#2 創作ギルド《SSQuest》
ところで、「創作ギルド《SSQuest》の拠点がどこに存在しているのか」を知る者はいない。どこからやっていたのか、賢者を名乗る風変わりな老爺がギルドを訪れた時もあったが、訊けば「ただ流れ着いた」と、賢者は語った。
過去にギルドの者が記したらしき書物を確認しても、ギルド自体には、ほとんど触れていなかった。ギルドに辿り着き、ギルドに加入した者も皆一様に「気が付いたらここにいた」と宣うのだから、一層奇妙である。
知りたがりのギルド長・リコリスも「知らない」と首を振る。ギルドを創設したはずのリコリスがギルドの所在を知らないとは、ますます、不気味に感じる。けれども、ギルド内は個性豊かな少女たちが和気藹々と(いや、そんな賑やかなものではないけれど)過ごし、一見、穏やかな雰囲気に包まれている。
リコリスが知らないのであれば、きっと、ギルドの所在を知る者は、この世には存在しないだろう。考えていても、仕方のないことだ。
「世の中には知り得ないものも存在する。その事実を目の当たりにするなんて、貴重な経験だわ」
と、いつだったか、リコリスは嬉しげに微笑んでいた。
ああ、これはある種の変態だな。心の奥でひっそりと考えたことは、まだ記憶に新しい。
さて、そんな所在すら不明のギルドが果たしている役目は『世界を識り、記し、伝える』──。意味はそのまま。世に存在する様々な世界の様々な《物語》を見聞し、書に記し、人々に伝える。
世界は無数に存在している。さらに、その世界に刻まれた《物語》──あるいは《記憶》や《歴史》とも表現できる──ともなれば、数える行為すら烏滸がましい。
そんな気が遠くなるほどの数が存在する《物語》を、ギルドの面々が調査しに行き、結果を書物に記し、人々が閲覧できるようにしているわけだ。まったく、終わりの見えない活動である。
ギルド長・リコリスの願い──と表現するほど可愛らしいものではないが──から生まれた、創作ギルド《SSQuest》の活動内容は、簡単に言えば、以上だ。
加えて述べるとすれば、ギルドのメンバーくらいだろうか。先に述べたギルド長のリコリスを始め、ギルドには個性豊かなメンバーが揃っている。各人については、また改めて記すとして、各々が担う役割の説明をしよう。
まず、ギルドの『目』がいる。ギルドの『目』は、《物語》を見聞きする者を指す。メンバーはリコリス、エレノア、レイラ、ティナ、ティノ、オフィーリアの六名。全員、ギルドに所属する前の記憶がない。
ただ、身体は、記憶をなくす前に何をしていたかを朧気ながら覚えているらしい。各々の行動には、おそらく、記憶を失う前の趣味や趣向が反映されている。記憶がないからといって、不安がっている様子も見られなかった。
次に、ギルドの『声』だ。ギルドの『声』は、ギルド外に『目』が見聞きした《物語》を伝える役目を担っている。
『声』の手段は何通りかある。基本的には、『目』が見て、聞いて、感じたものを言葉に変換する。ただ、『声』が変換した言葉をギルド外部へ届ける際に、媒介するものが何になるかは、その時々によって異なる。
「小説」になるか、「音楽」になるか――大体はこの二通りだが、どんな形を取るかは、ギルドのメンバーの誰もがコントロールできない領域だ。《物語》がどんな形を望むか……に係っていると睨んでいるが、理由は知る由もなかった。
だから、『声』の手段は何通りかあるといっても、『声』が手段を選んでいるのではなく、《物語》が求める手段を『声』が提供しているに過ぎない。
……さて、この点を深堀していくと、読んでいる者の頭が混乱してしまう。今、理解すべき内容は「ギルドには『目』と『声』がいる」の一点だけで良い。『目』が《物語》を観測する方法も、いずれ、書記官の記録によってわかるだろう。
それでは、本日の記録はここまで。
書を執筆する時に書記官の言葉遣いが変わる様は、ぜひ気にしないでいただきたい。
書記官 椿雪花
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