独身異常男性が茶道に入門した話
25歳独身異常男性である私が茶道教室に通いはじめた件について、稽古録を兼ねてnoteに書き記すこととしたい。これを読んで茶に興味を示す異常者が一人でも増えてくれれば幸いである。
茶道といえば、お着物姿の気取った年配女性が「結構なお点前で」などと定型文を発しており、堅苦しく内向的なイメージをお持ちの方もいるかもしれない。
しかしいまや、日本国政府は文化外交の一環として茶道を活用している。
”日本文化がきっかけとなって日本に関心を持つに至る外国人は大変多い。外務省及び国際交流基金は、諸外国で良好な対日イメージを形成し、日本全体のブランド価値を高めるとともに、対日理解を促し、親日派・知日派を育成、訪日観光客を増やすため、海外での日本文化の紹介や、スポーツ、観光促進を通じた様々な事業を行っている。例えば、「在外公館文化事業」では、茶道、華道、武道などの日本の伝統文化やアニメ、マンガ、ファッションといった日本の現代文化、日本の食文化など日本の魅力を幅広く紹介している。”
(外務省『令和3年版外交青書』)
文化外交の是非については、帝京大の渡邊啓貴氏が下記報告書にて美しくまとめてくださっているので参照されたい。
”突き詰めていえば、真の外交とは「文化外交」であるという言い方もできる”
(渡邊啓貴「日本のソフトパワー戦略試論――国際文化交流から文化外交へ」日本国際フォーラム)
先生から「お茶ができる人はたくさんいる。英語を話せる人もたくさんいる。お茶ができて英語を話せる人は、文化を発信する人材となる。」というお言葉をいただいた。別に私には文化外交の担い手になりたいなどといった野望があるわけではないのだが、希少価値のある人間でありたいという欲求は人並みにあるらしい。
だが、いざ茶道に興味があっても、精神的、物理的、経済的なハードルの高さを感じ、一歩を踏み出せない方も多いのではないか。私が足跡を示すので安心してついてきてほしい。
1.教室を選ぶ
茶道を始めるにあたって、教室選びがまず最初にぶち当たる関門だと思われる。私は軽いノリで行きたかったので「(地域名) 茶道教室」で適当に検索してみた。一番上に出てきた教室のHPにピンときたのでとりあえず行ってみることにする。インターネットからアクセスしやすいということは、先生も生徒も比較的現代的な性格を持っていることが予想された。
私の決め手となったのは、
①先生が民間企業出身で海外経験豊富であること(英語での指導も可とのこと)
②お稽古日が固定されておらず日時を自由に選択できること
③体験教室をネット予約できる上に、体験料のクレジット払いが可能であったこと
以上の3点である。特に①は重視した点で、世界の茶文化のひとつとして、日本の茶文化である茶道について学びたいというのが私のスタンスなので、出来るだけ広い視野でお茶に向き合える環境がいいなと思ったわけである。
茶道にも色々な流派があるのだが、私は「表千家は保守、裏千家はリベラル」程度の認識で裏千家を選んだ。そのくらいのノリで良いと思う。(ほんまか?)
2.体験してみる
前置きが長くなったが、初回の体験教室の様子については、下記のとおりである。
私の訪れた教室は普通の住宅街にあり、ぱっとみ外からだと茶室があることに気づかない。大体こういうとき私は「ゆーてなんとかなるっしょ」のお気持ちでいるので、特に緊張することもなくチャイムを押す。先生は優しそうなおじいちゃんだった。八畳広間と水屋のある茶室に案内される。
作務衣に着替え、懐紙と帛紗を懐に入れ、扇子を持ち、正座をして「ご機嫌よろしゅう」でゲームスタート。何ひとつ礼儀作法を知らないので、言われるがまま動作を行う機械と化している。ちなみに「ご機嫌よろしゅう」は年がら年中何時でも使える魔法の言葉だそうで、コミュ障にぴったりだと思った。
四畳半の茶室へ案内され、躙口から入る。能阿弥が義政の前でお手前を披露したところから茶道が始まったとの説明を受ける。茶を学ぶと武士の礼儀作法が身につくらしい。躙口を初めて設けたのは利休だそう。茶室とは身分の上下なく人と人とが向き合う場である、という意味合いがある。茶室に入ると、街の中にいながら山小屋にいるかのような錯覚を覚える。市中山居というらしい。茶室は多様な種類の材木を用いて作られている。
茶道に興味を持った理由について尋ねられたため、「元々旅行が好きで、世界の茶文化に興味を持ち、日本の茶文化についても知りたいと思った」様の回答をした。絶対聞かれるだろうと思って用意しておいたわりには結構吃った。
茶講義はこの辺で終わりにして、広間へ戻る。ここでまずお菓子の食べ方を教わる。本日のお菓子は「枇杷」の上生菓子。もう枇杷の季節なのね。箸で取り、懐紙に乗せ、黒文字でいただく。美味しいけど緊張してモサモサする。茶が飲みてぇ。
続いて、お点前を見せていただき、薄茶をいただく。生のお点前を初めて見た。所作のひとつひとつが美しい。自分が同じようにする姿はとてもじゃないが想像できない。
茶碗は「菖蒲」。金の青海波が美しい。京都の焼き物とおっしゃっていたので、京焼と思われる。詳細は不明。聞けばよかった。茶碗の見方もよく分からないのでそんな余裕がなかった。高そうやなぁ、こんな良い茶碗使わせてもらえるんかぁくらいの感想しか出てこない。床の間にも白の菖蒲が生けてあった。茶道では季節を味わい尽くすんだなぁと思った。
最後に、帛紗捌きを教わる。これが茶道の基本。「5回10回やれば体が覚えるよ」とのこと。不器用な私には見よう見まねですらできない。こういう時怒られそうでビクビクしてしまう。
後半は正座に疲れ集中を欠いていた。「正座は慣れ。正座しているうちに脚の筋肉が正座に適応する」と言われた。正座は体に良いなどとも言われるが、あんな肉体に負荷をかけて良いことがあるわけないだろ。医学的な根拠があれば教えてほしい。
3.入門する
お稽古が終わり、事務的な案内を受ける。月謝は1回あたり4,000円、水屋料が月3,000円。月2回のお稽古で11,000円である。毎回のお稽古で次回のお稽古の予定を決めるようなスタイルらしい。休みは月4日程度で、10時-18時の好きな時間を選べる。結構ブラックだなと思った。生徒の側としてはこの自由度は大変ありがたいが。
教室選びの際はいくつか見て回るべきというのは確かにその通りだと思う。一度入門してしまえば簡単には変えることはできないので。家から教室へのアクセスは微妙に悪く(1時間はかかる)、再検討の余地はあると思っていた。しかし実際体験してみると、ノリも良く、これ以上の条件が見つかる気もしなかったため、直感に従いその場で入門を決めた。入門届を記入するだけである。
茶道というと格式高いイメージがあり、これまでの人生において触れたことすらない。少し前までは私には無縁のものだと思っていたが、やってみると案外普通だなというのが正直な感想である。「お茶が好き」という気持ちがいつまで続くか分からないが、気持ちの続く限りは続けてみようと思う。