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5000万円を捨てた決死のピボット

はじめに

初めまして、株式会社Srush代表取締役の樋口です。

当社は2019年11月に創業し、現在はデータ分析SaaS「Sales Rush Board」を提供しています。有難い事に当社は今年で3年目を迎え、成長フェーズに突入し、昨年の今頃と比較すると2000%超えの成長率を達成しています。そして2022年7月4日に資金調達リリースを出させて頂きました。
(この記事自体は調達リリース前日の3日に書いているので明日が来るのが待ち遠しく、同時に緊張感がすごい。)

まだ何も成し遂げていませんし、偉そうに語れることなんて何もありませんが、Srushの旅を一緒にしてくれる未来の仲間に向けて、noteをしたためました。今いるメンバーはこれを乗り越えた方々です。もう怖いものなんてなにもありません。タイトルの「5000万円を捨てた決死のピボット」にある通り、この意思決定がなかったら、恐らくSrushは会社として存続していませんでした。

シードで調達した資金を全て注ぎ込んで作ったプロダクトをわずが数ヶ月で捨てたのです。

当社が今リリースしているプロダクトはセールスエンゲージメントツール「Srush」ではありません。データ分析SaaS「Sales Rush Board」です。2020年12月にセールスエンゲージメントツール「Srush」のβ版をリリース後の2021年2月、前回のnoteで「同じ失敗はしない」と書いた同月にピボットしているんです。とんでもないブーメランです。(情けない恥ずかしい穴があったらめり込みたい)本noteではピボット前後における当社の変遷を振り返りつつ、なぜ5000万円をかけて作ったプロダクトを捨てたのか、その後どうなったのかをご紹介出来ればと思います。


ざっくり時系列

  • 2019年11月:創業

  • 2020年5月:シードラウンド(5千万円)

  • 2020年12月:セールスエンゲージメントツールリリース

  • 2021年2月:ピボット(5千万円を捨てる決断)

  • 2021年6月:ファーストユーザー様ご契約

  • 2021年10月:資金調達出失敗!

  • 2021年12月:ANOBAKAのイベントでグロース賞3位入賞

  • 2022年2月:HIRACFUND、ニッセイキャピタルからの出資

  • 2022年7月:プレシリーズA調達リリース(←イマココ)

サマリー

ピボットor資金ショート
ピボットを決めた3つの理由
Sales Rush Board Ver0.1
逆転のプレシリーズA
10兆円の無駄を価値に変える

ピボットor資金ショート

創業してから丸1年かけてセールスエンゲージメントツール「Srush」のβ版を作りました。1回目の起業の際にはスピード重視でプロダクトのβ版を作ってローンチしたところ、創業者及び開発陣の消耗があまりにも激しい・中途半端なプロダクトを市場に出すのもユーザーヒアリングを行うのも効果に大した差がないという事が分かったので、PLG型であったということもあり完成度を高くするためユーザーヒアリングに時間を割くことを優先しました。営業職の方100名にユーザーヒアリングをしてニーズの存在やプロダクトの方向性を確認し、仕様も都度ヒアリングして策定していきました。
それにより生まれた「Srush」はカレンダーや日程調整をベースとした営業特化の業務効率化ツールで、メール送信、Zoom自動発行、顧客先までのルートの自動検索や、アジェンダの提案等の機能を搭載し、アジェンダの内容をスピーディに社内に共有する事も出来ました。また営業の顧客対応における課題といえば「担当顧客との関係性にばらつきがあって正解がない」というのがあるため、顧客との関係を数値化し、信頼関係構築のサポートも出来る機能も付与していました。便利でライトなプロダクトを目指して日々アップデートを重ねていたんです。勿論ここでもヒアリングを重ねながら、時間をかけて、UIUXにこだわって作っていきました。

でも全くと言って良いほど、本当に全然使ってもらえませんでした。

全く伸びないトラクション

サービスをローンチしたら時間とともに伸びていくものという幻想に溺れていたのかもしれません。
ローンチ後の全く伸びない状態が1か月続き、酷い焦燥感を感じる日々で、どうにかしなきゃと焦る反面、どこかで止めなければとも考えていました。
なぜなら、アクティブ率をあげるために必要な機能のロードマップに対して、お金がありませんでした。当時の計画では、2020年12月にリリースして、リリース後のトラクションで資金調達を考えていたこともあり、2021年6月には資金ショートが見えていました。

残された期間は6ヶ月。このままでは死ぬ (Srushが)

本当に毎晩このように思ってました。
なによりSrushを続けられなくなることが破壊的に嫌でした。

ピボットを決めた3つの理由

当時、「Srush」が伸びなかった理由を自分なりに以下と分析しました。

  • プロダクト完成度の低さ

  • PLGに合わない営業スタイル

  • やりたいことをやってない

プロダクト完成度の低さ

海外のセールスエンゲージメントツールを参考にしながら「Srush」は開発を進めていました。海外のツールは完成度も高く、優先順位がつけるのが難しいくらいに実装したい機能が多くありました。しかし、日本とは調達環境も異なるので、まずはミニマムに機能実装し、ユーザーを集め、営業が使いやすいよう実装していく計画でした。
その入り口が「日程調整」だったのですが、ご登録頂いたユーザ様に対して営業してもログイン後使ってもらえていないケースが殆どでした。それは営業が使っている他サービスとのインテグレーションの少なさや、単純なバグなどが主な原因でした。インテグレーションを充実させることはもちろん計画にあったのですが、まずは日程調整ツールとして使ってもらうという計画でした。が、当時様々な日程調整ツールが本当にたくさん生まれたタイミングだったのもあり、ユーザーにとってSrushは継続して使ってもらうツールの選択肢には残りませんでした。

PLGに合わない営業スタイル

PLGでのリリースのため、営業することは殆ど想定しておらず、数字を見ながらグロースハックをしていく予定でした。しかしながら、待てど暮らせど数字は伸びないため、ご登録頂いたユーザ様に対して、アポイントを取り、活用支援を行いました。日々アポを取り使ってもらう地道な戦略に切り替えましたが、ここで決定的に辛かったポイントは自分がバックグラウンドとしてあるB向けソリューション営業ではなく、C向けプロダクト営業のようになっていたことです。

いくら力説しようとも営業対効果が「1対1」
顧客の課題を解決しきれないプロダクト

私が得意だったのはB向けソリューション営業でした。B向けソリューション営業は自分対企業になるので、受注すれば顧客となる会社の不特定多数の社員にサービスを使ってもらえます。これが本当に自分の得意領域でした。その上で、プロダクト自体が営業担当者になるPLGではどうすれば顧客にアクションを促す営業が出来るかも分からなかったし、個人単位の意思決定なのでプロダクトの完成度としても当然高いものが求められる。でも開発も追い付かず、故に、自分の最大の武器である法人営業を最大限活用出来なかった事が、ピボットの大きな要因となりました。ここは私の辛抱が足りなかったのもありますが、辛抱出来ませんでした。

やりたいことをやってない

今考えても悪かった要因を全て特定するのは難しいですが、上記2つの状況を踏まえて、やりたいことをやるというのが最後には後押ししたポイントでした。元々、共同創業者の山崎さんに一番最初にした議論は「経営者の意思決定を分析から正しくする」でした。MBAにいたころ、テーマとして扱った時期もあり、山崎さんとの初対面でいきなりぶつけたテーマでもありました。それにガシガシ乗ってきて上回ってくる山崎さんと話をして起業の選択をしたこともあり、これはもう分析ど真ん中で勝負するしかないと腹を括りました。元々セールスエンゲージメントツールも最終到達地点は営業を分析することでした。であれば、もう遠回りしている時間もないし、やるしかないといった決め方でした。

ヒアリングを重ねに重ねて時間を使って、こだわって作っていたプロダクトでしたが、要望に沿う機能の開発が間に合わない、私が営業できない、お金もない、今のプロダクトはもう伸ばせないと思わざるを得ない状況でした。

2020年12月にリリースして2か月が経つ2022年2月にセールスエンゲージメントツール「Srush」を捨てる決断をしました。

シード調達で得た資金を投じて1年かけて作ってきたものを、1週間で捨てる意思決定は本当に辛かった。もはや当時の記憶はないです。

当時の株主定例は本当に憂鬱でしたが、このピボットをすんなり受け入れてくれた、既存株主の株式会社ANOBAKA長野さん、East Ventures金子さん、STRIVE四方さん、有難う御座いました。
この3名がいてくれた事が本当に心強かったです。今でもたまに思い出すのは「本当にやばくなったら追加出資するよう動くよ」的な事を言って頂いて、本当に心強かったです。

Sales Rush Board Ver0.1

「Srush」の最終地点は分析を意識していたこともあり、それを見据えた機能は実装していました。それは、「Srush」のアクティブ率や他サービスをインテグレーションしたデータから営業担当者と顧客の関係性をスコアリングし「エンゲージメントスコア」として出していました。
それもあり、エンゲージメントスコアが受注にどの程度影響があるのかを企業内部に入り込み、データをかき集めて、アウトプットとして出すことを取り組む一歩目と決めました。

Sales Rush BoardVer0.1

社内で上記のようなレポートを作り、「コンサルとして入り込むPoCをやろう」という話になり、CTOの山崎さんが最初に作ったレポートがSales Rush Board Ver0.1です。彼の余りある技術スタックあってこそ作れたんだと思います。私はこれを見たとき「売れる!絶対売れる!すごい!これで行こう!」と皆に伝えたのですが、私以外は全員半信半疑だった気がします。正直な事言うと、自分自身も一縷の望みをかけて、皆を鼓舞していたような気もします。



とは言え、やるしかないという状況もあり、メンバー全員が一丸となって、企業内部に入り込みそれらの分析レポートを出し、受注率を向上させる事でエンゲージメントスコアと売上の相関性を実証するという試みに取り組みました。
具体的には、SFAやCRMからデータを取り出し、パイプラインや活動状況など多角的な要素から徹底的に営業と顧客の関係値を分析し、レポート上で様々なグラフを用いて可視化しました。そして、それぞれのエンゲージメントスコアとともに顧客それぞれの受注予定金額を1つのグラフにまとめて視覚情報として提示し、アタックする顧客の優先順位を付けたのです。こうした提案資料やレポートを作り、エンゲージメントスコアを伸ばす事の重要性などを伝えていくと、この話のウケがすごく良かったんです

営業開始数週間でPoCにお付き合い頂ける2社が決まりました。今でもご愛顧頂いております、複業クラウドを展開する株式会社Another works様決裁者マッチングプラットフォームを運営する株式会社オンリーストーリー様です。本当に頭上がりませんし足向けて寝れませんし、命の恩人と言っても言い過ぎでないと思います。この場を借りて改めて御礼申し上げますmm

2021年2月から5月までの3ヶ月間、コンセプトベースでしかなかったPoCにたくさんのフィードバックを頂き、プロダクトが形となりました。結果的にエンゲージメントスコアはプロダクトからは消え、あらゆるデータを簡単に繋ぎ、もっと思い通りの分析が出来るプロダクトになりました。分析SaaS「Sales Rush Board」は間違いなくここで生まれました。

さらに2021年6月に現カスタマーマネージャーの戸張さんが入社し、営業力及びCS力が飛躍的に向上しました。戸張さんがそこから数ヶ月で契約企業様を毎月純増させ、0円だった売上がとんでもない伸び方をしました。結果としてピボット後たった3か月で収益化まで実行に移す事が出来たのでした。ちなみに、今に至るまで解約企業様はゼロです。分析SaaSとして顧客内部で使われるインフラになっていて、本当に有難い限りです。

逆転のプレシリーズA

ピボットを乗り越え、事業が良い方向へ向かうと思ったのも束の間でした。この良い流れに乗じて2021年6月頃、プレシリーズAラウンドの資金調達に乗り出しましたが、出資の意思決定をしてくれるVCは現れませんでした。

ピボット数ヶ月でMRRは既に数百万円程あり、エンタープライズへの導入も進んでいる中で、資金調達が難航したのはかなり予想外でした。
というのも、まだまだプロダクトが一人歩きして企業内部に入り込むような完成度は無く、営業やCSを通じた人が多く介在するプロダクトは、SaaS絶頂の当時は投資家から出資に値する評価はありませんでした。去年の夏くらいのマーケットではSaaSが大流行していて、PLG/SLG問わず、原則カスタマイズ不要なプロダクトで完結されるSaaSを投資家は評価していました。しかし「人の介在」は当社のサービスが「プロダクトっぽくない」と見なされる大きな要素の一つとなってしまいました。かつ、よく言われたのが、「可視化だけ?」です。そのため、海外競合がひしめく分析SaaSマーケットにおいてSales Rush Boardは超後発、加えて人が頑張って提供している、という感じに映っていたのだろうと思います。
当時は今ほど課題の深堀が出来ておらず、可視化にこれほどの価値があることをSrushも理解出来ておらず、投資家にも「データの連携・加工・成形と一瞬で可視化が出来ます!」という事ばかりを訴えていた気がします。今も言っている事はさほどかわりませんが、SaaSっぽさに寄せて可視化が一瞬で出来る事ばかり推していて、解像度の高いユースケースを想起させる事が出来ず、信頼を勝ち取る事が出来ませんでした。50人以上の投資家の方にかけあったものの、結果的に全て断られてしまいました。これはショックでした。

加えて、追い打ちをかけるように、メンバーの離脱が発生しました。理由は
様々ですが、大切な仲間を失いました。どのメンバーもすごく優秀で一緒にSrushを作り上げてきた仲間だったからこそメンバーの卒業は寂しいものでした。

一方で、ピボットを経て売上が堅調に推移し、メンバーの離脱も発生した2021年10月時点には損益分岐点に達しており、資金ショートの悩みからは一旦解放されていました。
この時、山崎さん、西さん、戸張さん自分を含めた4人で合宿を行い、「引き続き皆で頑張っていこう!半年ぐらい頑張れば、更なるトラクションを出せる!その時に資金調達だ!」と方向性を定め、足並みを揃え動き出すことになりました。2021年は大きなイベントが続き疲弊気味でしたが、落ち込んでる暇もないので資金調達先が見つからないなら、その時間を営業活動にあてる方がいいよねとなり、すっぱり諦めました。

この決意の1ヶ月後に出資が決まりました。

オンリーストーリー様を通じてスマートキャンプ阿部さんにSales Rush Boardをご紹介する機会があり、その面談後、HIRACFUNDの古橋さんからアプローチがありました。阿部さんと古橋さんがSrushの話をして、古橋さんがぜひ話を聞きたいと仰って下さり、面談が決まり、30分くらいの面談で出資をほぼ決めてくれました。古橋さんの事は同い年の天才起業家というイメージで一方的に知っていました。とは言え、出資は受けないと社内合意をしていたこともあり、相当悩んだのですが、その後、わざわざ古橋さんがコロナ禍の中、会いに来てくださり、実際に会って話したことで、この天才起業家について行こうと決めました。「とりあえず投資委員会やろう、お金はあって困らないよ、通ってから悩んでもいいんじゃない?」的なご意見が本当に刺さりました。(実際は殆ど刃牙の話だった気もしますがwww)

結果的に古橋さんとの出会いはSrushにとって大きなターニングポイントとなりました。今回出資して下さったニッセイキャピタル伊東さんを紹介してくれたり、金融機関を繋いでくれたり、古橋さんと出会った事がきっかけで、今回の調達リリースの発表に至る事が出来ました。

10兆円の無駄を価値に変える

こうして辛かった2021年は年末に素晴らしい転機を迎え、明けていきました。年末のANOBAKAの投資先を集めたイベントではグロース賞3位に選んでいただけるほどに!メンバー全員で出席させて頂きましたが、これは本当に嬉しかったです。2次会でANOBAKA長野さんがさらっと「Srushはすごいよ」って言って下さり、改めて自信になりました。

グロース賞3位入賞

そして、プレシリーズAの資金調達を受けて以降、売上や顧客数は堅調に推移し、信頼できるメンバーも増えてきました。

昨日の発表に至るまで、記憶が無くなるくらい大変な事や辛い事が沢山ありましたが、顧客、Srushメンバー、株主にも恵まれ、進んでいけることが本当に幸せです。特に共同創業者の山崎さん、PdM西さん、CM戸張さんには感謝の気持ちが一杯で、これからもSrushを引っ張ってくれると信じてます。自分を含めた4名はこの辛さは知ってるから、本当に強いと思います。引き続きスタートアップの波を楽しんで、一緒に乗り越えていければ嬉しいです。本当に、Srushで働けている事が幸せです。

最後にSrushが目指す世界について、未来の仲間に向けて紹介させてください。
Srushは創業以来セールステックとして歩んで参りましたが、ピボットを経て、目指すのは、データ分析という超巨大なマーケットです。 リモートワークやDXの急激な普及、さらに次世代インターネットWeb3への移行によるデータの分散化により企業が扱うデータ量は爆発的に増えている一方で、現場で使われているのはエクセルです。
ITが急激に進歩する一方で、30年変わらないエクセルに膨大な時間をかけざるを得ない状況は日本にとって大きな損失に他ならず、デスクワーカー3000万人の作業時間は、金額に換算すると年間約10兆円もの経済損失を生み出しています。

TAMSAMSOM

そこでSrushは「データ分析をもっと簡単に思い通りにする」をミッションに、エクセル・スプレッドシートのデータ集計グラフ化作業から解放するデータ分析SaaS『Sales Rush Board』を提供しています。
データ収集や分析にかかるエクセル業務をデスクワーカーから解放することで、10兆円もの経済損失を新たな価値を生み出す源泉に変える企業を目指しています。「データ分析と言えばSrush」となれるよう、精進して参ります。

この先も沢山の辛い事や困難が待ち受けているでしょうし、現在進行形で課題が山積みですが、優秀なメンバー達と乗り越えていきます。もちろんまだ見ぬメンバーも大募集中です。当社で一緒に力を発揮してくれる方、仲間になってくださる方がいらっしゃれば是非一度お話いたしましょう!

株式会社Srushは新しい仲間を大歓迎いたします。旅を共にしましょう。
ご応募はコチラから。

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