【小説】ラヴァーズロック2世 #40「ビス」
ビス
かれの心にはいつも寂しさが群生していた。
ジェーンの姿が見えないときは勿論のこと、彼女が一瞬目を逸らしただけでもブルーバードの心は何ともいえない切なさでいっぱいになるのだった。
ベッドで抱き合っていても、その欠落感を埋めることはできず、ついつい彼女を乱暴に扱ってしまうときもあった。
「つらいんだ…………なあ、どこでもいいからお前のカラダの一部にしてくれ……」
ブルーバードは、ジェーンの薄い胸に顔を埋めて子供のように泣いた。
毎晩のようにかれはジェーンを荒々しく求め、その疲労の力をかりる他は眠りに落ちることができなくなっていた。
ブルーバードが将来自身の人生を振り返ったとき、幸福な時期と不幸な時期を分けることなど、きっとできないだろう。
かれの幸、不幸は、2頭の野生馬が競り合いながら荒野を走り続けているようなもので、多少なりとも抜きつ抜かれつはするものの、明確に分けることなどできないものなのだ。
ワイルドフラワーが咲き乱れた短い春も終わり、また灼熱の夏がやってくるころになると、2頭のマスタングのペースもさすがに落ち、鼻息も穏やかになっていった。
毎日繰り返される日常のあれこれが、その単調さゆえにふたりの感情に区切りを入れ、細かく仕切られたウッドボックスにきちんと収納してくれたのだ。
朝の匂いも変わり始め、汗の粒が皮膚の上に居座る時間も短くなってくると、今度はビスの様子がおかしくなってきた。
かれは盲導犬のように、ジェーンのそばからほとんど離れなくなってしまったのだ。
終始つきまとうものだから、ジェーンはよくビスの足やしっぽを踏んでしまう。
愛犬の悲鳴のような鳴き声のおかげで、ジェーンが今どこにいるのか、手に取るようにわかってしまうほどだった。
とにかく、自分がジェーンを守るんだという使命感なのか、ガラガラヘビやサソリは勿論のこと、以前は無関心だった遠くを這うサラマンダーにまでしきりに吠え立てる始末。ブルーバード以外は、フォクシーでさえ、ジェーンには容易に近づけない状態になってしまった。
そんなうんざりするような日々がしばらく続いたある日、ブルーバードはジェーンの変化に気がついた。
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