感想「花束みたいな恋をした」
カップルで見るなだのサブカルオタク殺しだの言われていますが、彼女もそうなりそうな人間も居ないのであんまり恋愛と縁がなさそうなオタクたちと見ました。
結構面白かったです。前半と後半で雰囲気が違いすぎてなかなか新鮮でした。
よかったところ
私の中で「『これは私の物語である』と観客に思わせる作品は名作」という定義があります。この作品はまさにそれでした。
というかそれが行き過ぎて(監督も意識してるのでしょうか?)つねに画面の中からこちらを指さして「これはお前の物語だぞ」と言われている感覚になりました。
序盤からあらゆるジャンルのサブカルの話で通じ合ったり、日常に潜む無意味に価値を見いだして共有して、その価値観を尊びあったり、と、マジでこういう恋愛出来たら当事者としてはめちゃくちゃ楽しいだろうなと思いました。ここまで理想的な恋愛ってあるもんなんですかね?
これは多大な偏見なのですが、サブカル好きってある種こういう出会いを夢想している節ありませんか?私はあります。
みんなが好きなわけではない、好きな音楽の好きなポイントや好きな小説の好きな一説を共有できることってかなり幸せだと思います。
まあ、当事者では無いので上映中は「俺こいつら嫌いだな」と腕組みながら観ていました。マナーが悪いですね。
中盤あたりから麦が仕事を始め、余裕がなくなって行くのが良かったです。忙しさのあまりパズドラしかできない、という発言が最高に我々を突き刺してきます。身に覚えのある方、多いんじゃないですか?
かくいう私も一時期Vtuber以外のコンテンツを摂取できない病に襲われていました。いわゆる脳死状態ですね。
後半は一貫してどこまでもリアリストの麦とどこまでもロマンチシストの絹(こういう安易な男女の対比って昨今叩かれるって本当ですか?)の構図を描いていました。
「別れる半年前のカップル」という感じでかなりリアルでした。
恐らくどのカップルもこの理想と現実の衝突をやってるし、私にも覚えがあります。
男性からすれば理想と現実は折り合いをつけどこかでどちらかを妥協するもののように思えますが、女性からすればその二つは両立可能で難題は超克可能であると思えるのではないでしょうか。この辺りは私もよくわかりません。
結局彼らはよりを戻すことなく別れるのですが、思い出をパッキングして綺麗に別れている辺りが「カップルで見るな」ってことなんだろうな、と思います。美しく別れられるなら別れてもいいのでは?というかなり鋭利なメッセージが読み取れます。危険思想がすぎる。
ここまできれいに別れられるカップルっているんですかね?私はそういう別れ方を経験したことがないです。今隙の糸が見えたので自分語りをしますが、3年付き合った元彼女のことを思い出してマジで彼女に対して申し訳ない気持ちになりました。
なんで笑顔で別れられるようにできないんですか?苦しくなってきたな。
カップルというより、サブカルすき人間のあるあるネタみたいなエピソードがちりばめられていて、そのどれもが心を刺しに来ます。
というのも
(これは僕がひねくれているからかもしれませんが)
やれ「じゃんけんのルールがどうした」だの
(多分これはブルートゥースイヤホンをお互いプレゼントする伏線ですが)
「イヤホンからまりがち」だの
「ガスタンクがどうした」だの
なんか絶妙に「こういうのどう思うよ?w」みたいなラインの気づきばかり提示されているのが気になりました。
実際私も「こいつら嫌いだな」と思ったわけですが、この物語が「私」の物語である以上、私が嫌いなのは「こういう人種」でありそれは「私」です。
要するに同族嫌悪というやつです。それを否応なしに自覚されられました。こっわ~
無意味に価値を見出すこと、気づきを刺さないでくれ…変わってるに価値を見出すことを刺さないでくれ…と思いながら見ていました。
よくない点
あんまりないです。
というか、主人公らの不合理性も思いやりのなさも周りの考えも何もかも「それが人間だから」の一言で一蹴されちゃうので、どんな指摘も意味をなさないのかなと思います。
どんな不合理も「それが恋愛でしょ?」の暴力性で解決されるので何も言えないですね。
その他
ココ最近マジで恋愛とか言う営みのやり方が分からなくなっていたので半ば参考資料みたいな感じで観ていました。
「へ〜普通の学生ってこういう風に恋愛に発展して想いを高めていくんですね〜」っていう気付きの連続。メモとっときゃよかったかな。
全方面のサブカルオタクが交わしたであろう会話を刺すために、主人公二人を詳しくしすぎた結果、サブカルを好きな私じゃなくてただのオタクになっていてウケました。
あの量の本読めるって大部分の社会生活を犠牲にしないと無理じゃないですか?
けれどバイトもいってるし麦君はお友達もたくさんいるし…時間の使い方を教わりたいですね…
いくつかのレビューに「これは監督からのアンチテーゼだ、皮肉だ」という記述がありましたが、まさにそうだろうと思います。エモい理想を押し込めた恋愛に憧れ価値観の共有を是とする最近の恋愛についてだとか、サブカル的コンテンツをステータスとして消費する若者に向けてかな、と私は考えます。
し、それを皮肉るかのように恐らく半分ぐらいの観客は「楽しみ~!」という前振りや、「エモかった」という感想とともに、映画の半券をインスタに載せるでしょう。
またそのうち半分ぐらいは出てきたサブカル要素について「私が知ってるあのコンテンツが出てきた!」ぐらいにしか考えないようにも思えます。どちらがどちらを皮肉ってるんでしたっけ?
絹は結局オダギリジョーと浮気したのでしょうか?
私はしたと思います。理由はないですが。
安易な男女判断(炎上!)ですが、精神的な寂しさを肉体的つながりで満たそうとするのって割と女性あるあるだと思ってる(n=3)のですが、どうなんでしょう。偏見です。
ちなみに男性が浮気するときは1000%性欲に屈した結果です。間違いありません。この違いも面白いですね。
ラスト、麦はきっとストリートビューをスクショして、元カノには送らないでしょう。
別れたら他人以下になるあのどうしようもないもどかしさとやるせなさが最後にまた私を刺しました。思い出を美しくパッキングしようが、避けられない運命です。付き合うことによって最も話の合う人間を一人失うことが確定するって悲しいですね。
まとめ
恋愛したことがある以上失恋したことがあるはずです。だからこそあらゆる人間に刺さるし共感を得られる、そのテーマ設定が見事だと感じました。
前半ではサブカルマンのあこがれを詰め込んでおいて、後半ではリアルなすれ違いと美しい別れを演出する。どこかで見た「ファンタジーかと思ったらホラーだった」がかなり端的に表していると思います。
苦しくなってきたので終わります。