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「愛のろくでなし」

午後6時
少し暗くなった空とやけに低い雲
久しぶりに会った君は随分と髪が伸びていて、一段と綺麗になったその横につい見とれていた
僕の知らない君がそこにいるようで
だけど笑うと細くなる目はちっとも変わっていなくてなんだか少し安心した

僕たちはあいていた時間を埋めるかのように話した
最近観た映画がどうだったとか、新種の植物が見つかったらしいとか、仕事の愚痴とか
なんてことのない話で何時間だって一緒にいられたあの頃を懐かしむように

「今夜は月が綺麗ね」

急に真面目な顔をして遠くのを空を見上げた君がポツリとそんなことを言う
それに意味があったのかなかったのか 僕にはわからないけど
「いやちょっと欠けてるよ」
なんて気の利いた台詞ひとつ言えない僕に君はちょっと不機嫌そうに笑っていたっけな

午後9時
少し冷えた体と降り出した雨
どちらからともなく触れた唇
君はずるい人
君にとっては大した意味なんて持たないんだろう?
思えばいつだってそうだったんだ

朝が来て夜明けとともに君は去っていく
朝が君を連れて行く
二度と僕の手の届かないところへ消えていく
もう彼女と僕が会うことはないだろう
そんなことはわかっている
君が見据える先に僕はいない
行く手を阻む僕はもういない

愛って何だろう
僕にはまだわからない
今更、あの時君への思いを素直に言えていれば僕はまだ君の隣にいたかな なんて考えてたってもう遅いのに涙が溢れる情けない僕だ

この世界は綺麗事だけじゃ生きられない
永遠や約束なんてものは脆い
愛が何かなんて一生わからないのかもしれない
それでも僕が君に抱いたこの気持ちは紛れもなく恋だった
君が僕にくれたのはもう二度とない僥倖だ

消えてしまいたいと願う僕に
私は君に生きていて欲しいよなんていうのが君のズルさで
此の期に及んでもどうにかして君の記憶に残りたいと思ってしまうのが僕のズルさだ

「元気でね」
口づけ 君が笑う
朝の街に消えていくその後ろ姿を僕はただ見ていた

リップサービス
僕の愛を簡単に浪費する君はろくでなし
それを選んだ僕も この世界も
結局 愛のろくでなし

だけどいつか君の曲が街角で流れる日まで僕はもう少し生きてみることにするよ
だからどうか君も元気でね
さよなら いってらっしゃい 明るい方へ


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