のモーメントがあれば力学計算に必要な情報としては十分である.COPとフリーモーメントは,力のモーメントを置き換えた物理量である.
フォースプレートでわかること
ここでは具体的に歩行運動,バランス運動,ゴルフスイングの例を取り上げ,どのように利用されているか例を上げることで,フォースプレートで何を調べることができるか,具体的に示していく.
1.歩行計測,バランス立位
歩行運動でフォースプレートに立つ際に,フォースプレートには複数の力が分布して作用することを述べた.フォースプレートはそれを複数の力覚センサで計測し,総和の床反力を出力するが,その総和の力が作用する代表点がCOPに相当する.
これにより,床をどの位置でどの方向に蹴っているか,床反力ベクトルで示すことができる.
では,COPのベクトルからのびる床反力は一体何を示しているのだろうか?これを考えるために,図2を次のような逆さにした箒の倒立振子(図3)
の制御に置き換えて考える.歩行やバランス立位のような運動では,身体重心に質量が集中する倒立振子とみなすことができる.これは回転のモーメントが少ない場合にこの近似が成り立つ.
このような近似を考えた時,COPは箒を制御する位置に相当し,COPはおおよそ箒の重心方向を指し示す.つまり,「床反力の大きさ」と,「COP-重心を結ぶ直線」の角度が,運動を決めている.
速く走る際には,当然,COPから伸びる床反力ベクトルの傾き角度は,より鋭角になる.大きく傾いた箒を素早く立て直すには,COP位置を大きくずらして重心の下に戻す必要がある.
このことからも,COPは決して重心位置を示しているのではなく,重心方向を指し示すベクトルの始点となっている.
2.ゴルフスイング
二つのフォースプレートを利用することで,左右の床反力を別々に計測し,左右差,また二つの力をどのように巧みに使って運動を行っているか知ることができる.特に二つの力は大きなモーメント(回転力)を生み出し,それが運動の原動力になる.
ゴルフスイングの場合,クラブを加速させるために,床反力は身体を通じて最終的にゴルフクラブの右手と左手に伝達され,この手に作用する左右の力が,ゴルフクラブを回転させる力のモーメントとなる.このため,バランス運動などと比べて,左右の床反力は向きが対称的となり,この左右差によって身体全体の運動を制御することになり,この床反力の左右差がクラブを握る左右の手がつくるモーメント(回転力)に変換される.全身とゴルフクラブの系を考えると,力学的には見かけ上,床反力がゴルフスイングの外力となる.
なお,クラブが最も加速されるタイミングは,ちょうど図示したタイミングで,このときの床反力が最大化しする.したがって,これ以後は,特に男子プロではクラブは自然に回転するモードに変化し,クラブの自然なスイングに任せてしまい,クラブを加速させるような悪あがきは行なわない.これは,このあといくら力を加えても,クラブを加速するようなエネルギー伝達ができないためである.このことについては,別のマガジン記事「身体における運動パターン形成」で詳細に説明する予定である.
3.ジャンプ(跳躍)運動
上肢に左右差があるように,下肢の左右差も意外と大きい.ある競技を続けることで,さらに能力差が大きくなることもあるが,左右差が大きいことは運動の多様性を欠くことにもつながる.身体能力を知る上で左右別々の計測は重要である.
動画は小さくて恐縮だが,これはデュアルフォースプレートで計測した,スクワットジャンプ時の後方から見た床反力ベクトルである.左(赤)右(青),合成(黄色)の床反力ベクトルを示している.
左右の床反力はそれぞれ内側を向いているが,左右の違いが,合成の床反力にも表れている.
なお,ここで述べた1〜4の力学については,
で,詳細に述べる.
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