白に突っ込む

簡単に言えば、クラスメイトがスキー教室でイキった挙句他班のインストラクターに突っ込んだ話である。

中学1年生のとき、スキー教室があった。市の経営する自然の家のような場所に行き、その近くのスキー場でスキーを行う、2泊3日の合宿だ。

私はその当時、スキー未経験だった。
ウィンタースポーツのなかで経験があったのはスケートのみ。幼い頃から毎年祖父母や従姉妹とともにスケートに行っていた。

しかし今回はスキー。スケートだったら良かったのになぁ……と何度思ったことか。

スキー教室の班決めのためのプリントが配られた。
詳しい内容は覚えていないが、スキーの経験具合についての質問があった。そりゃそう。

未経験、経験はあるがほとんど滑れない(過去に1度経験がある)、経験がありまあまあ滑れる(数年に1度経験している)、経験がありとても滑れる(毎年スキーに行っている)といった具合だ。
私はもちろん未経験に丸をつけた。

プリントが回収され、しばらくしてから班わけが発表された。私は絶望した。

並ぶ10人ほどの名前。ほとんどが苦手な人間もしくは嫌いな人間だった。
私は中学1年生のとき、小学校とのギャップや同小のクラスメイトがあまり多くなかったことなどが原因で友達がかなり少なかった。し、嫌いな人間も多かった。

そんなクラスで班内に仲の良い人がいることを期待する方が難しかったと今ならわかるが、このときの私はちゃんと絶望した。

もう既にスキー教室になんて行きたくなかった。どうにか行き帰りのバスと宿泊施設での部屋割りだけは、クラスにいた唯一仲の良い女の子と一緒になれたが、大部分の時間を共に過ごす班のメンバーが終わっている。

ここからしばらく私は「あぁスキー教室行きたくないな……」という気持ちを引きずりながら過ごした。
実は私は、体育祭も行きたくないと駄々を捏ねて遅刻寸前まで家にいたし、合唱祭も行くのめんどうだといってサボろうか迷っていた。母親に怒られたためどちらの行事もしっかり参加したが。
今度のスキー教室こそ、本当に休みたいと思っていた。


もちろん休めなかった。あっという間にスキー教室当日になった。

キャリーバッグが禁止だったので2泊3日分の荷物を詰めたくそ重いボストンバッグを持って中学校に集合する。
クラスメイトの大半は楽しみだねえと言い合っていた。その気持ちを少し分けてくれよ。

私の憂鬱な気持ちはスキー場について、ウェアを着て、板を持って班ごとに分かれてからも続いた。なんなら、以前言ったようにスキー教室のときの私は身長135cmにも満たない小柄さ。板を運ぶのすら重いし疲れるしでイラついていた。

インストラクターと自己紹介し合ってじゃあ実際に歩いてみようだの滑ってみようだのと行程を踏んでいたときも私は憂鬱だった。寒いしマスクの中は結露でべちゃべちゃだし雪の白さで目が焼けて痛いし。
しかも同じ班には話せる人もいないし。

リフトで隣になった子はクラスで最も嫌いな女子だった。声はでかいしなぜか音楽のとき隣の席になった私に「なんで楽譜読めるの?! そんなの吹部だからじゃんずるい!」とよくわからん理由でキレてきたし。

リフトに乗っている最中本当に一言も会話はなかった。もしあったとしても私は多分頷きぐらいしかしてない。記憶がないので。

初日と2日目は、全員未経験のメンバーを集めた班だったので、のんびり初心者コースを滑り降りていた。インストラクターの人が先導して、それに10人並んで続いていく感じ。

話が変わったのは3日目、最終日。インストラクターが私たちを連れて行ったのはなぜか中級斜面。初日と2日目の私たちがまぁまぁ滑れたからだろうか。
中級者コースの斜面は、昨日までのんびり滑っていた初心者コースと全然違った。高いし、初心者コースより幅が狭めだし、なんかこう、すごくまっすぐだし。

怖いなぁと思った。けど、ここで怖いからと言って滑るのをやめたら置いていかれて迷子になるだけだ。
私はインストラクターから数えて3番目とか、とりあえず前の方で滑り出した。

そのときだった。

本来は縦に並んで順番に滑っていくはずなのに、なぜか私の視界の右側に、同じ班の男子がいた。
転ばないように、前の人に置いて行かれないように、と慎重に滑っていた私の頭が「?」で埋め尽くされた。
なぜ視界の端にこいつがいる? 私の視界に入るのは前にいる同じ班の子と、その他の一般客だけのはずなのに。

どうやらその男子は1度コケていたらしい。
私たちは初心者集団だったので、インストラクターもかなりスピードを抑えてくれていた。コケたって、普通に立ち上がれば最後尾に間に合うはず(何せ10人もいるので)。

けどそいつは"初心者が中級斜面を滑っている"ということにアテられたのか、なぜかスピードを出して先頭に追いつこうとした。もう意味がわからない。
意味がわからないが、そいつはそれを実行し、スキー歴3日目でそのスピードは思い切りがよすぎるだろ、という速度で滑ってきた。
そいつが追いつく頃にはもう1番下の方まで着いていて、私たちは減速して開けた場所に集合しようとしていた。

そう、集合しようとしていたのである。ということは、そこには他にも集合している同校の生徒やインストラクターがいたのである。

そいつは突っ込んだ。普通に突っ込んだ。
他班のインストラクターに突っ込んでいった。まじかよ、と思った。
相手はインストラクターとはいえ、猛スピードで特段小柄でもない男が突っ込んできたのでよろけていた。突っ込まれたインストラクターの班員たちはみんなギョッとした顔をしていた。そりゃそうだ。私だったらこんなのずっとネタにする。

最終日は学校へ帰る時間上滑る時間は大して長くない。私のスキー教室は、そいつがインストラクターに突っ込んだところで終わりとなった。
班員は最後、みな無言だった。

もうスキーなんて行かねえ〜と決心した。帰り道、せっかく仲良い子とバスが隣だったのに、疲れて寝てたら学校に着いてしまった。本当にこの2泊3日、なんだったのだろうか。

スキー教室にはもう1個嫌な思い出があるのだが、それはまたの機会に。

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