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【小説】ラヴァーズロック2世 #31「失声症の女」
あらすじ
憑依型アルバイト〈マイグ〉で問題を起こしてしまった少年ロック。
かれは、キンゼイ博士が校長を務めるスクールに転入することになるのだが、その条件として自立システムの常時解放を要求される。
転入初日、ロックは謎の美少女からエージェントになってほしいと依頼されるのだが……。
注意事項
※R-15「残酷描写有り」「暴力描写有り」「性描写有り」
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※連載中盤以降より有料とさせていただきますので、ご了承ください。
失声症の女
ブルーバードが訪ねたとき、カントクは井戸を囲う自然石に足をかけて髭を剃っている最中だった。
シェービングクリームの量が多すぎるので、まるでオフシーズンのサンタクロースのようにも見える。
かれは昔人気だったシリーズ映画〈シンギング・カウボーイ〉の元監督で、今ではこの荒れ地に引きこもり、メスティーソの女中数人を雇いながらフルーツの栽培をしている。
かれはブルーバードにとって、なくてはならない唯一の隣人であり、分別のあるたったひとりの相談相手だった。
「ようBB、休日でもないのに珍しいじゃないか」
髭剃りの手を休めないカントクは、手押しポンプのハンドルに立てかけた鏡から目を離さずにいった。
ブルーバードはカントクの横顔をただジッと見る。
「また、得体の知れない食い物でも届いたのか?」
「違う、女だ。女をおいていった……生身の女だ」
カントクは剃刀を止め、ブルーバードの顔をまじまじと見つめた。そして無言のまま視線を鏡に戻し、また剃り始める。
「本当だ! 嘘じゃねえ! 本当に生きた人間の女をおいていったんだ……」
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