【試読】lntroduction At Tokyo
「チョクリツエンジンです」
宙を差してそう言われ、何のことだかまったくわからなかった。
「まっすぐ立つ猿人。直立猿人。いま流れている曲の邦題です」
きいたこともない国に籍を置くその男は、今まで出会ってきたどんなルーツの人間とも雰囲気が違った。芝居がかっているように見えるが「トーキョーにはなんだか親しみを感じます」と人好きのする笑みを浮かべている。
和モダンとでも言うべきか、黒を基調にした少々お上品な居酒屋を接待の場に選んだ。その店内でいま流れているのが直立猿人らしい。